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「令和3年度 介護と仕事の両立推進シンポジウム」講演要旨
1 開催日時:令和3年10月28日(木)13時30分~16時30分
2 開催形式:オンライン(Zoomを利用したライブ配信)
3 定員:200名
4 内容:
【基調講演】
「With コロナ時代の両立支援を考える〜介護をめぐる社員の悩み、企業はどう向き合う?〜」
株式会社パソナライフケア 介護支援専門員 継枝 綾子 氏
介護離職者は年間10万人と言われています。介護の課題は全国どこに行っても同じ悩み、課題を抱えてらっしゃると感じます。今回は5つのテーマでご紹介します。
1.日本における高齢化の状況
日本の総人口1億2500万人(2021年)のうち、65歳以上の高齢者の人口は3600万人で、高齢化率28.7%です。2025年に団塊世代の方々が、全員75歳になって、大介護時代がやってきますので、社員さんをフォローする体制を整えていただきたいと思います。介護を理由に仕事を辞めても、負担が増すというデータが出ていますから、どう働き続けながら両立をしたらいいか、前向きに考えていくことが大事です。介護を一人で抱え込み、共倒れしないように、医療とか介護の専門家との連携を促して、プロに任せましょう。
2.社員から介護の相談を受けたときの対応
介護について悩んだ方に対して、まずは傾聴の姿勢が大事です。そして、要介護者のお住まいの地域にある地域包括支援センターに相談するよう背中を押してください。さまざまな専門家、保健師、社会福祉士、主任ケアマネジャーなどが相談に乗ってくれます。面談では厚生労働省のホームページでダウンロードができる仕事と介護の両立の面談シートを活用しましょう。初回面談では、仕事と介護の両立支援がどこまでできているかチェックをしてください。
3.育児と介護のダブルケアの実態と特性
晩婚化、晩産化を背景に、育児期にある者が、親の介護も同時に担うというダブルケア問題が、社会的関心を集めています。内閣府の推計によると、ダブルケアを行う者の人口は、全国で約25万人とされ、そのうち30歳から40歳代が約8割となっています。認知症や脳卒中、高齢による衰弱など、介護は予測なく、突然始まります。育児はなるべく親が見る、介護は介護のプロに任せるということを心掛けていただきたいと思います。
4.介護と仕事の両立支援のために重要なこと
仕事と介護の両立をするためには、会社の介護関連の制度を上手に活用していくことが大事です。介護休業期間は、介護をするだけではなく、介護に関する長期的方針を決めたり、介護をするための体制をつくったりすることが重要です。社員の皆さん自身も、ケアマネジャーと一緒にコーディネートすることが大事になってきます。子育てのための育児休業と同様の制度と理解している社員が少なくない点に留意し、介護休業は、仕事と介護の両立のためのマネジメント期間であることを説明できることが大事です。
5.まとめ
介護は始まったら長いので、企業の皆さまには、1回の面談で終わるのではなく、傾聴、提供、促進を実践していただきたいです。
介護の経験が全くなかったとしても、相談者の悩みに「傾聴」し、一緒に課題を整理してあげてください。また、地域包括支援センターや介護関連の制度、相談窓口などがあれば、それを積極的に周知する「提供」を行いましょう。そして、半日休暇や介護休暇などを使って介護のためのサービスを行政の窓口に行って申請するよう背中を押して「促進」し、そのための働き方改革も進めていただきたいと思います。
企業の取組事例紹介①
EY Japan 株式会社
D&Iディレクター 梅田 惠 氏
EY Japanの両立支援制度の方針は、プロフェッショナルが、プロとして活躍しやすい環境を整えるということで、2018年ぐらいから在宅勤務やオフィスのフリーアドレス化を進めています。また、時間の制限をできるだけ緩やかにして、社員が自律的に、自分でキャリアと個人生活の切り替えができるように選択肢を増やして、仕事で成果を出せるように、制度の見直しや新しい制度の導入をしております。
介護とキャリアの両立支援に活用できる制度については、一つの制度で色々な人が、その人のステータスに合わせて使えるように、人事制度もユニバーサルデザインに考えています。
