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「令和5年度 介護と仕事の両立推進シンポジウム」講演要旨

1 開催日時:令和5年11月2日(水)13時30分~16時30分
2 開催形式:オンライン(Zoomウェビナーを利用したライブ配信、2週間程度のオンデマンド配信)
3 定員:200名
4 開催趣旨:高齢人口の増加や家族形態の変化を背景に、介護と仕事の両立は社会的な課題となっている。「介護と仕事の両立」をテーマに、介護と仕事の両立に関する情報提供及び取組に対する意識啓発を行う。
5 内容:

【基調講演】

「企業による仕事と介護の両立支援の課題-仕事と子育ての両立支援との違い-」
東京大学名誉教授 佐藤 博樹 氏

従業員が介護や子育てをしながら仕事を続けるための支援について、育児休業は子育て支援のために使われるのに対し、介護休業は状況が異なる事をご存じでしょうか。なぜなら介護休業は介護をする全期間をカバーしきれないからです。法律上の介護休業は93日ですが、平均介護期間は4、5年と長く、休暇の期間が不十分となってしまいます。これが育児休業と介護休業の違いです。皆さんには介護休業の期間は直接介護を担う時間としてではなく、介護と仕事を両立させるための期間だ、ととらえていただきたいのです。

従業員が介護に直面しても離職しないような制度を拡充する主な理由は、40代半ばを過ぎると多くの人が介護の問題に直面しなければならないからです。人は70代後半になると、要支援や要介護となる場合が多くなります。実際に45歳以上の従業員の数にある変数を掛けると、介護の問題に直面している従業員の概数を導き出すことができます。しかし、多くの従業員は介護と仕事を両立する方法を知りません。子育てのためには育児休業や短時間勤務を選択する人が多く見られますが、介護の場合はどうしたらよいのか、その方法が見えにくいようです。したがって、企業は介護と仕事の両立方法を明らかにし、支援することが重要です。

実は、仕事と介護の両立は男性の課題であるということができます。50代前後の従業員の中には介護の課題に直面する可能性はあるものの、配偶者がいるから大丈夫と思っている人もいます。そのような人はこれまで子育てに関わらなかったものの、専業主婦の妻が子育てをしてくれたため、親の介護も妻が担当するだろうと考えるようです。そのような人は親というのは「私たちの親」ではなく、「私の親と配偶者の親」であるという違いがあることを考えなければなりません。

今後は40代後半や50代の従業員、つまり管理職の人たちが介護の問題に直面することがあります。これらの人が介護と仕事を両立できない場合、企業にとっては大きなマイナスになり得ます。

例えば、親の介護のために離職したある従業員は、しばらく時間が経ったのちにその親を亡くしました。では、その人はその後にすぐ仕事に復帰できるでしょうか。実際は離職してしまうとキャリアの再開は難しいのです。介護で離職した人の多くは精神面・肉体面・経済面で苦労しています。介護と仕事の両立は大変ですが、離職するとより大変になるというのを経験した人が多くいます。子育てと異なり、介護は始まる時期が予測できません。したがって、40代後半の従業員に介護について基本的な知識を前もって提供することが重要です。是非、事前の情報提供が介護と仕事の両立にとって必要な事であるということを忘れないようにしましょう。

また、急に長期間の介護が必要になる場合もあります。例えば、親が転んで骨折し、リハビリが長引く場合などです。企業が法定期間を上回る介護休業を許可したとしても、リハビリがその後に延長され、介護休業期間が足りなくなることもあります。このようなケースは意外に多いので、企業はいつからいつまで続くか分からない従業員の介護期間を考慮した仕事の管理をしなければなりません。

従業員の皆さまは介護全般を自分一人で担わず、介護保険制度を活用するようにしましょう。しかし、多くの方が介護保険制度について知識を持っておらず、認定手続きなどの情報を理解していないようです。企業は自発的に介護保険制度に関する情報共有を推進しましょう。また、育児休業と介護休業の違いや、介護休業の法定化経緯についての情報発信を行うことは重要です。

