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アクティブシニアのフレイル

コラム

〜アフターコロナで顕在化するリスクと職場での対策

前田めぐる
(公益社団法人日本広報協会 広報アドバイザー)

令和4年度執筆

アフターコロナで懸念される介護の課題とは

 アクティブシニアのフレイルは、シニア層を家族に持つ社員とその職場が、アフターコロナに向けて重視したいキーワードです。
  「アクティブシニア」の明確な定義はありませんが、ここではさまざまな情報から総合的に見て、「仕事や趣味を積極的に楽しみながら、定年後のセカンドライフを送る65歳以上のシニアのこと」と捉えます。健康意識が高く、新しい価値観を取り入れる自立した人が多いようです。
  しかし、そのように充実したアクティブシニアにも、コロナ前には意識されることの少なかった「フレイル」の問題が浮上してくるのです。

アクティブシニアの「コロナフレイル」「巣ごもりフレイル」

 フレイルは、“『加齢に伴う予備能力低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態』を表す“frailty”の日本語訳として日本老年医学会が提唱した用語である”(一般社団法人日本サルコペニア・フレイル学会 HPより)とされています。要介護状態に至る前段階と考えられ、放置すれば介護離職に至るかもしれないリスクをはらんでいます。大きく分けて次の3つがあります。
身体的フレイル/身体機能の低下から起こるフレイル。ロコモティブシンドローム(立ったり歩いたりの移動機能が低下)や、サルコペニア(筋力の低下)などが代表的です。
精神・心理的フレイル/認知機能の低下、無気力・無関心、うつなどの状態になるフレイル。定年退職や子どもの独立、パートナーや親しい人との死別などから、意欲が低下し、孤独感を感じることがあります。
社会的フレイル/定年退職や子どもの独立などから社会的なつながりが希薄になり、閉じこもりや経済的困窮の状態になるフレイル。

 アクティブシニアは、日頃から健康意識が高く、行動的であるため、一見フレイルとは無縁のように考えられがちです。しかし、そこにコロナ禍の落とし穴があるのです。
  まず、アクティブシニア本人が感染した場合、療養後は体力が低下し、使われなかった筋力が衰え、たちまちフレイルに陥るでしょう。
  また、感染していない場合でも、コロナ禍の影響は小さくありません。パートタイムの仕事がなくなったり、趣味・ボランティアの機会が失われたり、スポーツクラブが休業したりなどさまざまな要因から、生活不活発になってしまいがちです。
  こうしたコロナの影響によるフレイルは、「コロナフレイル」「巣ごもりフレイル」などと呼ばれます。

 もし、働き世代の親(近親者含む。以下同じ)がそのような状況であれば、子である社員にただちに影響が及びます。フレイルから要介護の状態に移れば、介護離職をする社員も出てくるかもしれません。コロナ禍におけるアクティブシニアのフレイルは、それまで全く介護の心配がなかった社員とその職場ほど、注意が必要な課題なのです。

フレイル予防のために職場ができること

 注目したいのは、フレイルが持つ「可逆性」です。早めにチェックし、フレイルに気付いて介入すれば、元の健康な状態に戻ることができるのです。
  「アクティブシニアであってもコロナフレイルは起こりえる」という認識のもと、親子で予防に取り組んでもらうように職場から働きかけましょう。

 具体的には、次の3つを呼びかけるようにします。
・「フレイルのリスクを知り、予防を心がけよう」
・「基本チェックリスト(KCL)」でフレイルに早めに気づこう」
・「フレイルから早く回復しよう」
  順に説明します。

◇フレイル予防を社員に呼びかける
  職場から社員に対して、アクティブシニアの親にもフレイルのリスクがあることと、その予防を呼びかけましょう。予防のポイントは「栄養、運動、社会参加」です。日頃から以下のことに留意します。
・バランスのいい食事を摂り、筋肉の元となるタンパク質をしっかり摂取。口腔ケアも日常的な習慣に。
・散歩やラジオ体操など適度な運動を心がけ、筋肉量を維持できるよう、習慣化。
・感染対策が施された場で行われる趣味・仕事・ボランティアなどの社会活動にも参加する。
・もし持病があれば悪化させないよう気を付ける。
・感染症流行期はワクチンを打つなどの感染対策にも配慮する。

◇「基本チェックリスト(KCL)」でフレイルに早めに気付いてもらう
  「基本チェックリスト(KCL)」(国立長寿医療研究センター)は、近い将来要介護状態となる可能性のある高齢者を抽出するために活用されている総合的テストです。全25項目の質問は「はい、いいえ」で簡単に答えられます。プレフレイルの基準は4〜7項目、フレイルの基準は8項目以上とされています。

No.

