テレワークを活用して介護と仕事の両立を!
コラム
テレワークを活用して介護と仕事の両立を!
株式会社ルシーダ 代表取締役社長 椎葉怜子
一般社団法人日本テレワーク協会 客員研究員
平成29年度取材
テレワークとは?
- 情報通信技術(ICT = Information and Communication Technology)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことを指します。代表的なテレワークには、自宅で仕事をする「在宅勤務」、仕事の移動中やカフェなどを利用して行う「モバイルワーク」、駅前や郊外などの本拠地とは別の仕事スペースを利用する「サテライトオフィス」があります。
代表的なテレワークの形態について
- 総務省「平成28年通信利用動向調査」(2017年6月)によると、テレワーク導入企業に占める各形態は、「モバイルワーク」63.7%、「在宅勤務」22.2%、「サテライトオフィス勤務」13.8%。この時点では、モバイルワークが6割を占めています。モバイルワークだと営業回りの合間にカフェでパソコン作業をすることが考えられますが、この場合だと無料で利用できるWi-Fi環境が信頼できるものでなかったり、トイレに立つたびにパソコンをしまわなくてはいけない、電話がしづらいなど、仕事をする環境としては万全ではありません。
- それに比べて、仕事をするためのスペースであるサテライトオフィスなら、一般的にセキュリティがしっかりとしたWi-Fi環境があり、入室のチェックも行われているので、パソコンの管理などもしやすいという利点があります。サテライトオフィスを法人契約する企業も増えているので、今後ますますサテライトオフィスも増えていくことになるでしょう。サテライトオフィスが普及すれば、日中は配偶者や子どもが家にいて在宅勤務がしにくいという人もテレワークがしやすくなります。
テレワーク導入における7つのメリット
- テレワークの効果については、7つに集約することができます。「事業継続の確保」「環境負荷の軽減」「生産性の向上」「ワークライフバランスの実現」「優秀な社員の確保」「オフィスコストの削減」「雇用創出と労働力創造」がこれにあたります。
- テレワーク導入にあたり、データや情報を紙に集積していては、在宅やサテライトオフィスでの作業ができません。そのため、ペーパーレス化が一気に進み、資料などで埋まっていたオフィススペースがどんどん空いてきます。そんなに広い本社スペースを必要としなくなってくるので、オフィスコスト削減につながります。
- 今や転職者が企業を判断する際に、働きやすいかということが重要なポイントになっています。テレワーク導入という多様な働き方を推進している企業は、採用の大きなメリットにつながります。
テレワーク導入の際に、何が問題になってくるのか?
- いいことづくしのテレワーク導入ですが、海外に比べ、日本ではまだまだ進んでいないのが実情です。それはなぜでしょうか? ひとつには、日本独自のカルチャーが影響しています。たとえば、人と人は顔を合わせて仕事をするものだ、外回りをしていても1日に1度は会社に顔をだすものだ、といった慣例がまだまだ根づいています。
- 生産性を考えれば、営業先には直行・直帰して、自宅で他の作業を進めた方がずっと効率的に仕事ができるはずです。慣習化してしまった行動に疑問をもたない=思考停止してしまった状態が、ここでは一番の問題ではないかと考えられます。どの分野でも世界的な競争が厳しくなるなか、生産性が上がらないオフィス環境では、スピード感で負けてしまいます。
- テレワーク導入を大きく掲げると、たいへんなコストがかかるイメージがあるかもしれませんが、いきなり制度として進めなくても、初期費用を抑えて対象者を限定した形でトライアルを重ね、段階的に導入する方法もあります。
- テレワークを導入した企業を支援する、東京都の助成金制度や相談窓口もあるので、活用してみることをおすすめします。
<東京都の中小企業を対象としたテレワーク助成金制度>
http://www.hataraku.metro.tokyo.jp/josei/katsuyaku/seibi/index.html
<東京テレワーク推進センター>
