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平成28年度仕事と介護の両立推進シンポジウム講演要旨

平成28年10月20日(木)、日経ホールにて「仕事と介護の両立推進シンポジウム」を開催しました。

基調講演

「キャリアと介護の両立にチャレンジする社員の支援 ~介護離職を防ぎ、介護社員を活かす職場づくり~」

<講師>
内閣府少子化社会対策大綱の具体化に向けた結婚・子育て支援の重点的取組に関する検討会
座長代理 (兼務 東レ経営研究所)
渥美 由喜 氏

  • 介護は主婦がやっているというイメージがありますが、介護を担う人のうち、過半数が働いていて、6割が40代、50代、そのうち4割が男性です。管理職で介護をしている人は8万人おり、その8割は男性です。介護については、カミングアウトできずに抱え込み、介護休業も取得せずに離職してしまう状況があります。
  • 本日は、介護をしながらいかにキャリア形成するかについて、私自身の仕事と介護の両立経験を踏まえ、ダブルケアと格闘しながら考えてきたことをお話しします。
  • 私は、社員の介護不安を軽減させるために企業が提供できるのは「全体観」、「時間」、「安心感」だと思っており、「勘どころ3つ」と言っています。
  • 全体観には、介護は先が見えない辛さがあります。基本的な心構えを事前に情報提供し、準備させることが大事です。企業は、介護する社員を応援するわけではなく、介護をしながら仕事を頑張る社員を応援するというスタンスが重要です。どう介護をしながら仕事と両立できるかという情報を提供するべきです。長期の休業・休暇の取得促進など、配慮のし過ぎは逆効果です。
  • 時間について、仕事と介護の二者択一で、介護休業制度を軸に介護休暇をどう取るか、と捉えられがちですが、フルに休まなければいけない状況はそれほどありません。突発的にいろいろなことが起きて、それに振り回されます。その時間をどう確保するかですが、方法は2つです。時間にある程度バッファーを取っておくことと、自分がコントロールできる部分は徹底的に効率化することです。
  • 私自身が深刻な父の要介護状態で就労継続できたのは在宅勤務やテレワークが有効だったと思っています。介護の合間をうまく使って仕事をするのです。私はコンサルタントですから、部下をお客様の元へ行かせてそこと自宅のパソコンをつないで、打ち合わせをするということも行っていました。私はどんな職種であっても、工夫次第で在宅勤務は可能だと思っています。
  • 安心感については、介護が終わって職場復帰しても、キャリアを諦めずにいられる職場をどうやって作るかです。
  • 制約社員への業務配分は、仕事量ではなく質を考慮することです。やりがいのある仕事を与えることで、多少の困難があっても離職を防ぐことも出来ます。また、突発的な事態に備えてのサポート体制構築が不可欠であり、その際には上司のマネジメントスキルやコミュニケーションスキルが重要です。
  • 仕事と介護の両立において、事前にできることとしては業務体制の見直しと、ワークの備えです。日頃から業務の見える化、複数担当制(特に複数体制の管理職業務)を進めるべきです。
  • 働く人も自己研鑚して、フレックスタイム制や短時間勤務でも対応できるよう、日頃からタイムマネジメントスキルを身に付けることです。日々、担当業務を見直す、業務の振り方を工夫する。管理職は、部内での指示・報告ルートを一時的に見直し、サポート体制を組むことも必要かもしれません。
  • 同僚の仕事量および負担が増加し、不公平感が増すことも当たり前にあると思います。しかし、そこは支える側の同僚に対し、経済的な見返りや、人事評価を正しく行うことで対応すべきです。
  • 企業も最大の経済的支援は就労継続だと考えるべきです。また、どうやって介護をしながらキャリアを形成するかというところの情報提供・相談体制の構築が重要です。
  • 私は、制約社員で活躍している人には、メンター(相談相手)やロールモデルがいると思います。私の場合は、元上司の佐々木常夫氏がそうでした。ただ、上司は変わりますので、どんな状況になっても仕事は続けるという覚悟が大事です。この他、パートナーの理解、アグレッシブであること、ポジティブシンキングが重要です。
  • ワークライフバランス推進に即効薬はありませんので、地道な取組が不可欠です。しかしながら、推進することで社員の離職防止だけでなく、人材獲得のチャンスに繋がります。是非、介護が始まっても安心して働ける会社を目指していただきたいと思っています。

