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ヤングケアラーと若者ケアラーの実態 -本人と周囲の関わりについて-

コラム

ヤングケアラーと若者ケアラーの実態 -本人と周囲の関わりについて-

小田桐麻未
一般社団法人ヤングケアラー協会 理事

1.ヤングケアラーとは

昨今、テレビや新聞などのメディアで「ヤングケアラー」という言葉を耳にすることが増えたと感じませんか?
「なんとなく聞いたことがある」という方が多いのでは、と思います。

ヤングケアラーとは、本来大人が担うと想定されている家族のケアを、日常的におこなっている子ども・若者のことを指します。日本では18歳以下を「ヤングケアラー」、19歳〜大体30代までを「若者ケアラー」と呼んでいます。

ではケアとは何か。具体的には、下記のような日々の出来事を指します。

  • ・家事
  • ・家族の身体的・精神的・医療的なサポート
  • ・きょうだいのお世話
  • ・家族のために行う通訳や労働

これだけ聞くと、家族として行う当たり前のお手伝いでは?と考えるかもしれません。
しかしケースによっては、こうしたケアを行わなくてはいけない責任が大きくのしかかり、子どもが学校に通えなかったり、友達と遊べなかったり、やりたいことができなくなってしまっています。
でも、家族のことが嫌いなわけではない。他にやれる人がいないなら、自分がやるしかない。そう考えて、自分の生活が犠牲になっていたとしてもケアを続ける人たちが大多数です。

そうしたケアの積み重ねの果てに、本人の学力低下や就労困難、メンタル不調が起きてしまい、将来のキャリア選択に大きな影響を及ぼすことがあるのです。

チャート1

本コラムでは、そうした「ヤングケアラー」の実態や背景、及びその先に生まれる働きながらケアをする「若者ケアラー」について、お届けします。

2.ヤングケアラー、及び取り巻く社会の実態

2020年に厚生労働省がヤングケアラーの実態調査を行ったところ、非常に多くのヤングケアラーが存在することが明らかになりました。

当該調査によると、以下のような実態が見えてきました。
大まかにまとめると、クラスに1~2人はヤングケアラーがいるのです。

これまでその存在は知られてこないまま、多くの子ども・若者たちは相談もできずに悩みを抱えてきたと言えるでしょう。

それもそのはずです。
これを読んでいる皆さんも、ご自身の家庭の事情を人に話すのは躊躇ってしまいませんか?
家のことを赤裸々に人に話すのはよくないこと、という価値観は広く存在すると感じます。

また例えば病気を持つ家族自身からすると、自分のことをみだりに人に話されたくないと考え、子どもに外で話さないように伝えるケースも多いです。
そうした背景があり、これまでケアラーの実態は把握されないまま社会が進んできたのだと考えます。

上述の実態調査の結果をきっかけに、国や地方自治体はヤングケアラーの支援体制の整備に乗り出しました。

自治体や学校・病院などでの講演や研修は増え、地方自治体ごとにケアラーのサポートをする「ヤングケアラーコーディネーター」という職種が生まれるなど、少しずつ取り組みが進んでいます。
そしてこうした動きをより加速させるべく、2024年以降にヤングケアラー及び若者ケアラーの支援を法制化する方針も固まりました。

3.ヤングケアラーが多く生まれる背景

未来の支援に向けて様々な取り組みが行われていますが、そもそもなぜヤングケアラーが生まれてしまうのでしょうか。
また上述の通りケアラーは増えていくと予想されており、なぜそうしたことが起きるのでしょうか。

答えは、日本の家族形態の変化にあると考えます。

まず、一世帯あたりの家族の人数が大きく減ってきています。
1953年には一世帯あたり平均5人の家族がいましたが、2016年には2.47人となっています。
これは核家族化が進んだことや、ひとり親家庭(主に母子家庭)が増えたことに起因すると考えます。

またそもそも、少子高齢化も激しく進んでいます。精神疾患を抱える人も大きく増加傾向にあります。

そうした状況では必然的に被介護者が増えていく。でも介護を担える家族の数は少ないため、一人当たりへの負担が大きくなる、という構造が加速していくと言えるでしょう。

チャート3

4.ヤングの先に 若者ケアラーの存在

さてここでもう一つ考えたいことがあります。
小さい頃から家族のケアをしていたケアラーが、19歳になったからといって、ケアが終わるのでしょうか?

答えは当然NOです。
年を重ねるごとに家族の病気が快方に向かいケアから離れることができる人もいます。
ただし全員が都合よくそうなる訳ではありません。

疾患や障害を持つ家族が急に快方に向かう可能性は高くありません。
またご家族の翻訳を手伝うケースなども、終わりがあるとは言いにくいです。
ケアラーが学校を卒業しようと、就職をしようと、年を重ねてもケアはそう簡単には終わらないものなのです。

またケアに割いてきた時間が長くなるほど、進学や就職活動に悩みを抱えるケースも多いです。

少し話しが逸れましたが、ヤングケアラーだった子どもたちはいずれ働きながらケアに臨む若者ケアラーとなる可能性が非常に高いです。
2030年に若者ケアラーは318万人になると予測されており、ケアによって労働に影響がでると仮定すると、労働力の減少が及ぼす日本の経済損失も計り知れません。

では、そんな中で若者ケアラーはどのように仕事と介護を両立していくのが良いのでしょうか。
また受け入れる企業側は、どのような点に留意すると良いのでしょうか。

5.働きながら介護を両立するためのポイント

<ケアラーの視点>

ケアラーの視点に立った時、最も大切なことは「全て自分(家族)でなんとかする」という考えを持たないことだと感じます。

冒頭で述べましたが、ケアラーの多くは家族のことが嫌いではなく、むしろ好きで大切だからこそ、自分たちでなんとか助けたいと考えて行動しています。

しかしそのままケアを続けると、仕事とケアの両立という大きな負担を抱えて日々走ることになります。その先には思い通りに仕事に打ち込めなくなったり、趣味の時間や大切な人と過ごす時間が取れなくなったり、介護にお金もかかったり…でも、介護はそう簡単に終わりません。
終わりの見えない絶望に陥ることは想像に難くないでしょう。

果たしてそんな風に苦しむことを、あなたのご家族は望んでいるでしょうか?