http://www.hataraku.metro.tokyo.jp/sosiki/telework-center/index.html
テレワークによる「介護と仕事の両立」の実態と今後の在り方について
- 介護と仕事の両立のためには、介護がどういうものなのか、その正体を知ること。社員に介護と仕事の両立の理解を促すために、介護制度や活用事例(経験した社員による事例紹介等)を紹介するセミナー等の情報発信や啓蒙活動を行うことが有益です。
- 育児と違い、介護は社内で知られたくないという意識が強く、介護を理由として在宅勤務を申請する社員は少ない傾向にあります。そのため、介護と仕事の両立の好事例はまだ少ない状況です。
- 介護とテレワークの両立の1つの例としては、ケアマネジャーさんとの打ち合わせのため午前中に半日有給を取り、午後は半日在宅勤務という形を取れば終日休まなくて済みます。
- 介護をする従業員を想定して、在宅勤務の場所を自宅だけでなく、「実家」も対象に含めたテレワークの先進企業も出てきています。
- テレワークを活用した遠距離介護と仕事の両立については、テレワーク導入済みの企業においても手探りで検討している状況といえますが、テレワーク環境の普及、介護離職の増加や遠距離介護のニーズを受け、これから徐々に広まっていくものと思われます。
- テレワークの制度導入にあたって、最終的には「育児や介護」に関わらず「幅広い社員」が活用できる制度にすべきです。条件付きだと、まわりへの気兼ねなどから利用しづらくなります。福利厚生目的ではなく生産性向上を意識した制度にした方が企業、社員ともに好循環を生むこととなります。
- 介護と仕事の両立のためには、介護がどういうものなのか、その正体を知ること。社員に介護と仕事の両立の理解を促すために、介護制度や活用事例(経験した社員による事例紹介等)を紹介するセミナー等の情報発信や啓蒙活動を行うことが有益です。
テレワークによる遠距離介護と仕事の両立の事例
- Fさんは東京の企業で働く50代の女性です。実家は静岡にあり、母親は数年前に癌で亡くなっています。母親の介護を担い、一人で自立して生活していた85歳の父親が肺炎をこじらせて要介護5の寝たきりになりました。父親は入院せず、在宅ケアで連日ヘルパーさんのお世話になっています。
- Fさんは父親と過ごす時間を確保したいと考え、上司に相談して実家がある静岡での在宅勤務を認めてもらいました。会社が推奨している在宅勤務の曜日は水曜日でしたが、それだと土日と絡ませることができないため、上司と相談し、木曜日の終業後に東京から静岡まで新幹線で移動して金曜日のみ静岡で在宅勤務をすることにしました。週末は静岡で過ごし、月曜日の早朝に静岡から会社に出社。月曜日から木曜日は出勤するようにしました。また、在宅勤務日の金曜日は朝6時から働いて15時半には仕事を終え、平日のドクター往診や歯科衛生士訪問、ケアマネ面談に対応できるようスケジュールを組みました。
- Fさんは在宅勤務を利用できたことで、結果的に会社をほとんど休むことなく介護ができ、自宅で父親を見送ることができました。
テレワークによる遠距離介護と仕事の両立のポイント
- 上司や同僚との信頼関係を築いておく(遠距離介護をしながら仕事を続けることへの安心感や両立のヒントを得られることも)
- テレワーク中は業務に集中する(業務効率が落ちないようオンとオフを切り分ける。在宅勤務の場合は親の理解を得て業務に集中する)
- 自分を大切にする(移動距離や移動頻度にもよるが、介護と仕事の両立は精神的にも肉体的にも負担が大変大きい。自分が倒れてしまわないよう自分も大切に!)
- チーム体制を築く(介護に関しては地元のケアマネジャー、ヘルパーさん、医者、近所の人、親戚との良好な関係を構築しておく。仕事に関しても、自分が仕事に穴をあけてもカバーしてもらえるよう情報共有を積極的に行っておく)
- 事前に積極的に情報収集しておく(地元の地域包括支援センター等の連絡先や地元の自治体の介護サービスについて詳しく情報収集しておく。また、親の介護の意向やかかりつけ医、預金等の資産や年金の種別などについても把握しておく。併せて、会社の介護と仕事の両立に関する制度について情報収集しておく)