介護保険制度があまり知られていない理由としては、介護保険には保険証がないことが挙げられます。企業は従業員の実態を把握し、介護制度の理解度や40代・50代の従業員の親の状況を把握する必要があります。介護保険制度の認知度や介護休業の取得条件について、従業員に啓蒙するようにいたしましょう。そうすることにより、介護に関する誤解や問題が解消され、従業員が介護に迅速かつ適切に対処できるようになるでしょう。

介護についての相談は会社では難しいので、地域包括支援センターの役割は重要です。介護が必要になった場合、まず地域包括支援センターで認定調査の手続きを行い、調査員に要介護者を訪問してもらいます。しかし、自治体によって名称が異なるといった理由から、地域包括支援センターの事を知らない人が多いのも事実です。

在宅介護ではケアマネージャーを見つけ、住宅改修などの準備をしなければなりません。これらの準備には1カ月ほどかかり、初めはヘルパーと要介護者である親の相性を確認し、徐々に自分の介入を減らしていきます。こうした経緯を経て、介護と仕事の両立が可能になります。企業は従業員の介護と仕事の両立を支援するために働き方改革を進めることも検討できます。ただ単に残業時間を削減するだけでなく、従業員が早く帰宅できる日を選べるよう配慮し、フレックスタイムや在宅勤務など柔軟な働き方を導入することも考えましょう。

企業の取組事例発表①

従業員一人ひとりのLIFEとWORKを応援する「仕事と介護の両立」に向けた取り組みの紹介

株式会社日立システムズ
人事総務本部 ダイバーシティ&エンゲージメント推進室 矢野 徳子 氏

当社の「変化し続ける世界で、すべての人の居場所を生み出す」宣言は、従業員も含まれるすべての人に対するものです。仕事と介護の両立支援のきっかけは、2015年の従業員アンケートでした。現在介護中だと答えた従業員は1割だったのに対し、将来5年以内に介護が必要になると答えた従業員は8割にも達しました。アンケートでは、職場のコミュニケーションは円滑だとする従業員が8割いるものの、職場での介護についての相談が難しいと感じる人が70.2%、会社の制度がわからないとする人も39.4%いました。この結果を受け、2016年から仕事と介護の両立支援に取り組むことになりました。方針は「介護の初動で迷わせない」ということです。

そのために、三つの軸を定めました。一つ目は「学ぶ」ことで、公的介護保険や会社の支援制度に関する情報を社内ホームページで提供し、eラーニングや専門家によるセミナーを通じて従業員全体に情報を提供しました。こうすることで、家庭や職場で介護の準備を促すことができ、介護が始まっても従業員を孤立させない状況を作りだすことができました。

二つ目の方針は、「調べる」ことで、介護に関する情報を社内のホームページに一元化して、いつでも調べられるようにしています。

三つ目の方針「つながる」は、家族や仲間とのつながりを意味しています。従業員の良い老後のために、老後チェックシートを作成しました。このシートを使って家族と親の健康や生活状況について話し合うことを促しています。また、介護に関心のある人たちがランチミーティングで情報を共有し、意見を出し合っています。これにより、介護に悩む人たちが支え合い、介護施設の見学や専門家による相談会を行う必要性が浮かび上がりました。

これらの取り組みの結果、昨年のアンケートでは、介護をしながら仕事を続けられると答えた人の割合が増加し、職場での介護についての相談や支援に関するポジティブな回答も増えました。例えば、部下や同僚を支援できる人の割合は94%にも上りました。

アンケート結果は良い傾向にありますが、まだ改善の余地があります。様々な制度を知らない従業員が2割もいる現状がありますので、従業員の介護状況をサポートするために、介護の専門家が相談に乗る窓口を5月から設けました。公的介護制度や会社の制度に関する相談ができ、25人が利用し、すでに38件の相談が寄せられています。

