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「令和4年度 介護と仕事の両立推進シンポジウム」講演要旨

1 開催日時:令和4年11月2日(水)13時30分~16時30分
2 開催形式:オンライン(Zoomウェビナーを利用したライブ配信)
3 定員:200名
4 内容:

【基調講演】

「突然の介護に備えて~介護を抱える社員のために企業が取り組むべきこととは~」
 株式会社ベネッセシニアサポート 社会福祉士・キャリアカウンセラー 井木 みな恵 氏

 本日は、介護と仕事の両立支援策について、3つのテーマでお話します。

1.介護を取り巻く環境

 介護の始まり方は様々です。要支援、要介護状態になる原因は、5位が関節疾患、4位が骨折、転倒、3位が高齢による衰弱(フレイル)、2位が脳梗塞や脳出血などの脳血管疾患、1位が認知症です。介護はじわじわと進行するものもあれば、ある日突然始まり、仕事との調整の方法がわからず、離職につながってしまうこともあります。

2.介護離職の現状

 年間約10万人が、介護や看護を理由に離職しており、離職者の約8割は女性と言われています。離職理由の1位は「仕事と介護の両立が難しい職場だった」という回答です。また、実際に今介護に直面していなくても、介護が始まった際に仕事との両立に対して不安を感じている人も多いというデータもあります。
 従業員一人一人が介護と仕事を両立していくために大事なポイントは3つです。
1つ目は、介護への向き合い方・意識です。
介護の専門家と早くつながり、社会資源をうまく活用していくという思いをもつことが重要です。
2つ目は、介護休業等の両立支援制度を活用することです。
そして最後に働き方や職場内でのコミュニケーションを考えることが重要です。

3.企業や職場がすべき両立支援

 介護離職は「制度がある」だけでは防げません。従業員が介護に直面した際、自ら両立継続の道筋を立てられるように包括的な支援体制づくりが求められます。
具体的には、従業員向けのアンケート調査を実施するなど介護に関するニーズを把握すること、そのうえで職場の両立支援制度や介護保険の知識などの情報発信や「お互い様の風土」醸成を行うこと。そして、外部の相談窓口を設置するなどの個別支援を行うことをお勧めします。
 また、企業が両立支援施策を進めていくためには、管理職がキーとなります。管理職自身が介護者となり得る年代ですので、自身が介護離職防止、またケアハラスメントを防止するため、両立に関する情報を押さえておくことが重要です。

4.様々な介護状況

 家族の介護に携わっている世代はミドル世代だけではなく、20代~40代前半では、「ヤングケアラー」や育児と介護の「ダブルケア」の可能性も少なくないです。
これらの問題は顕在化しにくいため、一人で抱え込まないで専門家に相談するよう促すなどのフォローが必要です。

5.まとめ

 従業員の介護と仕事の両立課題に対応していくためには、企業や管理職がダイバーシティマネジメントを進めていくことがとても重要です。コロナの影響等で働き方への考え方は多様化してきています。ウェルビーイングに向けた働き方を目指していくために、ライフワークバランスを推し進めていくことが必要です。

企業の取組事例紹介①

太陽生命保険株式会社(生命保険業)
 人事部 人事部長 陶山 浩一朗 氏

 当社ではワークライフバランスの向上、また健康経営の推進を図って、従業員が元気に働くことができる体制を整備してきました。

 ライフステージに応じた両立支援制度については、有給休暇制度、積立傷病休暇、介護休暇、欠勤、休職と制度を揃えております。また、介護休業法で義務化されている93日を上回る、3年間の取得が可能な介護休業制度も整備しています。
 介護をしながら働き続ける制度については、「短時間勤務制度」、「週3日・週4日勤務制度」など、介護の状況に合わせて柔軟な対応を可能にしています。

 従業員が実際に介護と仕事を両立させている制度の活用事例をご紹介します。同居する母親が要介護4の認定を受けた40代社員の事例です。
 まずは在宅介護の体制を整えるため、4か月間の介護休業を取得しました。休業期間中、月に2、3回電話で所属長とコミュニケーションを取るなど、復帰した際に今後どういう働き方をするかを相談できる場を作りました。そして職場復帰に向けては、自由に働ける日に合わせて週3日勤務制度、在宅勤務制度、フレックスタイム制度を活用して、復帰後のスケジュールを策定しました。
 これは10年以上前であれば介護離職をしていた可能性が非常に高く、両立支援制度を利用して優秀な人材の流出を防げた事例です。

 長年会社に勤めてきた経験値の高い従業員が介護離職することは、会社にとっても大変大きな損失です。また、同様のスキルを持つ人材を確保することは非常に困難で、企業にとって介護離職ゼロを目指すことは重要なことです。

