事例15:大成建設株式会社
気兼ねなく利用できる両立制度を整備し、育児や介護を行う従業員への支援を行う
大成建設株式会社
1.企業概要
創業年:1873年
所在地:東京都新宿区西新宿一丁目25番1号 新宿センタービル
従業員数:8,613名(男女比8:2平均年齢47歳)
男性育児休業取得率:100%(2017年から2023年まで)
事業内容:地域・都市開発。道路・鉄道・港湾・空港等の企画、設計、施工及び運営
2.取組の背景
当社では人事部人材いきいき推進室が中心となり、従業員が育児・介護と仕事を両立するための支援を行っています。業界に先駆けて2007年に専門の組織を立ち上げました。当社の業務は男性の多い職種となっていますが、会社として指導的地位に就く女性社員を増やすことを目標としました。女性の昇進が遅れやすい理由として、「出産、育児」が挙げられるため、妊娠、出産、育児に関する休業制度や両立支援制度を設けることとなりました。介護については2008年~10年、女性社員の活躍を阻む職場問題を議論する中で、女性従業員だけでなく男性従業員も同様に心配を抱えているという意見を多く耳にすることとなり、2010年から、全従業員を対象とした当社の介護支援制度が始まりました。2010年、「女性活躍推進室」が「人材いきいき推進室」に改称され、全従業員が利用できる育児・介護と仕事を両立するための支援を進めています。
当社では、年に4~5回社内報を発行しておりますが、社内報の2023年11月版の中で社長からのメッセージとして介護支援制度の利用を促進する記事が掲載され、会社として介護を理由とした離職をなくすことに真摯に取り組む姿勢を表明しています。
3.取組内容
現在当社は育児の支援として、最長2歳までの育児休業、小学校就学前の子に対する看護休暇、小学校3年生修了まで利用できる育児短時間勤務、フレックス勤務、テレワーク、1歳未満の子を養育する女性社員の勤務中の育児時間の確保、所定外労働及び休日労働の制限、深夜業の制限、ベビーシッター利用補助、全国の企業主導型保育園との提携などの取り組みを設けています。
さらに介護の支援として最大180日取得することができる介護休業、要介護者1人につき年間15日取得できる介護休暇、リバイバル休暇、フレックス勤務、勤務時間の短縮措置、時間外労働の制限、所定外労働及び所定休日労働の制限、深夜業の制限、などの取り組みを設けています。
2019年には全従業員へのストレスチェックに伴い、介護についてのアンケートも行いました。その結果として全従業員の約12%が何らかの形で介護に関係しているということが明らかになりました。2022年度には180名の方が介護休暇を取得されています。管理職向けの研修の中で、「部下との面談を行う際に、『介護が始まりそうなときには、会社に相談してほしい』と告げてほしい。管理職の職務の一つですよ」と伝えています。さらに年3回、外部からの講演者を招いて、従業員や家族が参加可能な介護に関するオンラインセミナーを開催する他、NPO法人と契約して介護についての個別相談もできる体制をとっています。
育児についても、法定の制度に上乗せした育児目的有給休暇や出生時育児休業期間(生後8週以内に4週間まで)の有給化を取り決めています。さらに「男性社員の育児休業取得率100%」及び「男性の育児休業平均取得日数14日以上」をKPIに掲げて積極的に推進しています。その結果、2017年度以降に子供が生まれた男性社員は、100%育児休業を取得しています。また、2023年度の平均取得日数は17日を超える結果となりました。まずは社内で性別を問わず育児休業を取得する事が当たり前の事として認識され、取得日数がさらに伸びていけばと考えています。
また、不妊治療や女性の健康課題についての相談を従業員やその家族が各自で行えるように、2022年2月から社外専門窓口を設置しました。従業員が社内の部署を通さずに利用できる仕組みにし、利用のハードルを下げるようにしています。2022年6月の人事担当者向けの研修では、従業員との堅苦しい面談ではなく、「雑談」を利用して各人の考え方やライフイベントについて話しやすい雰囲気を作るなどの実用的なアドバイスもしています。さらに、2023年7月には、プレコンセプションケア(現在のからだの状態を把握し、将来の妊娠に備えて、健康に向き合うこと)に関する取り組みを実施しました。全社で200名を超える社員の参加があり、関心の高さが明らかとなりました。
4.社内でダブルケア従業員が発生した場合の施策
当社では、ダブルケア従業員のための特別な制度は設けておりませんが、仮にある従業員が育児も介護も担わねばならない事態になっても、会社としては十分支援していくことは可能です。育児休暇や介護休暇は有給扱いであり、申請についても通常の有給休暇と同じ手続で取得することが可能であり、所属長の許可があれば人事部への申請は不要としています(育児休業や介護休業については給付金の関係がありますので、人事部へ申請してもらっています)。前述したとおり休暇・休業の日数や取得方法を法定のレベルよりも手厚くすることで、従業員が積極的に社内制度を利用し、離職を避けることができている望ましい状況と認識しています。
さらに介護や育児を理由としたフレックス勤務やリモート勤務を選択することも可能です。当社は、一人の従業員が育児休業/休暇や介護休業/休暇を同時期に取得する状況が生じたとしても、部署内でサポートしあうことが可能です。また、管理職もマネージメント研修を経て、そのような状況に対応する事ができています。
5.これまでの効果と今後の課題
団塊の世代が後期高齢者の75歳になる、所謂「2025年問題」については、当社従業員にとっても無関係ではないと考えています。社内の支援制度は制定されていますが、各人が介護を自分のこととして、そして「お互い様」であることを認識し取り組むことが必要になってくると考えます。参加希望の従業員とその家族を対象に定期的に開催しているオンラインの介護セミナーは、毎回参加希望者が200名以上であり、潜在的には多くの従業員とその家族にとって介護が大きな関心事になっているということが理解できます。この参加者が更に増えることを期待しています。
育児支援については、共働き家庭が増え、ベビーシッターや保育園の延長利用などの第三者による支援が必要になっている家庭が多くなっています。特に、子供の急病時や研修、出張等の場合、女性側が業務を調整するケースが多いため、男女間の公平性が確保されるような取組みを考えていきたいです。また、男性の育児休業取得率100%の達成には同じ部署内の同僚の支援が伴っています。今後は育児休業を取得する男性従業員を支援する同僚従業員たちへの支援も考えていきたいです。
当社グループの理念である「人がいきいきとする環境を創造する」ためには、まずは社員がいきいきとしなければなりません。介護支援、育児支援、ダブルケアについても当人となった従業員が利用しやすい制度を整えると共に、制度を利用しやすい環境を整えていきたいと思います。