今後はこの相談窓口の利用を広げる取り組みを継続し、40歳以上の従業員を対象に介護に関するeラーニングを実施する予定です。従業員が気軽に介護について話せる職場環境や、家族との老後についての定期的な話し合いの習慣づくりを進めます。私たちは、従業員一人一人の人生を尊重し、お互いに支え合える職場づくりを継続していきます。

企業の取組事例紹介②

従業員が安心して介護と仕事の両立ができる職場環境の実現

株式会社 熊谷組
管理本部 ダイバーシティ推進部 黒嶋 敦子 氏

2018年に実施した社内介護アンケートでは16.2%の従業員が介護経験があると回答しましたが、そのうちの85%以上が職場で介護に関する相談をしたことはないと答えました。57%の従業員が介護に不安を感じ、52%が公的介護制度を理解していませんでした。社内では既に育児と介護の両立支援ハンドブックを作成済みでしたが、再度周知するため、特に30歳、40歳、50歳の社員に送付して意識を高める取り組みを行いました。ハンドブックでは介護の申請手順や仕事と介護の両立のポイントをまとめています。

介護は隠すものでなく、直面したら職場の上司や同僚、専門家に相談するように促しており、社外の介護支援専門員による無料相談窓口、地域包括支援センターへの相談窓口、社内制度に関する相談窓口を紹介しています。

また、介護説明会と社内制度の説明会を開催し、基礎編、施設編、認知症編の3部門で内容を提供しました。参加できなかった社員や後日動画を見たい社員向けに、説明会の動画を社内のイントラネットに掲載し続けています。

人事制度では、介護休業を通算365日、分割3回まで取得可能としました。柔軟な働き方として、時差出勤やテレワーク、フレックスタイム制度を導入しました。

2022年3月に再度全社介護アンケートを行いました。職場での介護相談が増加し、制度についての理解が劇的に向上していました。その上で両立支援ハンドブックを改訂し、将来的に、働き盛りの社員の介護問題への対応を考え、管理職の理解力向上と相談しやすい環境づくりを重視しています。全従業員が安心できる職場や柔軟な働き方や情報アクセス支援を促進し、多様な選択肢を提供し続けたいと考えています。

企業の取組事例紹介③

介護と仕事を両立している社員が喜んでくれた『フルリモート×中抜けOK制度』とは

TRIPORT株式会社/TRIPORT社会保険労務士法人
代表取締役社長CEO/代表 岡本 秀興 氏

当社は「フルリモート×中抜けOK制度」を導入し、介護と仕事を両立するための制度を構築しました。この制度を利用し、介護や育児と仕事を両立したいと願う人々を雇用するために時間や場所の制約を最小限に抑えました。これにより、採用募集時には600件以上の応募がありました。

会社の社員の中には介護と仕事を両立している方々もいます。例えば、Iさんは週2日、1日に6時間ほど、自宅から片道1時間の距離で親の介護をしています。親の体調変化により、急に介護の負荷が変動するため、柔軟な働き方が求められることが分かりました。

Iさんは社内経営労務コンサルタントで、オンラインで顧客サービスを提供しています。スケジューリングが工夫されており、実家や外出先では外部のミーティングを極力避け、重要な会議がある場合はヘルパーさんの協力を得ながら対応しています。Iさんは嬉しい社内制度として、フルリモト制度を挙げています。

中抜け制度は、みなし労働時間制度のことで、時間的にフレキシブルに働ける社内制度です。この制度は実際に従業員から喜ばれており、自宅や実家、移動中のカフェなど、時間や場所に縛られない柔軟な働き方が可能です。このような柔軟性は介護と仕事の両立に有用です。当社では複数の制度を組み合わせて、フレキシブルな働き方を実現しています。場所や時間に制約がある従業員に対し、テレワーク勤務制度やフレックスタイム制度、事業場外見なし労働時間制度、短時間正社員制度などを提供しています。

