相互理解が深まるパパ育業
まず100%に、達成後は日数増加も着手

お話を伺った人
住友生命保険相互会社
執行役常務
香山 真 さん
住友生命保険相互会社
人事部人事室・主任
鳥越 風美 さん
住友生命保険相互会社
企画部・副長
水上 慶人 さん
1907年の創業以来、「社会公共の福祉に貢献する」を理念とし、生命保険事業を通して顧客やその家族の人生を支えてきた「住友生命保険相互会社」。リスクに備えるという従来の価値に加え、健康増進活動を促すことでリスクそのものを減少させる“住友生命「Vitality」”といった保険商品により、生命保険による新たな価値観の提案をめざしています。人生100年時代の到来を踏まえて、「一人ひとりのよりよく生きる=ウェルビーイング」の実現に向けた取り組みを進める同社では、早期から男性育業推進にも着手。女性が大きな割合を占める組織ならではの、男性育業のメリットにも着目しているそうです。
住友生命の3つのポイント
- 1.女性活躍を進める上での問題提起が、男性育業推進のきっかけに
- 2.まずは100%取得を宣言。達成後「チャレンジ育休30Days」で日数増加に着手
- 3.対象者だけでなく上長にアプローチし、当たり前に育業しやすい風土を
経営者・管理職インタビュー
INTERVIEW 01_執行役常務 香山 真 さん
女性活躍推進上の問題提起が男性育業のきっかけに
「女性職員が9割を占める構成から、女性の力を最大限に発揮していくことが会社の成長につながると、女性活躍推進を進めてきました。そのなかで、女性のみに活躍を強いるのではなく、男性も女性と一緒に家庭をつくっていく働き方を実現すべきではという問題提起があったことが、男性育業推進のきっかけです」と話すのは住友生命の香山常務。同社では2006年から男性育業推進に着手し、法を上回る支援制度の整備から開始した。2019年には当時の社長が100%の取得をめざすことを宣言し、一般事業主行動計画にも明記。同年度内に初めて男性育業取得率100%を達成した。
「推進当初、男性育業についてはほぼ実績ゼロの状態。そこから制度の周知に取り組み、徐々に取得者が増えてきたものの、『取る人は取るが自分には無関係』といった認識の職員も多く頭打ちの感がありました。しかし、会社として必要なことだから取り組むのだという方針を明確にしたトップメッセージと、当事者だけでなく上司への働きかけにより、取得することが当たり前という雰囲気がひろがっていったのです」
「育業を『家庭や個人のための制度』と限定してしまうと、『うちの妻は専業主婦で子育ても任せられる』といったケースでは、育業する理由がなくなってしまう。そうではなく、育業は『自身の学びと成長につながるもの』であり、だからこそ会社として強く推奨するものだと、視点の追加・変更を促すことで、全員にチャンスがあれば掴むべきと伝えました」。こうして、男性育業100%を連続達成した同社では、2023年秋に「チャレンジ育休30Days」を宣言。長期の育業を積極的に推奨し、現在では30日以上の育業が3人に1人の割合を占めるまでになったという。
「誰もが当たり前に取り組むべきものであり、できれば一定以上の期間、育業すべきという認識が、社内全体に広がっている手ごたえを感じます」