パネルディスカッション

『企業の事例に学ぶ、社員の介護離職防止の具体的な取組について』

[パネリスト]
・ケアコンサルタント/看護師・ケアマネジャー・産業カウンセラー
川上 由里子 氏
・(株)三井住友銀行人事部 ダイバーシティ推進室 室長
渋谷 珠紀 氏
・(株)阿部兄弟建築事務所 代表取締役社長
荒井 豊人 氏
[コーディネーター]
内閣府少子化社会対策大綱の具体化に向けた結婚・子育て支援の重点的取組に関する検討会
座長代理 (兼務 東レ経営研究所)
渥美 由喜 氏

<取組事例>

働く人の『仕事と介護の両立』

ケアコンサルタント/看護師・ケアマネジャー・産業カウンセラー
川上 由里子 氏

  • 介護は一人ひとりさまざまな形があります。私は、40代半ば働き盛りのステージで6年間父の遠距離介護を経験しました。
  • また、多くの方々の介護相談をうかがう中で、仕事と介護の両立のためのコツは、事前の準備です。介護に直面してからでは気持ちの上で余裕がありません。事前の情報収集や制度理解、コミュニケーションなどは後にとても活きてきます。
  • 介護が始まると、立て続けにさまざまなことが発生し、状況に応じた対応を求められます。その際に大事なことは、一人で抱え込まず、プロジェクトチームを組むこと、相談することです。また、介護には、生活支援や情報収集、連絡調整など多くの時間をとられますので、自身のワークライフバランスを整えることがとても大切です。
  • 私の場合は、家族と専門職、総勢20名で父を支えていたため、情報共有や連絡体制づくりには、ケアノートを共有するなど工夫しました。また、親の介護、住まい、医療、特に延命治療や終わり方に関する意思希望は、本人のみならず働く人にも大きく影響しますので、元気なうちから話し合っておくことをお勧めします。私は親の希望を知っていたため迷いなく行動することができ、仕事と介護の両立に役立ちました。この他、主たる介護者へのケアや家族やプロジェクトメンバーへの情緒的支援、職場では介護をオープンにすることも心掛けました。重要なポイントです。
  • 職場としては、介護の特性から突発的にさまざまなことが起きますので、長期の休業取得よりも、その人にあった柔軟な働き方の選択を用意することが望まれます。
  • 働く側としては、介護が発生したらまずは上司に報告し、自社で自分が使える、使いたい制度を確認することです。これは、介護に直面する前から行っていただきたいことでもあります。介護に直面する前は心構え等備えのために、直面してからは両立をこころがけて、セミナーやワークショップ等にも積極的に参加していただきたいです。
  • 介護は、マイナスに捉えられがちですが、親や家族の痛みや悲しみに寄り添う、人としてとても大切な時間だと思います。仕事と同じように自分を成長させてくれますので、是非仕事と介護の両立を諦めないで欲しいと思います。

三井住友銀行におけるキャリアと介護の両立支援

人事部ダイバーシティ推進室 室長 渋谷珠紀 氏

○株式会社三井住友銀行
事業内容:銀行業
従業員数:約28,000名

  • 当行が、介護とキャリアの両立支援に本格的に取り組んだのは、この1年のことです。それまでは、会社側も社内の介護の実態が分からない手探りの状態が10年ほど続いていました。
  • 取組のきっかけは、2015年にある部門の介護中の5人の管理職と事務局による覆面座談会を実施し、管理職世代が既に介護に直面しているという事実をあらためて突きつけられたことでした。
  • そこで、2015年の10月に全従業員を対象にした初めての介護実態アンケートを実施しました。結果は、介護に直面した場合の就業継続の可能性「わからない」が50%、「継続できない」が30%、「社内外の介護支援制度を理解している」のはわずか5%、介護に関する相談先は4割が「上司」と回答していますが、その上司もほとんど介護知識がないというものでした。
  • この調査によって介護が喫緊の課題であることが分かり、以後は、経営陣もフルコミットした状態で、一連の取組を進めることができました。
  • 取組は大きく分けると2つでして、両立に関する情報提供と制度の柔軟化です。特に、情報提供についてはかなり力をいれました。働きながら介護することが可能なのだという認識を浸透させることを目的に、以下3つの取組をしています。①介護セミナー(事前準備や心構えを伝える)、②介護サイトの新設、③全従業員に対しての両立支援ハンドブックの配布です。制度の柔軟化は、介護休業の分割取得等、法改正を先取りして導入しました。
  • 取組により好事例も出てきているため、今後も継続的なメッセージ発信とともに、両立事例を蓄積し、管理職に還元することにより職場単位で風土づくりをしていきたいと思っています。

ライフとワークのバランスがハイパフォーマーへの原点!