よく活用されているのが「フレキシブルワークプログラム」で、1日の時間、1週間の働く日を短くする短時間勤務とフレックス勤務を併用できるようにしています。お子さんの成長によっても介護をしている人の状態によっても働きやすい時間が違ってくるので、自由に組み合わせができるようにしています。
また、「コアなしフレックスタイム」にすることで、より自由度を高くしています。人気があるのが「中抜け制度」で、時間単位でちょっと抜けることによって、お子さんや介護をしている対象の病院の付き添いに行くことができます。そういうことによって離職を防ぐことができます。コロナになってから、「フレックスアンドリモートプログラム」を発表しました。
EYでは、働き方改革ではなく休み方を改革しないと、働き方改革ができないのではということで、どうやってもっと休んでもらえるように、休みやすくするか。自分もリフレッシュして、家族のケアもして、仕事に向かい合ってもらうかということを検討しています。
職務定義やリモートで働いている社員の評価も、きちんと管理職と連携していかなくてはなりません。今の管理職は、多様な価値観、多様な働き方をしている部下をまとめて成果を出していかなくてはいけない。自分もプレイングマネジャーで、自分もそういうワーク&ライフの課題があるというようなところもあるので、管理職を元気づけて、部下のワーク&ライフをリードしてくれるように、社内の研修やコミュニケーション、コミュニティーの活動の支援なども含めて、やっていきたいと考えています。
企業の取組事例紹介②
株式会社 白川プロ
代表取締役社長 白川 亜弥 氏
介護と仕事の両立支援に取り組み始めたきっかけは、あるとき、介護離職をテーマにした雑誌を見て、85歳以上の高齢者の3割が要介護認定を受けているということを知ったことです。社員の2割が要介護の親を抱えている可能性があり、他人事ではないと思いました。
そこで、わが社では、東京都のワークライフバランス推進助成金を使って、本格的に社内の制度を整えていきました。まず初めに、介護の実態やニーズを知るために、全社員を対象にしたアンケートを実施すると、想像以上にかなり身に迫った問題であることが分かりました。これを受けて、直ちに社長名での「仕事と介護の両立支援宣言」を出し、会社が今後、両立支援に取り組んでいくという姿勢を明らかにしました。
次に、社内に介護相談窓口を設置して、社会保険事務を担当する社員を、介護相談員として任命しました。また、いざ介護に直面したときに慌ててしまわないための心構えや、会社で使える制度などを簡単にまとめた冊子を制作し、40歳以上の社員、全員に配布しました。
それから、介護のプロの方をお招きして、仕事と介護の両立セミナーを年2回、個別相談会は随時開催しています。
また、社内の制度の整備、見直しを行いました。法定では年5日の介護休暇を年10日に、対象家族が二人の場合、法定では年10日となっているところを、20日にしました。さらに、休暇中の給与については、基本賃金の8割を支給することにしました。
会社独自の制度としては、積立有給休暇制度があります。これは、通常2年間で失効してしまう有給休暇の未消化分を積み立てて、介護休暇として利用する制度で、もちろん有給です。
また、病院の付き添いなど午前中、午後の数時間だけ休みが欲しいという社員も多くいることから、半日単位の有給休暇制度を導入しています。
この他にも、担当する番組によって、いろいろな勤務時間の部署がありますので、必要に応じた働き方のできる部署への異動など、さまざまなバックアップ体制を整えています。
この結果、現在までに介護休業が6名、介護休暇が5名、積み立て有給休暇が6名、時短勤務やシフト変更などの、状況に応じた勤務体制の変更は6名の社員が、これらの制度を利用し、制度を導入してから、介護を理由にした退職者はおりません。
さらに現在は、残念ながら体を壊してしまった社員が、安心して働きながら治療を続けるよう、治療と仕事の両立支援制度を導入するため準備をしています。