育業で得られる相互理解が経営戦略にもつながる
同社では、育児と業務を両立して取り組む女性の職員が職種を問わず多く、それを束ねるマネジメント職に、比較的若い世代から就く機会も少なくないという。また、顧客のライフステージに寄り添う必要がある業務内容からも、育業を通じて得られる相互理解が、職務上大いに役立つと香山常務は強調する。
「働きながら育児をすることの大変さや楽しさを知ることで、同じ立場にある女性職員との共通項が増え、互いの距離を縮める要因になっているのではないでしょうか。育業中に育児日記を共有してアドバイスをもらうなど、職場の仲間と一緒に育児を楽しんでいる事例もあります。お客さまの人生を支えるという当社のミッションを実現するうえでも、それを自分の人生になぞらえることができるというのは、非常に大きな意味を持つことだと考えています。また、働きやすい会社であるとの認知が広がったのも良い点でした」
仕事が好きだから休みたくない、会社への貢献を止めたくないという個人の考え方は、一番の障壁だったという。
「長い会社員人生に対して、育業の期間はごく短期。視点を長く持つことで、目の前に続く業務と一度限りの育児のどちらを優先すべきかは自ずと理解できるでしょう。現場で頑張っている職員には持ちづらいこうした視点を、会社から提示することも必要でした」
「for your well-being」を掲げ、社会公共の福祉への貢献をめざす同社。そのステークホルダーは顧客に限らず、職員、その家族、取引先や地域住民と幅広い。
「ウェルビーイングは多義的な概念ですが、当社では『一人ひとりのより良く生きる』と読み解いています。『一人ひとり』と『より良く』の両方が大切であり、個人によって異なる価値観を尊重しながら、昨日より今日、今日より明日と、少しでも良くなっていく生き方を模索してほしいと考えているのです。そうした観点からも、パパ育業はウェルビーイングに確かにつながっていると感じます」

INTERVIEW 02_人事部人事室・主任 鳥越 風美 さん
対象者から上長へアプローチを拡大し育業を勧奨
2022年より同社のDE&Iを担当し、男性育業推進に関わるさまざまな施策を企画・運営している鳥越さん。当時、同社はすでに男性育業取得率100%を達成していたため、次のステップとして、いかにその日数を長期化させ、より中身の伴った育業経験をしてもらうかに取り組んできた。
「対象者への個別の声かけ中心だった従来の取得勧奨運営を、上長へのアプローチも含めた取り組みにレベルアップ。同時に、長期間の育業経験者へのヒアリングを重ね、『育業開始前にやるべきこと』をまとめて社内に周知するなど、スムーズな育業と復帰に必要な具体的なサポートも行いました」
社長による「チャレンジ育休30Days」宣言を受けて、上長への働きかけも一層強化。外部講師による「上司のための育休マネジメント」と題したセミナーも開催した。
「長期間の育業は、上司に言いづらい、同僚に迷惑をかけないか心配といった声が多く聞かれ、周囲へのアプローチの必要性を感じました。上司としての日頃の具体的な声かけや業務分担、育業中の業務を補ってくれた職員へのフォローの仕方を中心に、業務の属人化を防ぎ、男女問わず誰もが育業しやすい組織づくりをしていくための実践的な内容を盛り込みました」
この背景には、長期間の育業は難しいのではないかという声が届いていたことがあるという。特に、営業職員をまとめる立場の男性職員が育業の対象となっているケースでは、本人だけでなく周囲からも「育業の大切さは理解するが、実際問題今抜けて大丈夫なのか」といった相談が届いたそうだ。
「その一方で、これを機に、営業現場におけるマネジメントの在り方についても見直しを図っていくべきではないかという声が、それ以上にあがったことは驚きでした。リーダーがすべてを統率するスタイルではなく、サブリーダーの育成も兼ねて思い切った役割分担を促したり、個々のメンバーが自律的に動ける体制づくりを促進したりと、『長期間の育業を可能にするために』という観点から派生した別の取組みも進んでいて、こうした点も大きな成果だと思っています」

実用的な帳票や体験談の提供で取得をあと押し
育業申請は、会社にとっては年間数百件におよぶ一般的な手続きでも、個々の職員にとっては一生のうちに何度もあるものではない。少しでも申請にかかる負荷を軽減したいと考えた鳥越さんは、育業申請に関する「事前報告書」や「引継連絡書」などの帳票も作成した。これらは、人事部への申請とは別に、自部署内を中心としたコミュニケーションに利用できるものだ。
「上司への相談や同僚への引き継ぎの際に『何からどう話せばいいのかわからない』という声を受けてのものです。各部署から意見を募り、必要と思われる内容をピックアップしてまとめました」
さらに、実際に育業を経験した男性職員から募った体験談をまとめた資料も作成。「パパ育休のすすめ」と題して、常に全職員がアクセス可能なイントラネット上に公開しているそうだ。
「体験談は読み応えのあるボリュームで、編集にも相当な時間を掛けています。家族の時間を大切にしつつ、それを仕事にも活かしていきたいというポジティブな想いに溢れているので、思わず笑顔になってしまいます」
2021年度から2023年度にかけて、3年連続で男性育業取得率100%を達成しており、「チャレンジ育休30Days」により取得日数に関しても着々と実績を向上させている。確かな手応えを感じながらも、引き続き、会社を挙げて取り組んでいきたいと鳥越さんは話す。
「男性だから、女性だからではなく、男女問わず気兼ねなく育業できる会社にしていきたいという想いを込めて施策を実行しています。こうした取り組みが男性育業を当たり前のものとし、ひいては社会全体のウェルビーイングに貢献できることを願っています」