 今後の取り組みとして大切にしたいことは3点です。
 1点目は、従業員に対する両立支援制度のさらなる周知です。今後、介護経験者によるアドバイスや社外講師による研修なども実施し、周知する機会を創出していきます。
 2点目は管理職の理解促進です。当社では、管理職向け研修を実施するだけでなく、復帰後のフォロー体制の充実まで含めて、さまざまに工夫してまいります。
 3点目は両立支援制度のさらなる充実です。行政の要請等をしっかりと確認しながら、今後起こり得る課題を踏まえて、より長く元気に働ける制度の充実を図ってまいります。

企業の取組事例紹介②

社会福祉法人げんき
 (障がい児支援、障がい者の就労支援、障がい者の生活支援に関する事業)
 法人本部 業務執行理事 伊藤 美佐 氏

 介護と仕事の両立支援に取り組んだきっかけは、職員一人一人が介護や育児で離職することなく、自分らしくやりがいを持って働いてほしいと考えたからです。

 当法人の設立当初、正職員と有期雇用職(パート職)の2種類の雇用しか行っておりませんでした。育休から復帰した職員が、フルタイム勤務が困難で業務は正社員と同等でも、待遇面で同等の処遇が行えず、職員の確保ができない状況でした。

 そこで当法人では、まず取得期間の制限がない短時間勤務の導入を行いました。短時間の正職員という働き方です。導入当初は苦労し、管理職層から時間をかけて説明をして理解を促しました。現在は育児の短時間勤務のみを導入していますが、介護や病気の療養でも取得できるように整備しています。

 次に、在宅勤務がいつでも可能な環境を整備し、全職員がテレワークを実施可能な体制を整えました。全職員にスマートフォンを貸与し、いつでも何があってもテレワークが実施できるようにしています。テレワーク導入にあたり、リテラシーの問題が心配でしたが、まず導入してみて、やりながら改善して今に至っているという状況です。

 最後に、電子決済等ICT化の推進により業務を合理化、効率化させました。

 これらの取組により、私どもが一番大切にしなくてはいけない利用者の皆さまへの支援に充てる時間が増えまして、迅速な対応、丁寧な対応が可能となり、サービスの質が向上いたしました。また、介護や育児などの様々な状況がある職員が働き続けられる環境づくりが職員にとっても、法人にとってもプラスの効果に結びついているなということを日々実感しております。

企業の取組事例紹介③

株式会社フューチャーフロンティアーズ
 (保育所、学童クラブ、幼児教室の運営、在宅保育サービス)
 取締役 CKO 松尾 隆浩 氏

 介護と仕事の両立支援に取り組んだきっかけは、家族の介護により退職を悩む職員から相談の声が寄せられたことです。退職以外の選択肢はないか、そして安心して仕事と介護を両立できる環境を作れないかという思いで制度を整えていきました。

 私たちはまず、「短時間正社員制度」と「職務限定正社員制度」を整備しました。1日6時間など職員からの要望に応じて働き方を柔軟に選べたり、急なお休みなどに備えて役職や担任に就かないなど職務を限定できる制度です。

 次に、職員からの相談窓口を複数整備しました。具体的には、パート職員を含む全職員に個人面談を年3回行ったほか、職員が会社の幹部に直接相談できる「Opinion Box」を設けました。

 また、年に一度の社内総会で介護休業の取得事例を紹介したり、全職員向けの社内セミナーで両立制度の紹介を行うなど、社内啓発も行っております。

 続いて、介護休業の取得に向けた相談対応に関してです。実際に職員が介護休業を取得する際は、休業に至るまでのフローをチャートにまとめ、休業までの全体像が見通せるよう対応しています。
また、復職の際は、復職支援プランを作成し、両立するうえでの課題や働き方の希望、事務の引継ぎに関することなど具体的にお話ししています。

 介護休業取得中のケアについては、所属施設から職員会議の議事録などを情報提供することで、仕事から離れているという疎外感を感じないよう配慮したり、人事担当者が定期的な状況確認を行い、復帰の見通しやプラン変更について確認することで、復帰し易くなるよう取り組んでいます。

 また、復帰後のフォローとしては、人事担当者による状況確認、また施設長を交えた三者面談を行っています。無理なく両立できているかなどを把握し対応する仕組みをとっております。

 この結果、実際に管理職の職員が1か月間介護休業を取得し、復帰後も以前と変わらない働き方で介護と仕事を両立できております。

 今後の展望ですが、介護と仕事の両立を当たり前のものにし、ライフワークバランスのさらなる追求を目指したいと考えております。
 介護と仕事の両立に取り組むには会社ごとに様々なハードルがあります。利用する方と支える方の声をよく聞いて、まずは両立への取組を始めてみることが大事であると考えております。

トークショー

「悔いなし介護~実母との介護生活から介護と仕事の両立を考える~」
 ゲスト:歌手・女優・タレント 新田 恵利 氏
 聞き手:株式会社ベネッセシニアサポート 社会福祉士・キャリアカウンセラー 井木 みな恵 氏