企業は、社員とその後ろにいる家族みんなの人生を背負っていく責任があります。会社が社員たちに感謝し、安心して働ける環境を提供することで、社員は仕事へのモチベーションが上がり、仕事の質が向上する。仕事の質が担保されると会社の評価が上がり、優秀な人材を獲得できる。わが社のワークライフバランスは福利厚生でありながら経営戦略の重要な柱にもなっています。
一人一人の顔が見える支援を目指し、社員が今何を悩んでいるのか、これからどんな人生を送りたいのか、そのために、今どんな働き方がしたいのか。工夫を凝らして、その人のために会社ができる最善の方法を探っていく。今後もさらなる支援の形をつくっていきたいと思っています。
企業の取組事例紹介③
株式会社DACホールディングス
人事部 人事管理課 係長 石森 あみ 氏
介護と仕事の両立支援に取り組んだきっかけは、弊社の平均年齢が33.1歳と若い社員が多いことで、社長夫人から「社員の今後のためにも今のうちにできる準備を」という警鐘を鳴らしていただいたことです。
弊社はまず社員向けに、介護の仕方ではなく、介護に対する心構えをもってもらう「仕事と介護の両立支援セミナー」を実施しました。人生や生活を考えたときに、お金や保障の話や社会の制度、会社の制度など、介護離職をせずに働き続けるためにはどうしたらよいかという知識を身に付けてもらえることや、会社として、そういった状況になってもサポートできるということを伝えたほうがよいのではと考えたからです。
セミナーは3部構成で、まず初めに介護と育児の状況などとの違い、介護は突然やってくるということと、費用面や期間のお話、他人事ではなく自分にも遠くないという認識を持ってもらうようにしました。次に、会社の制度や社会的な制度を説明し、介護保険や介護休業、また民間のサービス、実際に介護に直面したときに相談する相談先などを伝えました。最後に、重要性の高いものをおさらいして、大事な部分を復習し、ケーススタディーを実施しています。
セミナー後のアンケートでは、介護の不安が解消された、やや解消されたと答えてくれた方が、参加者の95%にもなりました。
社内の制度については、一つ目に勤務時間の選択制度があります。時短制度、時差制度、残業免除制度です。次に、再雇用制度です。弊社での就労実績のある者は、その年数にかかわらず、正社員、契約社員、アルバイト、パートなど、本人の希望に合わせた雇用形態で再雇用する制度となっています。また、休暇制度として、自身の健康管理、家族の介護や看護、社会的意義のある医療行為のために利用できる「へるほり」という特別休暇があります。
テレワーク勤務制度については、育児中の社員だけでなく、介護やご家族の疾病時など今まででは休まなければいけない、最悪辞めなければいけないという社員たちが、選択肢の一つとして活用してくれています。
今後の展望ですが、一つは実際に社員たちが介護に直面したときに、相談しに来てくれる環境や体制づくりと、実際に困った社員たちへのフォローです。二つ目に、社員一人一人が違う環境、状況を背負っている中で、自分たちが声を上げて変えていこうという環境づくり、トップダウンからボトムアップ型へのシフトをしていきたいと考えています。
いつ起きるか分からない介護だからこそ、できるだけ早い時期に社員の不安を和らげて、介護に直面する前から事前の心構えができるよう、社員に情報提供をすることが重要だと考えています。また、直面した際には、どうしたら乗り越えられるかを一緒に考えられるサポートを推進し、さまざまな状況の中でも、社員一人一人が活躍できる会社づくりをしていきたいと思っています。
トークショー
「若年性認知症の母と生きる〜家族を介護する社員が、職場に求めるものとは〜」
ゲスト:フリーアナウンサー 岩佐 まり 氏
聞き手:株式会社パソナライフケア 介護支援専門員 継枝 綾子 氏
岩佐氏:私の母は、若年性のアルツハイマー型の認知症です。物忘れが始まったときが55歳のとき。現在は73歳で、重い認知症になっております。私はそんな母を介護しながら、フリーアナウンサーとしてのお仕事もさせていただいております。今日はこの介護経験を通して、お仕事をする上でどんなことが問題だったのかを皆さんにお話しさせていただけたらと思っています。
現在、就労者の1割強が介護を担っているという状況で、年間10万人が介護離職をしているのが現状だそうです。介護が必要になった主な原因は、1位が認知症、2位が脳血管疾患です。