株式会社 阿部兄弟建築事務所
代表取締役社長 荒井豊人 氏

○株式会社 阿部兄弟建築事務所
 事業内容:建築の意匠・構造に関する企画、設計、工事監理
 従業員数:23名(2016年7月末現在)

  • 建築系の技術者というのは、1人前になるのに10年近くかかります。その間に様々なライフステージを迎えるため、従業員と会社がどう対応していくかは課題になってきます。
  • 平成26年度に東京都のワークライフバランスの認定(多様な働き方部門)を受けました。当社でのライフステージは出産、育児、介護、自己研鑽、趣味等全てが含まれます。そのため、一人ひとりが望むオーダーメイドの働き方を実現しています。法定の制度に加えて在宅勤務、短時間勤務、短日数勤務等を制度化し、具体的に実現しています。
  • 実現には、従業員へのヒアリングや十分な相互理解、本人の資質・能力・性格等の認識と共有、労働対価の考え方に対する従業員との共通認識がポイントになります。取組を進める上で、課題がいろいろ出ましたが、課題に応じた対応をしながら運用してきました。他人事と捉えず自分事にする風土を醸成することが大事と考えています。
  • 一人ひとりが置かれた環境や状況が違うため、求める働き方は各々違うことを経営側が認識する必要があります。
  • オーダーメイドの働き方のメリットとして何より大きな効果は、多様な勤務形態経験者が、ハイパフォーマーとして従業員のロールモデルになっていることです。
  • 働き方は人生そのものであり、どのような働き方が望まれるかは想定できません。そのため、キャリアと生活のバランスをどうとるか、会社と従業員の双方が常に考え続けること、そしてトップがいかにやり続ける姿勢を見せるかということが大事だと思います。

<パネルディスカッション>

渥美 企業が仕事と介護の両立の取組を進める上でのポイントについて教えていただけますでしょうか。

渋谷 一番大事なのは、トップがコミットメントをしっかり示すということだと思っています。当行では、ダイバーシティ推進委員会は頭取が委員長です。また、経営会議メンバーからも、介護は自分事の時代と明言し、会社として全力でサポートしていくというメッセージを打ち出しています。
制度設計については、多くの対象者が世帯主であるため、給与カットを伴う長期間の休業は、取得しづらいであろうということを前提に、メニューや選択肢を増やしました。あわせて相談窓口の設置、ガイドブックの配布、勤務地変更制度の設定、この2016年7月からは在宅勤務もスタートしました。

荒井 従業員が個人的な事情を言いやすい風土の醸成が大事だと思っています。規模が小さいことも要因として大きいと思いますが、全従業員に対する社長面談、レクリエーションや社員旅行等を通して、従業員同士が身近な関係になっています。制度利用によって、やはり不公平感は生まれます。乗り越えるには、利用者がそれを払拭するくらいにパフォーマンスを上げる必要があると思います。ライフでの様々な経験を乗り越えたことは自信になります。それが自己成長に繋がることを実感できる良いサイクルが回っているため、当社では制度利用者がハイパフォーマーになっているのだと思います。

渥美 ダイバーシティは単なる多様性ではなく、多様な人たちのチーム力をいかに最大化するかというマネジメントです。今、荒井社長がおっしゃった多様な経験が自己成長に寄与するという、この考え方は非常に重要です。川上様、2社の取り組みについてのご感想をお願いします。

川上  ハイパフォーマーのお話は、やはり仕事と介護と両方行うことで得られていることも多いと思います。ケアマネジャーに離職を勧められ、介護一色の生活に突入してしまうケースを聞くことがあります。ケアマネジャーは働き方の専門家ではありません。両立のことまでは考えられず、要介護者をサポートする目線で考えていることが多いです。介護者は、介護に追われてしまうと周りが見えなくなります。是非、俯瞰して全体を捉えながら自分の進め方を探してほしいです。

