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「令和2年度 介護と仕事の両立推進シンポジウム」講演要旨

1 開催日時:令和2年10月9日(金)13時30分~16時30分
2 会場:日経カンファレンスルーム
3 定員:100名
4 内容:

【基調講演】
「介護と多様な働き方の両立実現に向けて - With/After コロナの新しい生活様式を踏まえて -」
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 執行役員 主席研究員  矢島 洋子 氏

 コロナ禍の緊急事態宣言下での要介護者と家族の状況について、当社が独自に調査をしたデータをご紹介します。今回対象にした社会人1万人の方の中で、要介護家族がいる方は全体で14.1%。緊急事態宣言中に介護関連サービスの利用がどう変化したかについては、自主的にすべてのサービスや施設等の利用を控えたという方が12.5%、利用回数を減らした方も8.2%いました。今のコロナ禍の中で、介護や様々なことを理由とした、女性の離職の多さということも問題になっています。
 次に、基本的な仕事と介護の両立の状況についての課題を見ていきます。認知症の介護を不安に思われている方が多くいます。今、怪我や病気をしても、早い段階でリハビリし、元気に退院できる方が増えています。そうなると、最初に介護が必要な状態になるのが認知症ということです。正社員で働きながら身体介護をしている方は11.3%。誰がやっているのかというと介護サービス事業者で、この割合が高いのです。すべてを自分だけで担うのではなく、サービスの利用、自身の役割、働き方という組み合わせで考えることが大事です。
 在宅介護における平均費用を調査してみると、一番多いのは月1万円~3万円で35.1%。月々5万円以内までが全体の8割強という状況なので、在宅だとそこまで費用がかかっていない印象です。また、介護保険を限度額いっぱい使っているという方は、在宅で36%しかいませんでした。その理由は、「そこまでのサービスが必要ない」との回答が最も多いのです。一方で、企業の両立支援制度、働き方の問題もあります。介護休暇、介護休業というのは、あまり使われていない状況です。令和元年度の雇用均等基本調査では、介護休業取得者のいる事業所の割合は2.2%にすぎないという結果です。このような状態で、介護についてどこに相談しているのかというと、ケアマネージャーさんが一番多く、勤務先へ相談している割合は大変低い状況。離職した人では、12.9%しか相談されていません。
 実際に今企業がどんな取り組みをしているのかというと、「法定の制度整備は行っている」というケースが9割弱。制度を利用しやすい職場を作る、相談窓口を作るということをやっている企業は、全体の3割以下です。今テレワークが普及してきましたが、テレワークができると柔軟に働くという点において、子育てでも介護でもかなり工夫の余地が出てきます。介護や育児に限らず、多くの社員が柔軟な働き方をするようになってきたため、いよいよ企業が人事制度を見直す時期にきていると考えられます。

【企業の取組事例紹介】

■イーソル株式会社 管理部 人材開発課 課長・働き方改革推進責任者
澤田 綾子 氏

 当社では2009年より、専任の担当者を置き、人材施策に注力しています。労働力人口の減少、介護負荷の増大という今後の状況に対し、事前準備や対策が必要だという課題認識を持っていました。その対策として実施したのが、「働き方改革」をはじめ、「実態調査」、「両立支援に関する情報提供」。加えてそれ以前から実施している「自己申告制度」です。これは年に1回、これまでを振り返り、今後のキャリアを考える制度で、個人事情も把握をしています。また、外部のEAPも活用しながら、相談体制を整えています。
 最も重要と考える「働き方改革」では、「楽しい“働き方”チャレンジ」として、全社プロジェクトで働き方の見直しを進めた上で、人事制度、施策の整備拡充を進めました。全社プロジェクトでは約8ヵ月を1クールとしてチームごとに働き方の見直しを実施。定例会議を週1回から月1回行い、話し合いながら課題への対策を進めました。人事制度については、公正かつオープンな人事考課制度とし、生産性の高い人材を評価する項目を設けました。それらの土台の上に位置づけたのが、多様な働き方、休み方のための制度です。自由を問わないテレワークやフレックス制度も導入し、介護や育児に直面している方も活用しています。また、短時間勤務以外に、介護事由の場合、週休3日で働ける短日勤務も可としています。多様な休み方のための制度としては、法定の介護休業、介護休暇に加え、失効した有給休暇を積み立てて、一定の要件で利用できる「積立保存有給休暇」も設けています。これからの働き方をサポートする制度として、キャリア開発支援にも力を入れています。
 現行の弊社の制度は、働き方に見合った報酬を支払うという考えが軸です。時間的な制約が生じた場合も労働時間を調整しながら、できるだけ意欲的に生産性高く働き続けてもらえるよう支えていきたいと考えています。