質問項目

回 答

1

バスや電車で1人で外出していますか

0.はい

1.いいえ

2

日用品の買い物をしていますか

0.はい

1.いいえ

3

預貯金の出し入れをしていますか

0.はい

1.いいえ

4

友人の家を訪ねていますか

0.はい

1.いいえ

5

家族や友人の相談にのっていますか

0.はい

1.いいえ

6

階段を手すりや壁をつたわらずに立ち上がっていますか

0.はい

1.いいえ

7

椅子に座った状態から何もつかまらずに立ち上がっていますか

0.はい

1.いいえ

8

15分間くらい続けて歩いていますか

0.はい

1.いいえ

9

この1年間に転んだことがありますか

1.はい

0.いいえ

10

転倒に対する不安は大きいですか

1.はい

0.いいえ

11

6ヶ月間で2〜3kg以上の体重減少はありましたか

1.はい

0.いいえ

12

身長(   cm)、体重(  kg)*BMIが18.5kg/m2未満なら該当

1.はい

0.いいえ

13

半年前に比べて堅いものが食べにくくなりましたか

1.はい

0.いいえ

14

お茶碗や汁物などでむせることがありますか

1.はい

0.いいえ

15

口の渇きが気になりますか

1.はい

0.いいえ

16

週に1回以上は外出していますか

0.はい

1.いいえ

17

昨年と比べて外出の回数が減っていますか

1.はい

0.いいえ

18

周りの人から「いつも同じことを聞く」などの物忘れがあると言われますか

1.はい

0.いいえ

19

自分で電話番号を調べて電話をかけることをしていますか

0.はい

1.いいえ

20

今日が何月何日かわからない時がありますか

1.はい

0.いいえ

21

(ここ2週間)毎日の生活に充実感がない

1.はい

0.いいえ

22

(ここ2週間)これまで楽しめてやれたことが楽しめなくなった

1.はい

0.いいえ

23

(ここ2週間)以前は楽にできたことがおっくうに感じられる

1.はい

0.いいえ

24

(ここ2週間)自分が役に立つ人間だと思えない

1.はい

0.いいえ

25

(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする

1.はい

0.いいえ

「基本チェックリスト(KCL)」(国立長寿医療研究センター)
https://www.ncgg.go.jp/ri/topics/documents/cgss1.pdf
上記の21ページより抜粋
BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)

また、各項目は手段的日常生活活動(1~5)、身体機能(6~10)、栄養状態(11、12)、 口腔機能(13~15)、
閉じこもり(16、17)、認知機能(18~20)、気分(21~25)に分けられ、項目ごとのフレイルも抽出できます。
例えば、18〜20では1つでも該当すれば、認知的フレイルです。
上記リンク先ファイルの20ページに詳しく解説されているので、判断の材料にしましょう。

◇フレイルから早く回復できるよう促す
  早め早めがポイントです。もしフレイルに該当したら、「気のせいだろう」と見過ごさず、ただちにフレイルからの回復を図るようにしましょう。親と同居する社員は、栄養管理にも気を配るようにします。
  職場でも、社員の親が遠方で暮らす場合は、オンラインを活用した実家とのコミュニケーションなどを呼びかけましょう。さらに、アフターコロナに向けてテレワークを継続的に活用し、社員が実家のサポートと仕事の両方をできるような制度も整えましょう。

フレイル予防の鍵は自分ごと化

 健康経営とは、社員だけでなく、社員の家族も含めて考えるものです。職場では、親や介護のことを気軽に話せるような雰囲気づくりを心がけましょう。そうすれば、社員がある日いきなり退職を願い出るということも減らせるはずです。

 フレイルをはじめ、介護で最も必要なことは「自分ごと化」です。自分の親だけは元気と考えている社員は意外と多いもの。それだけに、もしフレイルが起きたらすぐに介入できるよう、日頃からの周知を徹底することが健康経営上のリスクコミュニケーションだといえます。

◇フレイルに関する学びのツールを制作
  スマホの普及でシニアのネット利用率は高いものの、パッと目につく場所にある紙媒体にはやはり訴求力があります。上述した「予防・チェック・回復」までを一覧できるようなパンフレット(PDFや紙媒体)など学びのツールを整備しましょう。

◇認定制度で親のフレイルを自分ごと化
  学びのツールは、単に配布して終わりではなく、定期的な講座を設けて学びを定着させると良いでしょう。タイミングとしては、親が定年退職する前年度あるいは、64歳になる年などが目安です。
講座を受けた社員を社内のフレイルサポーターとして認定するのも手です。将来的には社員自身のフレイル予防にもつながります。

◇社内の経験者にも学ぼう
  介護は100人いれば100通り。テキストでは学べない生きた実例が、社員それぞれにあるはずです。フレイルの状態にある親が回復した社員、介護を経験した社員の話を聞く機会を持つことも、自分ごと化へつながります。フレイルや介護も社内で役立つ経験として蓄積されることが、将来的にも企業の健康経営を盤石にするでしょう。

健康経営のためにリスクコミュニケーションでできること

  新型コロナ感染症の蔓延は、現世代が経験する初めてのパンデミックでした。新たな感染症が発生するリスクは常にあり、社会は複雑に変化しています。
リスクコミュニケーションのポイントは、社会の変化を常に捉え、リスクを最小限に抑えるよう情報コミュニケーションを図ること。どのような場合でも、以下の基本は同じです。
  1. 起こりえるリスクを事前に想定する
  2. 予防策を講じる
  3. もし起これば速やかに回復を図る
  親の現状は、社員にとってもやがて自分がたどるかもしれない道そのものです。学んで損になることは何一つなく、社員と職場双方にとってメリットしかありません。
  激変する時代における健康経営を行っていくためにも、日々必要な情報を更新し、都度手立てを考え、周知徹底していくようにしましょう。

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