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令和7年度 介護と仕事の両立推進シンポジウム

1 開催日時:令和7年11月6日(木) 13時00分~16時00分
2 開催形式:オンライン開催
3 定員:200名(事前申込制)
4 内容:

【基調講演】

テーマ:介護で離職しない・させないために大切なこと ~職場の制度と介護保険の制度を両輪で~
講師:太田 差惠子 氏(介護・暮らしジャーナリスト)

本日は、長年にわたり家族介護者への取材や仕事と介護の両立支援に関するNPO活動に携わってきた経験に基づき、実態に即した視点から「介護で離職しない、させないために大切なこと」についてお話しします。結論から申し上げますと、仕事と介護を両立させるためには、職場の「両立支援制度」と国の「介護保険制度」を車の両輪のように運用し、活用していくことが不可欠です。

介護離職は企業にとって貴重な人材を失うことであり、大きな損失です。また、離職に至らなくとも仕事に支障をきたすケースを含めると、労働生産性への影響は甚大で、2030年には約9兆円の経済的損失が生じると推計されています。しかし、損失を被るのは企業だけではありません。離職を選択した当事者、つまり従業員にとっても代償は大きなものです。「仕事と介護の両立は大変だから、辞めれば何とかなるだろう」と考えがちですが、実際には離職後に精神面や肉体面の負担が増したと回答する人が約半数に上り、経済面では6割強の方が「負担が増した」と答えています。

育児・介護休業法改正のポイントとして、企業側にはいくつかの義務が課されています。従業員が介護休業等の利用を申し出た際の、両立支援制度に関する情報の個別周知や意向確認が義務化されました。また、従業員が40歳という、介護に直面する前の段階で情報提供を行うことも企業の義務となっています。さらに、研修の実施や相談窓口の設置といった雇用環境の整備、介護休業取得の促進に関する方針の周知なども求められています。努力義務としては、介護を行う労働者がテレワークを選択できるようにすることも盛り込まれました。また、以前は労使協定により入社6か月未満の従業員を介護休暇の対象外とすることができましたが、この規定は廃止されています。このように制度は確実に変化しており、介護休業の対象となる「常時介護を必要とする状態(要介護2以上相当)」についても、高齢者だけでなく、障害のある方や医療的ケアが必要な方も含まれるなど、広範囲にカバーされていることを理解しておく必要があります。

多くの方が誤解されていますが、介護休業の93日間は、従業員自身がつきっきりで家族の介護をするための期間ではありません。育児休業とは異なり、介護休業は「仕事と介護を両立するための準備期間」なのです。具体的には、社内の支援制度を確認し、地域包括支援センターやケアマネージャーと相談してケアプランを作成し、ヘルパーやデイサービスなどの居宅サービスを導入したり、施設を見学したりするための時間です。つまり、プロの力を借りて介護を「マネジメント」する体制を整えるための休暇なのです。この「マネジメント」という視点を持てば、93日間を分割して取得することで、入院時、在宅介護の体制構築時、あるいは看取りの時期など、状況に合わせて柔軟に活用し、乗り切ることが可能になります。

従業員の皆様に心に留めていただきたいのは、介護が始まったら、必ず職場に伝えてほしいということです。「プライベートなことを持ち込みたくない」と考える方もいらっしゃいますが、事前に事情を共有しておくことで、急な遅刻や欠勤があっても職場全体の理解が得やすくなります。

企業側の皆様におかれましては、従業員に対して「両立を支援する」という姿勢を明確に示してください。制度の周知はもちろん、実際に制度を利用した体験談を共有することで、「お互い様」の風土が醸成されます。

最後に、具体的な相談先として「地域包括支援センター」を覚えておいてください。これは中学校区ごとに設置されている高齢者の総合相談窓口で、無料で利用できます。介護保険の申請から認定までは約1か月を要しますので、早めの相談と手続きが重要です。認定を受ければ、訪問サービスや通所サービス、住宅改修など、様々なサービスを1割から3割の自己負担で利用できます。

介護離職は、個人にとっても企業にとっても、そして社会にとっても大きなリスクです。このリスクを回避するためには、職場の制度と公的な介護保険制度を自転車の両輪のように活用し、賢くマネジメントしていくことが求められます。誰もが様々な事情を抱えて働いています。お互い様の精神で支え合う風土を作り、仕事と介護の両立を実現していきましょう。

企業の取組事例発表

事例①:従業員の介護離職を防ぐために、社会福祉士とともに作り上げた「介護と仕事の両立」サポートの紹介

発表者:エイブリック株式会社 取締役常務執行役員 長野 典史 氏

現代においては、介護は誰の身にも起こりうる身近な問題です。だからこそ、組織全体で「お互い様」と言い合える雰囲気を作り出すことが不可欠だと私は強調し続けてきました。また、介護は多くの人にとって初めての経験であり、直面した際にどのように対処すればよいか分からず戸惑うのが実情です。そのため当社では、単なる社内制度の整備にとどまらず、3年前より介護福祉士と契約を結び、専門家と二人三脚で従業員をサポートする仕組みを導入し、推進してまいりました。