■オグラ宝石精機工業株式会社 総務部 部長
渡邉 勘一 氏

 当社が介護と仕事の両立に取り組んだきっかけは奨励金を利用したいと、東京都の中小企業雇用環境整備事業奨励金に申請を出したことにあります。規定のプログラムでは、まずアンケートによる現状把握が必要でした。
アンケートを実施して驚いたのが、社内に介護の可能性のある人が相当数いたことでした。今後5年間で介護の可能性が相当あるかという項目では、164名の回答があり、104名(63%)が5年以内に可能性がある、との結果でした。また、総務としては残念だったのは、当然会社には介護休業制度を設けていますが、このことを知らない社員が多くいたことです。
 会社として、このアンケート結果を社員と共有すること、そして会社の介護休業制度があることを周知する必要があるとわかりました。そこで、全社として勉強会を実施。アンケート結果、介護保険制度の概要、介護休業規定のあらましなどを紹介し、皆で勉強しました。資料の制作にあたっては、本社のある大田区の介護保険課に相談し、介護保険制度は地方自治体によって違うこと、地域格差が大きいことを教えていただきました。
 介護の問題は、それぞれ事情が違うので、個別に相談会を実施しました。本社には大田区の介護保険課、埼玉工場は行田市の高齢者福祉課の方々にお越しいただき、本社では5名、埼玉工場では7名が個別相談に参加しました。また、情報提供、壁新聞などを社内に定期的に掲示しました。
 社内では家族の介護のため、時短勤務を1年利用したケース、介護休業をとったケースなどの利用実績があります。当社では行政や専門家を巻き込み、一緒に進められたことが良かったと感じております。

■アズテック株式会社 取締役・総務管理部 部長
小倉 健太郎 氏

 当社では、2010年よりテレワーク制度を開始しました。実際に親の介護にあたった女性社員のケースをもとに、テレワークを利用した介護と仕事の両立の事例をご紹介します。女性社員から会社に「父親が病気で寝たきり状態になり、24時間体制での介護が必要」との相談がありました。当時、お子さんも1歳で、育児と介護を兼任しなければいけない状況にあり、通勤時間や移動時間を少しでも勤務にあてられないかと、本人からテレワークの申請がありました。当社の場合、テレワーク用のセットがあり、システムへの接続方法や就業規則、ルールなどがセット化されており、「明日からテレワークをやってください」ということが可能です。
 具体的なテレワーク制度の内容としては3つあり、一つは「就業規則」。現在、介護制度は要介護3以上となっていますが、こちらも撤回する運びとなっています。休業手当は、基本給は通常勤務と変わらない形にしています。規定の7時間労働に満たない場合は、みなし労働時間制度を用いて基本給を下げる場合もあります。二つ目は「システムの選定」。当社ではリモートデスクトップを選択し、10名の利用で1人当たりの1ヵ月の利用料5千円で運用しています。顧客の機密情報を扱う上で、セキュリティが重要になってきますので、その点を考慮して決めました。最後に「社内ルール」を設け、テレワークを利用したときに申請方法はどうするか、書類の様式をどうするか、緊急事態のときにはどうアクションすればいいのか、などをあらかじめ基本ルールとして作成。就労環境の見取り図も提出してもらい、PC画面が見えないようにする等のセキュリティ管理を徹底しています。
 このような体制を整えることで、当社では介護が必要となった翌日からテレワーク移行を実施できました。

トークショー

「介護に直面する従業員を孤立・離職させない、企業に求められる対応とは ~自身の介護経験を踏まえて~」
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 執行役員 主席研究員 
矢島 洋子 氏
株式会社ワーク&ケアバランス研究所 代表取締役
和氣 美枝 氏

①従業員が介護に直面した時の対応

矢島氏:介護を理由に従業員を離職させないため、企業に求められるものとは何か、意見交換を進めます。介護する立場でもある和氣さんに、介護に直面した状況について伺います。

