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平成30年度「介護と仕事の両立推進シンポジウム」(平成30年10月16日)

1 開催日時:平成30年10月16日(火)13時30分~16時30分
2 会場:日経ホール
3 定員:500名
4 内容:

【基調講演】
 「介護問題を通して考えるこれからの働き方 ~人手不足時代の両立支援とは~」
 独立行政法人 労働政策研究・研修機構 主任研究員  池田 心豪 氏

基調講演の様子

 働き方改革と介護問題は、密接につながっています。介護問題は、介護休業、介護のための時短制度などの制度の話になりがちですが、当事者からは職場の制度よりも、日常の働き方を維持していくことができるのかということの方が切実な問題として語られます。
 その理由として、子育てと介護は大きく違うという点があります。子育てでは、初期に時間と労力が取られ、子どもの成長に合わせ手が離れ、その成長をパターンで捉えることができます。一方、介護はそのような様子が見通せず、1年後の標準的な姿が捉えられない上に、いつまで続くかもわかりません。介護は個別性が高いので、普段の働き方が問われてきます。緊急避難的な両立支援制度の整備は重要ですが、介護期間全てを両立支援制度でカバーするという考えには無理があり、職場を最小人数でマネジメントしている場合には、通常勤務への復帰時期が問題となります。
 さらに、孫の祖父母介護、叔父叔母の介護、子育てと介護のダブルケア、就活中の介護、遠距離介護などというように、介護される側、する側双方が多様化している現状があります。近年は単身介護者が増加しており、介護と仕事を一人で担わなければならないため、様々な意味で発想の転換が必要になります。
 このような状況を受けて、2016年の育児・介護休業法の改正にあたっては、介護と仕事の両立が難しく離職せざるを得ない人に必要な支援の方向性が議論されました。
厚生労働省はこれまでに、企業に対し長く休めて早く帰宅できる両立支援制度の充実を推奨してきましたが、今回の改正では、なるべく出勤し、柔軟に休める方がいいという、現在の介護当事者の実情に合った結論になりました。その結果、改正法では、長期に在宅介護する前提で考えたときに、日常的な介護に対応するための、時短制度や所定外労働免除が加えられました。
 しかし、この人手不足の時代では、時短勤務が長期化すると、会社の人事配置や、仕事の責任を果たすという部分で無理が生じるため、特定の個人を長く特別扱いできなくなってくるという問題が発生します。実際に在宅介護期間と介護離職の関係を見ると、在宅介護期間が長期化するほど継続勤務が難しくなり、3年を超えるところが一つのポイントであることがデータで示されました。このように在宅介護が長期化する場合は、いつ仕事の責任を果たし、いつ介護に時間を割くのかを自分でコントロールできることが重要になります。その働き方の一つとしてテレワークを考えてみます。
 柔軟な働き方は、仕事と生活の境目が明確に区切られているわけでなく、自己裁量で仕事と介護の責任をコントロールしなければならない側面があります。テレワークをいち早く導入した欧米でも、仕事に集中しきれず、どっちつかずになるという問題(バウンダリー・マネジメント)が指摘されています。
 しかし、仕事と介護の両立は今しないといけないことと、今しなくてもいいことを仕分けられている人は、うまく両立ができているようです。
 その人の仕事の責任の範囲、あるいはやらなければいけない仕事は何かということを日ごろから意識し、それに沿った働き方を構築しておけば、いざというときに慌てずに済むのではないかと思います。パネルディスカッションでは、その1つの象徴的な働き方として、テレワークを取り上げます。折しも、2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向け、東京都はテレワークを普及・推奨しようとしています。高齢化率が30%を超え、大介護時代に入ると言われている2025年に向けた、一つの備えになるのではないでしょうか。