もしくはそうして苦しみながら多くの時間を使って、ご家族が先に亡くなった後、後悔したり恨んでしまったりしないでしょうか?

ご家族を助けるためにも、ケアラー自身が健やかであることは非常に大切です。
そのために自分たちだけでなんとかするという発想を捨て、早期に福祉と繋がることを強くお勧めします。
お住まいの地域の地域包括支援センターや保健センター、若者相談センターへ連絡をしてみてください。どんな手段があるのか選択肢を複数持ち、プロに相談できる状況に身を置くことで、ケアの負担はグッと減るはずです。
そうすることで、家族を大切に思う精神状態の維持にも繋がるでしょう。

またその上でどのような働き方が望ましいか条件を整理し、お勤め先とすり合わせていくことが望ましいです。
何曜日の何時はどうしても自宅にいないといけない、時短勤務なら家庭と両立ができる、などの具体的な条件が出てくると、企業としても検討がしやすくなるはずです。

こうした話し合いをお勤め先と行っていくにしても、やはりご本人の精神が健やかでないと、難しいと思います。

自分を大切にすることは、決して家族を蔑ろにすることではありません。
ぜひ福祉のプロを頼り、ご自身の健やかさを保ち、どう働くのが良いのかを模索していただけると幸いです。

<雇用者の視点>

「あれ?この人最近なんだか様子が変だな」と思うことがありますよね。
従業員それぞれの事情がある中でそうした変化をキャッチするのはとても難しいことだと感じます。

とはいえ従業員に健やかでいてもらい、高いパフォーマンスを発揮してもらうことは非常に大切なポイントです。昨今では採用活動の難易度も高まっており、従業員を介護離職させずに力を発揮してもらうことは、企業の命題だと言えるでしょう。

従業員の悩みの中で「介護」が出てきた際には、ぜひ以下の点にご留意いただくと良いかもしれません。

①ひとり(家族)で介護を抱えていないか

明らかにしんどい状況で従業員が過ごしているのに、外部のサポートが入っていないと感じた際には、ぜひ外部を頼るように勧めてみてください。
介護という慣れない状況では、どんな人も視野が狭くなってしまいます。少し冷静に第三者から寄り添ってもらうことでしか、気づけないことがあるはずです。

一方、雇用者側も介護に慣れていない可能性が多分にあります。
どこを頼るよう勧めたらいいのか…
そんなことで悩んだ際には、ケアラー向けの相談窓口を提供している民間団体がいくつもあります。
「自治体ではそもそもどんなサポートが受けられるんだろう?」と思われた際には、そうした民間団体に問い合わせをすることもお勧めです。

家事支援や介護の介助という物理的なサポートから、ケアラー本人のメンタルのケアまで、サポートは多岐に渡ります。
適切なところに本人が繋がることで、お仕事への影響も変わってくるでしょう。

②どのように働くことができるのか、条件面を本人とすり合わせる

上述のケアラー視点でも記載しましたが、結局はどのような働き方ならできるのか、パフォーマンスが出せるのかという点は非常に重要です。
今と違う働き方(時短や在宅など)をすれば違う形でもパフォーマンスが出せるのか?
そもそも課す仕事を変えてみたら変わるのか?
など、条件面を一度考え直してみると、会社にとって従業員を失わずに、手を取っていけるかもしれません。

そうした交渉をする上でも、やはり従業員自身が健やかでないと、話し合いは難航するでしょう。①の対応をすることで、より落ち着いた状態での話し合いが実現するはずです。

6.1億総介護社時代に向けて

以上、ヤングケアラーの実態や背景、及び若者ケアラーが仕事と介護をどう両立するかについてお話しさせていただきました。

子供にとっての「家のお手伝い」も、会社における「仕事と介護の両立」も、今に始まったことではなく存在し続けていたものだと思います。

ただその負担がどんどん大きくなってしまって、社会が耐えきれなくなる時がきているのかもしれません。
これまでと同じ定規の中でこれらを取り扱っていくと、子どもたちは未来に夢を描けず、若者たちは介護と仕事の両立ができずどちらかを手放し絶望していくのだと考えます。

社会の変化に自分たちが変化し合わせることは、とても難しいです。
なので大きなことを始めるのではなく、まずはこれをお読みいただいたひとりひとりが、小さくアクションしてみてもらえたらと思います。

いつか「あれ?この人ケアラーなのかな?」「学校にきてもいつも眠そうなのは何かあるのかな?」「最近仕事のミスが増えているけど、何かあったのかな」・・・
そんな風に感じた時、少しの思いやりを持って話しかけてみてください。
その一言が、ひとりの当事者を救うことにつながります。

そうして救われるひとりが増えていくことで、社会は変わっていきます。
ぜひいずれかのタイミングで、こんなコラムを思い出していただけると幸いです。

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