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平成29年度介護と仕事の両立推進シンポジウム 講演要旨

平成29年10月24日(火)、日経ホールにて「介護と仕事の両立推進シンポジウム」を開催しました。

基調講演

基調講演「介護と多様な働き方の両立実現に向けて ~介護離職からあらゆる社員を守る~ 」

講師:山梨大学 生命環境学部 地域社会システム学科 教授
西久保 浩二 氏

 

  • 今日最もお伝えしたいことは、「介護と仕事の両立」はこれまで多くの企業が取り組んできた「出産・育児との両立」よりもさらに難易度が高く、同時に経営的リスクも深刻だということです。
  • 介護問題が社会的に注目されたのは、2015年「一億総活躍社会」の成長戦略の中に「介護離職ゼロ」というキーワードが登場したあたりです。
  • その後、様々な政策が行われる中で、育児・介護休業法が改正され、また、「働き方改革」という大きな動きが出てきました。この「働き方改革」というのは、介護を含む様々な背景を持った人たちが、労働市場で長く働き続けられるように支援していこうということに一つの本質があると思います。
  • 両立について企業が最初に取り組んだのは、出産・育児との両立問題です。育児休業の取得率は、男性はまだまだですが、着実に伸びてきています。まだ道半ばではありますが、出産・育児という両立課題に対する日本企業の対応は、徐々に成果が出てきているということが実態ではないでしょうか。
  • 「出産・育児との両立」で経験値を積んだ日本企業が、今度は「介護との両立」が同様の対応で可能なのか、「介護との両立」と「出産・育児との両立」を同様に捉えていいのか、ということに一つの問題意識があります。
  • 「介護との両立」のリスクは、一番は人口構造上の問題にあります。人口減少により労働人口は減る一方で、要介護世代はどんどん増える。厚生労働省などの試算によると、2060年には75歳以上の人口が26%に達します。この問題は今後数十年続く問題です。
  • 企業にとって重要な人材喪失は、リスク発生後、すぐに起こります。企業自体が親の介護が始まったかという情報を把握していないケースが多いと思いますが、ある日突然辞表が出てくるといったような対応が一般的ではないかと懸念しています。
  • 「出産・育児との両立」とのリスクの違いの特性をいくつかお話しします。例えば、介護はいつ始まりいつ終わるかわからない「時間的予測困難性」、夫婦双方の両親が同時に要介護者となる可能性がある「同時多発性」、管理職世代が当事者となる「高職位性」、遠隔地での介護「空間的分離性」などがあります。これらの特性を見ると両立のパターンがいかに複雑で、企業による支援が難しいかがわかります。
  • ではどう対応していけばよいのでしょうか。まずは、短時間勤務、介護休業期間の上乗せ等の時間的な支援があります。それで本当に離職を防げるのかと言うと、実は支援に入る前に、カミングアウト問題と称される大きな問題があります。本人が会社に申告してくれなければ支援のしようがないという問題です。参考となるケースを2つ見ていきたいと思います。
  • 1つ目はある電気メーカーさんの事例です。
  • 最初の第1ステップでは、短時間勤務制度などにより時間的な余裕を与えたり、裁量性を与えたりといった、労働時間を柔軟にする取組の段階にとどまっていました。
  • しかし、実際に介護休業取得者へのヒアリングを行い、これだけでは介護のリスクに対応できないと認識され、第2ステップとして新たに具体的な介護支援制度を導入されました。介護目的の転居時に一人当たり上限50万円の補助金を出す直接的な経済的支援、施設へのあっせん、介護に向けたリフォーム支援などです。
  • 介護している人のコミュニティーサイトも立ち上げ、不安や疑問などを意見交換できるようにしました。まさに、カミングアウトしやすい環境を作った事例です。
  • 続いて、ある総合商社のケースは、短期間で非常に進んだ介護支援制度を整備された事例です。
  • 会社の中期計画の中で「持続的な成長を」とある一方で、社内調査の結果、実は介護に直面する社員がたくさんいることがわかりました。海外赴任希望者が減ってきているという事態も含め、介護問題を放っておくと会社の成長に大きな障害になると理解されたそうです。
  • そこで、外部の様々な介護支援サービスを導入されました。緊急時に駆けつけてもらうセコムや、海外赴任中でありながら介護をする人をサポートするNPO法人と契約し、親御さんの介護をされる場合のコンシェルジュサービスを割安に受けられるようにしています。
  • 企業にとって中核的な人材を失う危険性がある介護の問題は、リスクがとても大きく、その大きなリスクに見合う思い切った投資、支援を労使の皆さんで議論する時期に来ているのではと思います。
  • まずは社内の実態調査が重要です。そして会社としてできる支援は何かを導き出し、個々のリスクに合わせてリソースを提供していく。これが基本的な支援の在り方だと考えています。