【企業の取組事例紹介】
「従業員が介護に直面してもあわてない職場づくりとは」

■アスクル株式会社 人事本部 ダイバーシティ&キャリアディベロップメント部長
長谷川 仁 氏

 経営の中心となるダイバーシティ活動の一つとして、介護のテーマについてお話します。
「介護離職はしない、させない!」「明日は我が身、共に支え合う!」この2つが当社のトップ自ら社員に伝えるテーマ、考え方です。介護経験があるトップのこのような発信もあり、社員の支援に取り組むことができています。
 2015年に立ち上げたダイバーシティプロジェクトには、人事中心ではなく社員主導で取り組み、過去3年で社員の計1割弱が携わってきました。初年度に設けた6つ(女性管理職、育児、働く時間・スタイル、管理職、啓発・情報発信、介護)のタスクフォースチームが、現在の支援の礎となっています。
 介護チームは、手を挙げたメンバー6名のうち4名が介護経験者で、自身の経験、介護に立ち向かう社員の気持ちが楽になるような言葉や、介護の初動に関する助言などを盛り込んだハンドブックを自ら作成しており、当社の宝物となっています。同時に、社内に相談窓口も設置しています。
 また、研修を通し、介護離職しないことの重要性や、介護についての基礎知識と実際の介護技術についても社員に理解を深めてもらいました。
 さらに、管理職を中心にアンコンシャス・バイアス(思い込み)を取り払う研修をし、部下が介護環境に入った時の対応についてロールプレイングするなど、社員の意識を少しずつ高めています。その他、多様な働き方や休暇制度の整備に着手しており、特にテレワークについては、対象社員や実施場所の範囲を拡大しました。
 加えて、社員の声を反映する環境・風土づくりにも取り組んでいます。介護についてのアンケートの結果を支援に反映させているほか、社員同士の定期的なミーティングにより、風通しがよくコミュニケーション能力が高い企業を目指しています。
 まだ道半ばですが、トップのコミットメントや社員の声などを糧に、少しずつ前進していきたいと思っています。

■株式会社ジャパンタイムズ 執行役員 経営管理局長 
山下 淑恵 氏

 「新しい働き方へのチャレンジ」ということで、介護と働き方の両立推進について紹介します。
 従業員140名中、約半数が新聞の製作に関わっています。育休・産休からの復帰率は100%、男女ともに活躍できる職場で、また社員の4人に1人が外国籍をもっています。こうした背景から人事の考え方として、ダイバーシティとインクルーシブネスが非常に重要になっています。ダイバーシティの実践にあたっては、生まれつきの属性だけでなく、ライフステージにも対応した人事制度や労働環境の整備が必要であり、多様性こそがチームを強くすると考えています。
 また、代表取締役会長も人生100年時代を踏まえて、働き続けられる環境を提供すると宣言しています。
 新しい働き方への取組で行った代表的なことは、法律で定められるより早く、介護休暇を半日単位で取得可能にしたことです。さらに現在では、テレワークや在宅勤務を含むどこでも働ける働き方の推進、短時間勤務への社会保険適用拡大、そして現在検討中のフレックスタイム導入です。
 テレワーク推進については、国が実施する「テレワーク・デイズ」への参加、北海道にある共有サテライトオフィスへの編集局長派遣とその体験の記事化、書類の同時編集やスケジュール共有、テレビ会議が可能なクラウド型グループウェアの活用などを行っています。また、インターネット電話を導入したことで、世界中どこでもつながることができ、機器は社員個人の携帯電話を活用していることもあり、コストも削減できました。今後も、どこにいてもシステムにアクセスできる環境を作っていこうと思っています。
 新聞社という業種では、どうしてもテレワークしやすい部署とそうでない部署があるため、不公平感をなくすためにも、今後も粘り強くコミュニケーションをとりながら、社内の理解促進・周知に地道に取り組んでいかなければならないと感じています。