渥美 事前周知の重要性について、社員の声を教えていただけますか。また、川上様には企業に求める支援策についてもあわせてお聞かせいただけますでしょうか。

川上 介護については、多くの人が不安を抱えています。介護保険制度や自社制度、介護全般のおおよその流れを理解することで、役割が見え、前向きな気持ち、行動に変わる社員の方が多いです。事前周知によって、まず何をすればよいのかが分かるため有効だと思います。そこで、私が企業に望むのは、定期的な情報発信(セミナー、ワークショップ等)です。すぐに効果が出なくても、続けていくことで風土が変わってきます。

渋谷 両立ハンドブックをきっかけに親と話すことができたという反応が非常に多かったです。事前周知は大事だと思います。

荒井 当社については、周知よりむしろ個々の従業員の状況を把握し、その中で自らのキャリアを形成するために何が必要なのかを吸い上げ、アプローチしています。

渥美 ワークライフマネジメントで重要なことは、ワークもライフも自らマネジメントするという自立という視点だと思っています。また、風土は変えられますが、変えるのに各社苦労をしています。私は風土を変えるうえで、共感の連鎖が一番大切だと考えています。最後に、お三方から会場の方へのメッセージをお願いできますでしょうか。

荒井 一番制度を作っていないのは、当社だと思いました。オーダーメイドで作るというのは、もしかしたら何も無いということなのかもしれません。だからこそ、一人ひとりにマッチングすることが可能になるのだと思います。私は、取組を進める上で、絶対にできるという強い意識が大事だと思います。

渋谷  介護を先に体験した人は職場のパイオニアだという意識が、お互いに出てきています。そして、こちらが学ぶ姿勢になると、先ほど共感の連鎖とありましたが、そういったものが生まれてくると思っています。また、我々は金融機関ですので、介護はわが事でもあるしお客様事でもあります。どの業界にもそういう側面はあると思っており、介護を経験した従業員がいることは、企業としての強みだと思います。ダイバーシティを構成する大切なメンバーとして、介護をしている従業員を支援していきたいです。

川上 今、ケアする人が非常に不足している時代です。今後はケアマネジャーと企業で働く人、企業の制度を作る人が歩み寄って、連携しながら考えていく必要があると思います。私は、仕事と介護の両方を行うことができて、本当に幸せだったと思っています。人生はそれぞれの引き出しを増やすことが大事ですが、引き出しを閉めていく作業も大切で、その作業には誰かが寄り添う必要があります。バリバリ仕事を行うことだけが善きことではないと思っています。

渥美 企業がケアマネジャーや地域で支えているNPOの方等と連携していけば、どんなに深刻な介護状況でも、社員を就労継続させられると思います。介護と仕事の両立を推進することで、社員がこの会社に勤めていてよかったと思えるように、まずは新しく一歩踏み出すことで、共感の連鎖を広げていただきたいと心から願います。

改正育児・介護休業法のポイント

東京労働局雇用環境・均等部長 古瀬 陽子 氏

  • わが国は、今、人口減少社会を迎えており、持続可能で安心できる社会づくりのために、仕事か育児、介護という二者択一構造を解消し、仕事と生活の調和を実現するということが、必要不可欠になっています。
  • そのような中、育児・介護休業法、あわせて男女雇用機会均等法も改正をされ、施行が平成29年の1月1日からとなりました。育児・介護休業法の改正のポイントについて、ご説明いたします。
  • 改正のポイントは以下7つです。①介護休業の分割取得、②介護休暇の取得単位の柔軟化、③介護のための所定労働時間の短縮措置等(介護休業とは別に、3年間の間に2回以上利用できる)、④介護が終了するまで残業免除、⑤有期契約労働者の育児休業・介護休業の取得要件の緩和、⑥子どもの看護休暇の取得単位の柔軟化、⑦妊娠、出産、育児休業、介護休業などを理由とする嫌がらせが起きないように、防止措置を講じることが事業主に義務づけられる(育児・介護休業法及び男女雇用機会均等法の改正による変更部分)。
  • 仕事と育児や介護の両立しやすい職場づくりは、事業主の皆様にとっても、優秀な人材の採用・確保・定着につながるメリットがあると思います。是非皆様の活力ある職場づくりに役立てていただければ幸いです。
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