パネルディスカッション

『社員の多様な介護ニーズに応える、具体的な介護離職防止策とは』

[パネリスト]
・山梨大学 生命環境学部
地域社会システム学科教授
西久保 浩二 氏

・介護ジャーナリスト
小山 朝子 氏

・大成建設株式会社管理本部 人事部 部長 兼 人材いきいき推進室長

塩入 徹弥 氏

・株式会社白川プロ 取締役
白川 亜弥 氏

[コーディネーター]
フリーアナウンサー 岩佐 まり 氏

<取組事例>

「介護経験者が輝ける職場づくりを」

介護ジャーナリスト
小山朝子 氏

  • 20代から祖母の介護を約10年経験したのがきっかけで、介護ジャーナリストになりました。介護の現場を取材して20年近くになります。また、介護福祉士の資格を持ち、東京都の福祉サービス第三者評価に携わる他、介護福祉士の養成、企業においては介護に関する全社員研修なども行っています。
  • 私自身の経験、長年の取材経験から人事担当の方に是非伝えたいのは、介護をしている社員の直接的な意見を参考にして支援策を検討してほしいということです。
  • 自宅で介護をしていると自由に外出ができないことがあります。また、体調が急変することもあり、仕事に行きたくても行けないときもあるでしょう。安眠できないなど睡眠障害を抱える人もいます。とくに在宅介護の場合は、家族が中心になって各医療従事者、介護サービス事業者とコミュニケーションをはかる必要があり、それが負担になる場合もあります。
  • 祖母の介護中、会社勤めをしていた私の母は着替えなどの朝の介助でしばしば遅刻していました。そのことを電話で上司から咎められて泣いていた母の姿に心が痛みました。この出来事をきっかけに、自身の経験も踏まえて2015年に「ワーク介護バランス」という本を3巻のシリーズで出しました。
  • 現場からは、育児と介護のダブルケアなど様々な問題も見えてきます。
  • 時差出勤、短時間勤務制度などを導入する企業が徐々に増えてきましたが、多様な働き方が認められることによって介護をしている社員が少しでも楽になったり、ストレスを減らすことができるような支援策を作っていただければいいなと思っています。

「介護離職防止対策について」

大成建設株式会社
管理本部 人事部 部長 兼 人材いきいき推進室長
塩入徹弥 氏

○大成建設株式会社
事業内容:建築・土木施工、エンジニアリング、都市開発、不動産等
従業員数:8,659名(単体:2017年9月末現在)

  • 創業144年となる当社は、男性比率が85%と高く、社員の平均年齢は再雇用まで含めると46歳、ボリュームゾーンは48歳前後です。
  • 2007年に女性社員へのヒアリングを行ったところ介護問題が不安だという声が上がったのをきっかけに、仕事と介護の両立支援の検討が始まり現在に至っています。
  • 取り組んできたことを4つに分類します。
  • 1つ目は「実態把握」です。アンケート調査を2度実施し、制度利用者に定期的にヒアリングを行って状況を把握しています。
  • 2つ目は最も力を入れている部分で「情報提供」です。会社の制度をまとめた資料の配布や、定期的に介護セミナー、介護相談会を開催しています。
  • 3つ目は「制度の拡充」。ヒアリングから出てきたニーズを受け、当社の「介護休業制度」の日数は180日ですが、半日単位で分割して何度でも取得可能としました。「介護休暇」についても時間単位で取得可能です。
  • 最後の4つ目となる取り組みが「意識啓発と風土改革」です。制度があっても使われないと意味がないので、職場内、また上司の理解が進むよう意識啓発に取り組んでいます。
  • 一番効果的なのは介護セミナーに参加してもらうことだと思っています。家族も参加できるように案内するなど力を入れています。
  • 会社が仕事と介護の両立支援に取り組む一番の目的は「介護離職の防止」です。少しずつ会社の制度の利用者が増えてきている状況ではあるのですが、終わりのない取り組みだなと感じています。

「両立支援の先にあるもの 社員ひとりひとりが豊かな人生を送るために」

株式会社白川プロ
取締役 白川亜弥 氏

○株式会社白川プロ
事業内容:ニュースやドキュメンタリー番組の映像編集・音響効果、その他関連業務
従業員数:290名(2017年7月末現在)