私の母もアルツハイマー型の認知症になりました。あるとき母に「あしたの朝、6時に電話で起こしてほしい」と頼んだのですが、翌朝6時になっても電話がかかってこなかったのです。母は、「そんなの聞いてない」と言ったので、記憶が消えているのだと思いました。あちこち病院を駆け巡って、最後に出た病名がアルツハイマー型の認知症でした。母はワンワン泣いて、父は「こんな病気になるなんて。俺は介護なんてできないぞ」と言うので、私が介護するという話をしました。
その後症状が進んできて、母を東京に呼んで二人の生活が始まりました。
私は仕事をして、月曜日から金曜日まではデイサービスを利用していましたが、デイサービスが16:30までしか使えなかったので、私が帰るまで1時間、母に一人で留守番をしてもらいました。でも、留守番を始めて3日目に徘徊が始まったのです。それで、24時間365日預かってくれるデイサービス、小規模多機能型を利用するようになって落ち着きました。
その後、母が大腿骨骨折で入院し、面会や医師との面談のため病院に通うようになると、私には昼間の時間が必要になり、仕事と介護の両立に限界を感じ始めました。周りから私に向けられる視線は、全部介護。そんなふうになってしまったのです。
あるとき職場の先輩が、「実は僕も認知症の母親を介護したことがある」と話し掛けてきてくれました。職場のみんなが私に対して介護の話をしてくれるようになりました。介護って、みんなする可能性がある、だから介護が悪いわけじゃなくて、介護と仕事を両立させられないことが問題だと思ったのです。
継枝氏:岩佐さんはどうやって、前向きに何でも挑戦されたのでしょうか。
岩佐氏:もう真剣、一生懸命。ただ、制度を使わないと仕事ができないということは分かりました。介護保険外のサービスは沢山あるのです。私もこれだけの制度を使うのに、実は4年もかかったぐらい、制度も知らなかった。でも、上司が理解のある方で、制度を教えてくれたり、早退していいよと言ってくれたりしたので、周りの環境に助けられました。
継枝氏:通常、国の法定基準は、介護休業は、通算93日で3回まで分割できます。この93日は、どう思われますか。
岩佐氏:デイサービスの契約をしたり、施設に入居させたりするための準備期間として、93日はすごく大事なお休みだと思います。でも、介護はそこからがスタート。病院通いもあるし、在宅勤務や週3勤務など、病状や進行具合に合わせた使い方や勤務を可能にしていくことも、大事だと思っていますね。
継枝氏:介護って百人百様で、一人一人の課題とか、歩んできた生き方は違うと思うので、柔軟な働き方ができるというのが大切だということを、岩佐さんから教えていただきました。
岩佐氏:企業がいろいろ取り組まれているのはすごくいいことですが、実際どれだけ使えるかも課題。周りが使いやすくしていくことも大事だと思います。
継枝氏:今日参加された企業さまは、結構柔軟に制度を用意されていて、従業員の方の思いをくんでいらっしゃると思いました。
岩佐氏:そうですね。あとは、会社の中で、介護者同士が集まる家族会のようなものがあれば、情報を知る、心強い気持ちになると思います。そういう時間を設けられたら、職員同士での情報共有が、どんどん膨れてくると思いますね。
継枝氏:お話を三つにまとめてみました。まずは介護の知識とか情報を積極的に取りにいくことが大事。あとは柔軟な制度があると、より仕事と介護の両立がしやすい。それと、周囲の信頼と応援。その中には家族会などがあると、皆さんが助かるのではないかなと思いました。
岩佐氏:介護をしていると自由な時間がないんじゃないかとか、大変なことがあるんじゃないかとか、仕事をする上でマイナスイメージがついてしまいます。でも、介護をしたから、私は社会の問題に気付いたのです。介護をしたから、母親の大きな愛に気付いて、車いすを押して手伝ってくれるような、優しい人たちに出会えました。この経験は、いつか仕事にちゃんと復帰したときに、生かされてくると思います。
継枝氏:介護は百人百様で、本当に人にそれぞれの課題や、そういった歴史があるんですね。ぜひ皆さんに、前向きに乗り越えていただきたいなと思います。ありがとうございました。