■株式会社日建設計総合研究所 理事 企画部長
新田 恵一 氏

 当社の「働き方改革と介護支援の取組み」を紹介します。2006年の創設当初からノンテリトリー・フリーアドレスの執務空間やリフレッシュ休暇を導入しており、2012年からは在宅勤務制度を中心としたテレワークにも取り組んでいます。
 介護関連では、法定以上の育児・介護のための短時間勤務制度等を設計し、積み立て休暇制度、介護セミナー、介護アンケート、介護ハンドブック等の方法でバックアップしています。介護ハンドブックでは、介護サービス等の支援制度や、両立の際の準備の仕方等について分かりやすく解説しています。また、社員の4割が月平均3日間のテレワーク在宅勤務を行っており、これらの取組により、東京ライフ・ワーク・バランス認定企業等に認定されました。
 その他、介護相談窓口、見守りサービス等を外部に委託し、一部費用の補助等も行っています。
 前述の介護アンケートでは、回答者の24%が介護経験者で、今後5年後までに介護が必要になる可能性がある社員は3分の1に上ることが分かりました。また介護について上司や同僚に相談する機会が少ないと感じている社員が非常に多く、中には介護が必要になった場合、離職せざるを得ないと回答した者もおり、改めて制度を見直すきっけとなりました。
 社員の介護状況は千差万別ですが、何かを始めないと始まりません。PDCAサイクルで考えると、Planは会社のサポート制度設計を必要に応じて行い、Doは相談しやすい雰囲気・風土づくりや介護ハンドブック等の作成、その後のCheckでは、定期的なアンケートにより意見聴取をする。それをActionとして制度にフィードバックし、改善していく。このようにサイクルを回していくことが、重要だと考えています。
 先進事例や社員ニーズ等を参考に制度設計をし、社員に知らせていくことで、社員は介護をしながら働き続けられるという自信を持ち、安心して働くことができるのではないかと考えています。

 

パネルディスカッション

パネルディスカッションの様子

①他社の取組について

池田氏:自社以外の講演を受けて、お互いに質問してみたいことはありますか。

■(長谷川氏から)テレワークを活用しづらい職場がどうしてもあると思いますが、そこに対しての工夫、対策等はどんなものがありますか?

新田氏:小規模企業では一人ひとりの役割が非常に重要なので、社員の声を聞き、なるべく対応できるよう、制度を少しずつ改良してきました。

山下氏:原稿の締め切りなど、時間に縛りがある中で仕事をしている人が一番テレワークを使いづらいと考えています。ただその中でも業務の種類はいくつかあるので、業務の切り分け組み合わせ方を今後考えていきたいと思っています。

■(山下氏から)介護支援の取組を進めるにあたって直面した困難や、その時どう対応したかを教えてください。

長谷川氏:繊細な問題なので、実態の見える化が難しい。また、テレワークのような新しい制度を導入する際には、本当に大丈夫かという意見もあったので、事前のトライアルにより実績を先に作りました。

新田氏:介護に関する法体系や制度の理解は非常に難しい。理解不足では社員の相談にも乗れませんので、都のセミナーに参加してその時の講師を会社に招くなど、定期的に介護セミナーを開催することで、徐々に知識を増やしてきました。

■(新田氏から)社員の介護状況をどのように把握したか教えてください。

長谷川氏:社員の会社への信頼度も上がり、実数も把握できるだろうと信じ、定点観測、アンケートを毎年継続して実施しています。ダイバーシティを推進していくためには介護は避けて通れない問題ということで、介護経験のある社員が参画してくれました。

山下氏:比較的休みやすい風土なので、社員から申し出があることは多いのですが、定点観測的な仕組みや事前に会社から働きかける仕組みを作る必要があると感じています。

②介護に直面してもあわてない職場づくりの現状

池田氏:実際に社員が介護に直面した時の困難や、それにどう対応したかをお聞かせください。

長谷川氏:社員本人は、介護に直面し、当初離職の選択肢が浮かんだようですが、周囲に育児休業経験者も多く、そういう人から話を聞くことで徐々に両立に対して自信を得たそうです。介護は終わりが見通せないので、働きながら視点を変えていくことが重要だと思っています。

山下氏:介護は施設が決まるなどの軌道に乗るまでが大変です。仕事をなるべく属人化させず、情報共有ツールなどを活用してバックアップ体制を作っておくことが非常に重要で、徐々に慌てないような体制を作っていくほかないと思っています。

新田氏:当社では個々人の役割が明確で、どうしても誰かが抜けると仕事が動かなくなるため、バックアップ体制というよりも、在宅勤務やテレワークを推進してきました。きっかけになったのは、実は、2011年の震災です。BCPの観点からも在宅勤務、テレワークは重要と考えています。