  • 当社は創業55年の会社で、290名の従業員の内3分の1が女性社員で、平均年齢は37歳と比較的若い会社です。
  • プロフェッショナルな業務なので、人材は財産です。ワークライフバランスに取り組むのは、大切に育てた人材の流出を防ごうという経営戦略の位置付けで、「仕事と介護の両立支援」もその一環として進めてきました。
  • まず最初に全社員対象にアンケートを実施し、介護の実態やニーズの調査を行いました。回答率が85%と高く、「介護経験がある/将来可能性がある」と答えた社員が56%だったことから、介護問題が身に迫った問題であるとわかりました。
  • すぐに行ったことは、社長名で「仕事と介護の両立宣言」を出したことです。会社が本気で取り組むという姿勢を示しました。
  • 次に「介護相談窓口」の設置、会社で使える制度や心構えなどを簡単にまとめた冊子を作成し、40歳以上の社員全員に配布しました。この冊子は、現在も若い社員が40歳を迎えるタイミングで配布しています。また、介護のプロを招いて、仕事と介護の両立セミナーや個別相談会などを開催しています。
  • そして、「社内制度の整備と見直し」です。独自の制度として、法定で年5日の「介護休暇」を年10日にするとともに、休暇中の給与として基本賃金の8割を支給することとしました。さらに、有給未消化分を介護休暇として積み立てできる「積立有給休暇制度」も作りました。
  • 当社の特徴として様々な勤務時間体系があるので、状況に合わせた働き方ができる部署へ移動できるなど、ワークライフバランスを重視した体制を作るように工夫しています。
  • このような取り組みが認められ、昨年度の「東京ライフ・ワーク・バランス認定企業」に選ばれました。

<パネルディスカッション>

◆テーマ①「企業がまず“気づく”“知る”べきこと」

岩佐:従業員の介護ニーズは多様である中、企業が実態把握に取り組む際に重要なポイントは何だとお考えでしょうか。

塩入:アンケートを2回実施したことで、40、50代で見ると約15%が介護している状況が見えてきました。介護の定義は人によってばらばらです。これからアンケートを実施するなら、例えば施設に預けていても全て「介護中」に該当するということを明確に示してあげた方がよいかなと思います。

岩佐:管理職やエース社員が介護を理由に離職してしまうことのリスクについて、経営的視点から企業はどのような問題認識を持ち、何から取り組むべきだとお考えでしょうか。

西久保:40、50代の高い責任を担っている人たちほど「介護中」だと公言できていない実態もあります。ただ職場では相当シグナルが出ているはずなんですよね。アンケートという手段だけでなく、我が社の実態を知ろうとする姿勢が大事ですね。

小山:逆に、社会に出たばかりの若者が介護に直面しているケースもあります。まずは実態を把握する取り組みを行うことで、そのような現実が見えてくるのではないでしょうか。

岩佐:白川プロでは、将来のリスクを見据えて介護と仕事の両立支援に取り組み始めたと伺っております。今後を見据えた取組を行う際、企業として何が重要と考えますでしょうか。

白川:会社としては柔軟な働き方を用意することが鍵になると思います。それから情報収集することと情報を社員に発信することでしょうか。それも手を変え品を変え、継続的に。

◆テーマ②「具体的な支援策~“制度整備”と“情報提供”~」

岩佐:「制度を整備すること」と「情報を提供・発信すること」、どちらを、どのように進めていけばいいのか、悩んでいる企業も少なくないのではないでしょうか。着手しやすい取組や特に効果的な取組は何でしょうか。また、それぞれを進めていく上で何が重要でしょうか。

塩入:着手しやすいのは、会社の制度を知ってもらうということです。また効果的な取組でいえば、介護セミナーと相談会は社員の満足度がとても高いです。重要なのは、継続することとサービスを平等に受けられるよう配慮することだと考えています。

白川:社長名での両立支援宣言はおすすめです。まず宣言を出して、それからできる支援を探っていくのがいいかと思います。当社では社内の労務・福利厚生に精通している社員を「介護相談員」に任命しているのですが、社員に安心感を与えられるのでよいですね。

岩佐:企業が多様な選択肢を示して、従業員が自分に合った働きかたを選べることは、介護と仕事の両立をしている間やその後、従業員にどのような効果があるでしょうか。

小山:現場でお話を聞いている中で、会社で働くことの意義を考えることがあります。企業は多様な働き方を用意して、介護に直面した社員が自分に合った働き方を選択できるようにする。介護を終えた社員は、会社が与えてくれた選択肢に感謝し恩返ししていこうと、愛社精神のような気持ちを育む効果もあるかもしれません。

岩佐:2社とも、従業員への積極的な情報発信に取り組んでいらっしゃいます。こうした取組は、ただ情報を与えるだけではなく、従業員のライフワークバランスを支援する職場の風土づくりにもつながると思いますが、いかがでしょうか。

塩入:相談会に対する満足度が高い理由は、プロに話を聞いてもらい心の負担が軽くなるからだと思うので、お金はかかりますが有効だと思います。セミナーの開催は、休日開催や出張セミナー等の工夫をしています。