新田氏:母は骨粗しょう症という病気で、53、54歳の頃に診断を受けていました。当時は骨粗しょう症といってもカルシウムをとる、適度な運動をするくらいしか対処法がなく、診断されたとはいえ、何もせずにいました。そして25年後、初めて骨粗しょう症による圧迫骨折をし、その後5回ほど骨折を繰り返しました。
 2014年の秋、また圧迫骨折をし、入院しました。入院中にせん妄という、認知症かと思うような症状も出ましたが、リハビリはしていたので安心しました。でも、退院日に立てないことが判明しました。
 その日から介護が始まりました。要支援も要介護の認定も受けていなかったので、その日から申請をし、要介護4の認定を受けました。
 ケアマネさんに相談して、いろんな介護サービスを利用して1年後、要介護3になりました。要介護3になると、車いすに自力で乗れ、なんとかトイレまでは行けますので、おむつは卒業です。
 2、3、4年目とそれなりに楽しく暮らしていたのですが、認知症が進み、5年目になると車いすの転倒が何度も起こりました。また骨折をして、5、6年目には要介護5になりました。
 その半年後、母は家族に見守られながら永眠しました。

井木氏:新田さん自身は芸能活動という企業での働き方とは少し違った環境でお仕事をされていますが、どのような方法で両立をされていましたか。

新田氏:介護の世界に入ったとき、皆さんが口を揃えて言ったのが、「絶対仕事は辞めちゃいけない。」です。実際、自分が介護に深く携わっていくと、介護のことを何も考えずにいられる時間がお仕事でした。そこで気分転換をしてリフレッシュしていました。だからメリハリのためにも仕事は必要だなと思います。

 両立に関していうと、番組収録は他のタレントさんの予定もあるのでずらせませんが、打ち合わせや取材のときは正直に「介護があるので」とお伝えして、時間調整をしてもらっていました。
 私の場合は、兄と一緒に介護をすることを決め、一緒に住んで、ヘルパーさんをお願いすることなくうまく回していました。
 夜のお付き合いとかも帰りたいなって思うときは「介護があるんで」って言って、いいように使っていました。言いふらすことは大事です。

井木氏:言いふらし介護ってとっても大事ですね。職場だと介護をしていることが顕在化しないケースが多いですが、介護をしていることは悪いことではなく、恥ずかしいことでもなく、みんなに訪れるものなので、言いふらし介護、ぜひできる範囲から行っていただきたいなと思います。男性の方が職場で言いにくい傾向があるようで、私どもの相談窓口にも男性からの相談は多いです。

新田氏:育児がだんだん認められてきているように、介護も早く休暇など取りやすい環境になるといいですよね。

井木氏:新田さんは地域サービスや社会資源をどのような形で利用されていましたか?

新田氏:介護が始まる前は、親が介護になったらデイサービスに預ければいいやぐらいの軽い気持ちでいたのですが、デイサービスも地域によって、要介護4・5の人を受け入れられない施設があることを知りました。そこで、在宅介護を選択しました。訪問リハビリ、訪問入浴、訪問ドクター、訪問看護師さんに来ていただき、母のリハビリを始めました。介護が始まった頃は介護サービスのことは何もわからなかったので、毎晩のようにネットで検索して勉強していました。

井木氏:在宅介護をされている中で、どんなサービスが良かったですか。

新田氏:訪問入浴です。2畳分くらいの広さがあれば、ささっとバスタブを広げてお湯をためて母を入れてくれます。着替えまでさせてくれて、40分ぐらいですが、冬でも汗だくでやってくださる姿を見て、感謝感激でした。あとは、母が車いすで動けるようになったとき、家の床を畳からタイルカーペットに替えました。これも申請すれば何割負担かで替えられることを知り、驚きました。

井木氏:介護休業制度をうまく使うことも大事ですよね。

新田氏:最後の看取りの部分でいうと、私の場合は母とゆっくりお別れができる時間がありましたが、時間がないと悲しい思いをずるずる引きずってしまうと思うので、ぜひ介護休業制度などのお休みを利用してきっちりお別れしてほしいなと思います。

井木氏:介護が始まってから介護期間中、気持ちの変化はありましたか。

新田氏:最後の看取りの部分でいうと、私の場合は母とゆっくりお別れができる時間がありましたが、時間がないと悲しい思いをずるずる引きずってしまうと思うので、ぜひ介護休業制度などのお休みを利用してきっちりお別れしてほしいなと思います。最初は突然の介護のスタートで本当に辛かったんです。やらなきゃいけないことは山ほどある、でも気持ちの整理はつかない。でも、子育てとは違って介護はどんどん重くなっていくことが分かっていたので、行政が行っている認知症サポーターやおむつフィッターの講習に行って勉強しました。あと、毎日母を見て認知症の進み具合とかを感じているので、いろんな意味で自然に覚悟ができてきました。

井木氏:その覚悟があったからこそ、言いふらし介護をしたり、介護と仕事をうまく両立して気分転換をされていたんですね。これから介護が始まる方は、最後のお別れということまでイメージしながら、何がどこまでできるのかをぜひ考えていただきたいと思います。

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