和氣氏:一番大変だったのは、言葉が分からないことです。「国保」「自立支援」「地方包括支援センター」と言われてもわからず、言葉と制度に振り回される日々でした。

矢島氏:社会保障制度全般、日本では大人でもよく理解していない人が多いと思います。できれば介護保険を支払うようになる40歳の段階で、国からもう少し通知とか説明があってもいいのではと。

②具体的に企業にはどんな対応を求めるのか

矢島氏:介護に直面した際、企業にどんな対応を求めるのか、伺います。

和氣氏:25歳の時、父が亡くなったことを会社に報告すると、専業主婦だった母を扶養にするか、総務から聞かれました。若い私には「扶養」という言葉が重く、全力で拒否した記憶があります。ただ今になってわかるのは、この言葉の意味は「母を私の健康保険の扶養にしますか」ということだったのです。要は社会保険の知識の欠如から起きた事態です。若い頃から社会保険の言葉に慣れておくことが大事であり、企業にもその周知に取り組んでいただきたいです。

矢島氏:若いから知らないという場合もありますが、高齢だから余計についていけないという場合もあります。本当に情報提供が大事です。

③介護に直面する前に必要な支援について

矢島氏:介護に直面する前に必要な支援について、どうお考えでしょう。

和氣氏:介護というのは、漠然と怖いイメージがありますが、介護は日常のすぐそばにあり、当たり前のことだという風潮をつくっていってほしいです。企業としても、仕事と介護の両立支援をしますということを、経営者のメッセージとして発していただきたい。その上で、介護が始まったら、地域包括支援センターに行くこと、上司に報告することです。そういう分かりやすい行動、支援を明示することが求められます。

矢島氏:地域包括支援センターは、気軽に相談に乗ってくれます。できたら一回訪ねて、高齢の親御さんのことを相談しておくと、何かあったときにスムーズです。また、ケアマネージャーさんは、自治体で認定されたリストから選べます。入院した病院から直接紹介されると、選べることを知らない人も多くいます。

④介護で直面していない社員向けの研修において

矢島氏:介護が始まっていない社員を対象にした研修での注意点について伺います。

和氣氏:知らない言葉を一気に言われても覚えられないので、難しい話をしないようにしています。重要なのは情報源。地域包括支援センターの名前を憶えてもらうことを最低限しています。

矢島氏:介護保険制度の具体的な手続きなどは素通りになってしまうので、会社としては「介護に直面しても皆さんに辞めないでほしいと本気で考えている」と伝えていただくことが一番重要だと思います。

⑤介護に直面した社員に向けて必要な支援とは

矢島氏:実際に介護に直面した方々に対して必要な支援について伺います。

和氣氏:異業種、業態によって平日が公休という会社もあると思いますが、平日も休めるということは、必ず必要です。ただ、私たち介護者は普通に仕事をさせてほしいのです。繁忙期の際にはショートステイを利用すれば、残業や出張も可能です。また、仕事と介護の両立をしている本人の支援も然りですが、それ以上に支え手の支援、支え手の評価をしてほしいと思います。

矢島氏:働いて成果を出した分だけ評価して処遇されるという、そういう公平性を担保しないと長続きしないと思います。優遇するのではなくて、短時間勤務、短日勤務になったら、その分お給料は減るのが当然ですが、評価は時間ではなく成果でなされるように。また、時短勤務の人のサポートした周りの人の評価もきちんとすることが必要です。

⑥コロナ禍で、テレワークを導入する際の注意点について

矢島氏:育児・介護休業法上は、テレワークというのはもともと選択肢に入っていませんでした。コロナ禍で増えた、テレワークを使う際の注意点についてお聞かせください。

和氣氏:在宅勤務と在宅介護はまったく違う話です。介護者も、事業主も、在宅勤務だから介護ができるというのは違う、という点はしっかり認識を持ってもらいたいです。また、慣れない在宅勤務はストレスフル。在宅勤務とは言え、顔が見える、声が聞こえる、そういった外とつながれる機会が必要だと感じます。

矢島氏:両立している方って仕事も介護もやっていて大変そうと周りから見られますが、実は職場で介護のストレスを発散している面があります。また、「コロナ禍の中での介護対策」については、どうお考えですか。

和氣氏:家族の意向でサービス辞退をしている人、非常に多いのですが、できるだけ高齢者においては、生活リズムは変えてほしくないと。フレイルや認知症が進むといった心配があります。なお、コロナの矛先が見えない中ですが、これがずっと続くとは思いません。だからこそ臨機応変な対応というのを、企業にも協力いただきたいと思います。

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