白川:介護の問題は他人事と思われがちなので、会社が発信することで心の準備やお互い様意識が芽生えるのではないかと思います。外部に依頼することが難しくても、社内に相談員を置くだけでも社員の心強い味方になりますよね。

西久保:早く無駄のない制度にレベルアップさせるには、情報発信と同時に社員からのニーズを汲み上げていく、トップダウンとボトムアップを同時に進めるようなアプローチも必要かなと感じます。

◆テーマ③「多様な働き方に応える支援策」

岩佐:勤務地や勤務時間など社員の働き方の違いの状況はいかがでしょうか。その中で、あらゆる社員の介護と仕事の両立実現に向けて工夫していることは何でしょうか。

塩入:当社は、現場で働く社員も多いので、電話やスカイプで相談ができるようにしています。また、介護セミナーは動画配信も行い、意識啓発にはeラーニングも使っています。

白川:当社は、仕事柄、シフト勤務、朝中心、夜中心の仕事など、さまざまな勤務形態があるんです。これが逆に利点にもなって、状況に応じてセクションを異動してもらうことで両立の支援にもなります。中小企業の場合制度として枠組みを作った上で、柔軟性のある対応をしていくのが一番だと思っています。

小山:テレワークを取り入れたものの断念した企業もあります。各企業の特性を考慮し、柔軟な働き方を考えていく必要がありますね。

岩佐:大企業ならではの特性や中小企業の強みなどについて、ご意見をいただけますでしょうか。

塩入:大企業だから導入できる制度もあるとは思いますが、逆に社員が多いので、情報を全社員に周知することが簡単ではないということと柔軟な運用ができない点がデメリット。逆に、制度になくても運用で助け合うことができる点が、中小企業のメリットではないか感じます。

白川:社員と距離が近く声が届きやすいので、きめ細かな対応ができる点は中小企業の強みかなと思います。

◆テーマ④「介護離職防止に向けて」

岩佐:最後に、本日のパネルディスカッションのタイトルにもございます、「介護離職防止」に向けて、企業や従業員が何に取り組むべきか、お一人ずつご意見をお願いします。

西久保:経営層がうちの会社は介護との両立に取り組んでいると発信していくことですね。それと、業績責任を負って労働時間管理をしている中間管理職を重視してもらいたいです。彼らが多様な働き方を本気で支援するように企業風土を醸成してく必要があると思います。

小山:当事者の社員のみなさんには、介護の経験は仕事にも人生にも活きるのだとお伝えしたいです。企業側は、介護に直面している社員や経験者が輝ける職場作りを是非目指してほしいですね。

塩入:できるだけ多くの社員が両立して働き続けられるようにするのが人事担当者の役割。うまくいったことを様々な企業の方と情報交換させていただいて、お互い良い状況になっていけたらと思っています。

白川:社員の働く意欲に応えること、社員の人生を支えていると意識することは経営側に与えられた責任。大がかりな制度でなくても社員のためにできる最善策を探っていくというのが、両立支援やワークライフバランスであると思っています。

「育児・介護休業法の施行状況 ~介護に関する労働相談の現状~ 」

厚生労働省 東京労働局 雇用環境・均等部 部長 古瀬 陽子 氏

  • 10月1日から「育児・介護休業法」が改正されています。改正点は、1.保育所に入れない等の事情がある場合は、最長2歳まで育児休業の再延長が可能になったこと。2.子供が産まれる予定の方、家族を介護している方などに制度を知らせることが事業主の努力義務となったこと。3.育児目的休暇の導入の促進が事業主の努力義務となったことです。
  • 先の法改正で、介護に関しては要介護状態にある対象家族1人につき通算93日間まで3回を上限として分割取得が可能となりました。また、介護休暇は半日単位で取得できることとなりました。
  • 最近の相談事例では、介護休業の取得は前例がないために、事務処理を行う人事労務の方が制度を間違って理解していたケースが散見されております。例えば、前例がないことから介護休業は取得が認められないとか、年休の残日数がなくなった場合だけ介護休業の取得を認める、対象家族を扶養しているのに同居していないから認められなかったなどがあります。
  • また、社内で制度が十分に理解されていないがために、労働者自身も会社に対して不信感が募って人間関係もこじれてしまった事例もあります。先ほどのお話の中で、介護は誰にでも起こり得るというようなお互いさま意識、当事者意識を共有することがポイントだというご指摘がございましたが、実際のご相談の事例から見てもまさにそこが制度の円滑な運用の鍵になるだろうと考えています。
  • 介護と仕事の両立支援を初め、労働者が安心して働き続けられる職場環境の整備のために、引き続き、厚生労働省、労働行政にご協力をくださいますようお願い申し上げます。
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