池田氏:管理職であるご自身が介護に直面した場合を考えると、いかがでしょうか。

新田氏:父親の介護経験があるのですが、自身の介護経験は実証実験みたいなもので、社内の制度や風土づくりに積極的に取り組むきっかけになりました。

山下氏:直面しないと分からないというのが実情ですが、お互いに支え合う文化はできつつあり、これまでに他の方から聞いてきた知見は参考にできると思っています。

長谷川氏:仕事とうまく両立するには、家族のみで介護せず、ある部分はプロに任せるという判断も必要だと思います。

池田氏:介護は専門的な知識が必要な営みです。家族とプロの間をうまく取り持つマネジメントは本人がやるしかなくても、専門部分はプロに委ね、抱え込まないことも、事前の心構えとして知っておくと良いのではないでしょうか。

池田氏:テレワークは一般的な働き方に比べ、自己裁量の部分が大きい働き方ではありますが、当面は何とかやりくりできてしまうが故に、社員の介護の実態の見落としやコミュニケーション不足などの懸念も生じるかと思います。管理職のマネジメント上の留意点も含め、どのようにお考えでしょうか。

新田氏:社員と会社の相互信頼がないと、テレワークは成り立ちません。誰がテレワークをしているかをオープンにしたり、仕事以外でコミュニケーションの機会を増やしたりすることが重要です。テレワーク活用の小さな成果がみられるようになってきた一方、自宅で集中して仕事をすることが難しい人もいます。生産性が向上し、ワーク・ライフ・バランスが取れているのであれば、どちらでも良いのではないかと管理職層には実例で示しています。

長谷川氏:当社のテレワークは、働く場所が違うだけという考え方が基本。コミュニケーションが必要な時は遠慮しません。すぐに対応できないこともありますが、コミュニケーションで解決していくしかありませんし、これまでに大きなコミュニケーションロスの例もありません。

山下氏:テレワークはまだトライアル中ですが、業務内容の事前申請等いくつかのルールを設けています。コミュニケーションを適宜とれば、集中して効率的に仕事ができるという声も上がっており、少しずつ理解が進んでいます。 また、クラウドサービスを利用してデータをオンライン化することで作業効率が上がった仕事もあり、普及に努めています。変化への抵抗感がある人には、まずは一度利用して便利さを分かってもらうように努めています。

長谷川氏:テレワーク実施にあたっては、事前に仕事内容を固め、出勤する日にコミュニケーションを行っている段階で、家でも十分にコミュニケーションがとれる環境整備が求められます。事前に設定したクオリティを達成できなかった場合は、管理職がワン・オン・ワンでコミュニケーションを深め、経験則を上げていく時間が必要です。

池田氏:遠距離介護への対策という点では、テレワークはいかがでしょうか。

長谷川氏:遠距離介護のためにテレワークを週2日している女性がいますが、仕事は相当効率よく進めており、介護と仕事が両立できていると認識しています。

山下氏:四国のお父様が入院して頻繁に病院に通う必要があった社員や、また終末期の看取りのために約2か月半イギリスに戻っていた社員など、テレワークを活用した例があります。

新田氏:私自身も大阪の父親の最期を看取るため、母親をサポートしながら、介護とモバイルワークをしていました。海外での仕事を含め、インターネット環境とツールがあり、働き方のルールを決めておけば、全く問題ありません。今後デバイスもより良くなると思われるので、育児も同様ですが、テレワークは非常に有効な手段だと思っています。

③今後の課題

池田氏:最後に、現在持っている問題意識等についてお聞かせください。

長谷川氏:終わりが見えないのが介護ですが、長く働く意思を持ってもらえる環境を準備することが会社の役目だと思っています。

山下氏:社員全員への周知に取り組み、コミュニケーションをもっと深めなければいけないと思っています。ハンドブックはぜひ取り入れていきたいです。

新田氏:介護支援への取り組みのきっかけとなったのはセミナーへの参加でした。情報収集をきっかけとして、自社の取組や社員について考えることは重要です。自社にはどういう介護制度があるかを総点検するのがいいと思います。

池田氏:介護に直面している従業員に対するサポートも必要ですが、介護経験者が社内にいない時でも、備えとして、介護と両立ができる働き方に焦点を当て、イメージを持つことが必要です。本日の3社の事例から、会場の皆様も介護と仕事の両立の具体的な姿をイメージしていただければ幸いです。

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