特にテレワーク勤務手当制度は、テレワークに伴う細かい経費をカバーするものであり、資金面でのサポートを行っています。

社内制度を構築する際には、従業員のニーズを把握するためにアンケート調査を行っています。従業員が喜ぶ制度を提供するため、現状を分析することが重要だと感じています。

トークショー

「全てのケアラーに光を~十八歳からの十年介護~」

町 亞聖 氏 フリーアナウンサー × 佐藤博樹 東京大学名誉教授

佐藤:町さんは高校生の時から親の介護を担っていました。その頃は介護保険制度も介護休業制度も整っておらず、仕事と介護を両立させるという考え方も未発達で、今とは異なる厳しい状況だったと推察されます。町さんがヤングケアラーとしてどのように介護と仕事を両立させてきたかをお聞きしたいと思います。

町 :18歳で母の介護を始めましたが、当時は介護保険やバリアフリーなどの制度や言葉がありませんでした。母が病気になり一時心肺停止も経験し、家族は大変な状況に立たされた。私は現代で言うヤングケアラーとなっていました。私は母の代わりとして家事を行い、貧困にも直面しましたが、介護では自立支援の考え方のもとに、要介護者の母ができることを増やすことで家族の負担を減らそうとしていました。介護と仕事の両立の鍵は柔軟な働き方と、周囲に対する罪の意識を感じない環境づくりが重要だと感じます。そのためには役割分担や第三者の手を借りることも重要と考え、在宅介護を選択しました。ヤングケアラーが自身の経験を語ることが、介護環境の改善に繋がるという事を強調したいと考えています。

佐藤:町さんが高校生の頃は介護保険制度がなかったのですね。制度があっても要介護者が目の前にいると、つい自分で手を出したくなってしまう人が多いと思います。介護保険のサービスを利用することも大事ですが、現場で実際に介護が必要な場面もありますよね。

町 :家族だからこそできることがあります。しかし、初期段階では多くの人が混乱し、うまく対応できないものです。たとえば、介護者が声を荒げると介護を受ける側が申し訳ない気持ちになってしまいます。家族ならではの状況をイメージして、家族にできることを考えてほしいと思います。

佐藤:認知症の場合など、専門家に任せることが親のためになる場合もあると耳にします。また、かつてはヤングケアラーが介護資源として見なされることがありました。

町 :家族がやるのが当然みたいに思っている意識が抜けてないということですよね。

佐藤:そうです。介護の社会化と言います。孫の世代がおじいちゃんやおばあちゃんの話し相手になるのは良いことですが、そのことと孫の世代が介護を担うのは別であるという意識を持つことを徹底しないといけないと思います。

町 :介護を始める前の準備が大切です。親と離れて暮らしている人が多い現代、親が住む地域の介護サービスを調査しましょう。特に地域包括支援センターには介護が必要になる前に相談できます。また、親の友人の連絡先を数人確保しておくことも一つの方法です。特に男性の場合、友達が認知症に気づくことが多いため、実家に帰る際に地元の人々に挨拶することは将来的なトラブルに備えるために役立つかもしれません。

佐藤:遠距離介護に関する質問がよく寄せられます。基本的には呼び寄せることは、要介護者を地域から離れてしまうことにつながるので避けるべきです。地域や人間関係から離れることになり、コミュニケーションの壁も生じます。介護者の働き方も重要です。海外ではリモート会議が一般的ですが、日本では集まっての会議が好まれます。しかし、会社が認めればリモートワークも可能でしょう。また、ワーク・ライフ・バランスという言葉もありますが、介護のために仕事を辞める人は、ライフを選んだのではなくケアのために離職されています。介護はライフに組み込まれていることを認識してほしいです。皆さんには、仕事を続けながら介護をすることを促したいのです。自分の大切にしたいことをきちんと大切にし、柔軟な働き方をすることが非常に重要だと思います。自分ひとりで抱え込まず、制度を活用して介護と仕事を両立し、親御さんとも質の高い生活を維持しましょう。企業としては、そうした仕事と介護の両立をサポートするためのマネジメントを行っていっていただければと考えています。ありがとうございました。

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