従業員インタビュー
INTERVIEW 03_企画部・副長 水上 慶人 さん
育業促進には制度だけでなく風土が大切
2013年に入社し、現在は企画部で副長を務める水上さん。入社10年目となる2023年秋に、第一子の誕生を受けて約1ヶ月のパパ育業に入った。
「会社が育業を推奨していることは感じていましたし、実際に身近にも育業経験者の先輩がいたことから、自身が対象となればぜひ育業しようと考えていました。ちょうど2023年10月に『チャレンジ育休30Days』がスタートしたタイミングだったこともあり、せっかくなら1ヶ月取得しようと決めました」
これまでにも、期間こそ長くないものの、職場を同じくする同僚にも育業経験者がおり、その業務をフォローした経験もあった。時期や期間の予測が立てやすい育業では、事前に業務を調整することでスムーズな育業移行と業務復帰が可能だと感じており、実際に、引き継ぎから休業、復帰までの流れを見てきたことで、自身の育業もイメージしやすかったという。
育業にあたっては、およそ半年前に直属の上司に相談。そのタイミングですでにスケジュール感や引き継ぎ内容などの概要を伝えたそうだ。
「上司からは『もちろん後押しするよ』と受け入れられ、特に緊張が走るようなこともなかったです(笑)。上司としてもしっかり取得をサポートすべきと考えていらっしゃるのかなと感じました」と水上さん。男性育業推進においては、制度だけでなく社内の風土が重要だと話す。
「どんなに制度が整っていても、社内の風土としてその活用をよしとしないのであれば、難しいでしょう。その点、当社にはすでに育業は当たり前という空気があり、それがスムーズな育業推進につながっているのだと思います」

1ヶ月はあっという間!次があればさらに長期も
職場を離れる期間の業務については特に心配はなかったという水上さん。育業中は初めての育児に夫婦で取り組み、慣れるのに精一杯で、1ヶ月の期間では十分でないと感じることもあったという。
「妻には感謝されましたし、自分でも育業してよかったと思っています。ただ、1ヶ月は本当にあっという間でした。もし次の機会があれば、業務との兼ね合いもありますが、もう少し長く育業したいと思いましたね」
子どもの誕生を機に自宅で食事を取ることも増え、料理の腕が向上。育業は、普段はなかなか取り組めない家事のスキルを磨く、良い機会でもあったそうだ。
「子育ての機会が育業中に限られるのはもったいないと感じていたので、フレックスや在宅勤務の制度が整っているのはありがたいと感じます。これまで意識せず使ってきた制度ですが、育児の時間を確保しやすいというメリットには改めて気づきました」
復帰後の現在、同じ部署に育業希望者がおり、申請の流れや注意点をアドバイスするなど、業務のフォローはもちろん、それ以外の部分でもサポートしている。自身の育業に際しては、人事担当者とのチャットツールによる個別のやりとりに、大いに助けられたそうだ。
「ほかにも子育て中の職員が多い部署なので、少し大きいお子さんを持つ方を見て、自分の行く先を想像したりしています。子育ての先輩方が身近にいるのは、心強いですね」と水上さん。次世代の職員は、すでに男性育業を当然のものとして捉えていると感じており、今後もこうした動きが当たり前に社会に定着していくことを期待すると締めくくった。