具体的な施策として、当社が最も力を入れているのが、外部の専門家と連携した包括的な相談体制の構築です。その中核となるのがオンライン相談サービスです。これは、社会福祉士と医師からなる専門チームが、24時間365日体制で従業員からの相談を受け付ける仕組みです。相談手段は電話、メッセージアプリ、メールなど多岐にわたり、利用者の利便性を考慮しています。特筆すべきは、この相談窓口が完全匿名で利用できる点です。相談段階では会社に名前を明かす必要がないため、プライバシーを気にする従業員でも安心して利用することができます。さらに、相談だけでなく、必要に応じて実務の代行サービスも提供しています。例えば、遠方に住む親の介護施設を探す場合、従業員個人では近隣の情報しか得られないことが多いですが、専門チームの全国ネットワークを活用することで、最適な施設を選定し、見学の手配や行政手続きの代行までを依頼することが可能です。

また、相談体制だけでなく、社内の風土醸成に向けた情報発信にも注力しています。毎月、どのような相談が何件寄せられたかという実績を、個人が特定できない形で社内ポータルサイトにて公開しています。これを3年間継続することで、「エイブリックは介護を抱える社員をサポートする会社である」というメッセージを社内に浸透させてきました。さらに、従業員本人だけでなく、その家族も含めた啓発活動も行っています。

これらの取り組みは、具体的な成果として表れています。相談窓口の利用実績は月平均約12件で推移しており、チャネルとしては匿名性が保たれやすい電話相談が最も多く利用されています。

社内アンケートの結果からも、従業員の意識の変化が確認されています。制度導入前と比較して、「介護に関する相談先がない」と回答する従業員が減少し、会社への満足度や安心感が高まっています。また、上司のマネジメントにも変化が起きました。かつては部下から介護の相談を受けると、上司自身もどのように対応すべきか悩み、抱え込んでしまうことがありました。しかし現在では、「まずは社内のオンライン相談サービスに相談してみてはどうか」と具体的なアクションを促すことができるようになりました。これにより、上司と部下が一緒になって悩むのではなく、専門家の知見を借りながら前向きに解決策を探るという建設的な関係が築かれています。

介護離職を防ぐためには、企業単独の努力だけでなく、地域包括支援センターやケアマネジャーといった行政や地域の専門職との連携が不可欠であるということです。その上で、企業が従業員に対して「ゲートウェイ」としての相談窓口を提供し、キャリアを諦めずに働き続けられる環境を整えることが重要であると考えています。

事例②:「自助努力」と「お互い様意識」の視点から考える、仕事と介護の両立支援

発表者:花王株式会社 人財戦略部門DE&I推進部マネジャー 澤田 悦子 氏

当社の介護支援方針は、「自助努力」と「お互い様意識の醸成」という二つのキーワードに集約されます。会社が制度を整えるだけでなく、社員自身が主体的に行動する「自助努力」と、それを周囲が支える「お互い様意識」の両輪が不可欠であると結論づけました。

具体的な取り組みは、以下の四つの柱で構成されています。

第一に、「制度の拡充と経済的支援」です。最長1年の介護休職制度に加え、特筆すべきは、通常の有給休暇とは別に一人当たり年間最大40日まで使用できる「有給の特別休暇」を導入している点です。これにより、社員は給与減少の不安なく休むことが可能となります。また、月間フレックス制や在宅勤務制度、条件付きの遠隔地勤務制度なども導入し、柔軟な働き方を整備しています。経済面でも、共済会などを通じて見舞金や介護用品の補助を行っています。

第二に、「情報提供と相談体制の整備」です。私たちは、必要な情報を一冊にまとめた「介護両立ハンドブック」を作成し、2023年に全面リニューアルを行いました。ここには社内制度と公的制度の情報を集約し、活用事例や相談窓口、職場でのコミュニケーションのポイントまで網羅しています。相談窓口についても、社内制度は人事、公的制度は地域包括支援センター、メンタルヘルスは社内カウンセラーといったように、内容に応じた適切な窓口を案内しています。

第三に、「早期の情報提供と面談の実施」です。法改正に対応し、40歳を迎える社員だけでなく、全ての管理職に対しても情報提供を行い、部下の介護対応について理解を深める機会を設けています。また、意向確認は必ず面談形式で行うルールとし、「コミュニケーション手引き」や「面談シート」を用意することで、上長と当事者のスムーズな調整を支援しています。

第四に、「風土醸成」です。2010年から毎年「介護両立セミナー」を開催しており、現在はオンラインで社員の家族も視聴できるようにしています。Q&Aコーナーを充実させ、具体的な学びが得られるよう工夫しています。また、管理職向けのダイバーシティマネジメント研修や、全社員向けの「心理的安全性」「アンコンシャスバイアス」に関するeラーニングを必修化し、互いを尊重する意識の醸成に努めています。

トークショー

テーマ:それぞれの介護、それぞれの働き方 ~介護経験から考える両立支援のこれから~

ゲスト:いとう まい子 氏(俳優/経営者/研究者/大学教授)
進行:太田 差惠子 氏(介護・暮らしジャーナリスト)

太田: 本日は「それぞれの介護、それぞれの働き方、介護経験から考える両立支援のこれから」と題しまして、ゲストのいとうまい子さんと共に、介護と仕事の両立について深く掘り下げていきたいと思います。いとうさん、どうぞよろしくお願いいたします。

いとう: よろしくお願いいたします。

太田: まずは、いとうさんのこれまでのキャリアや現在の活動について、簡単にご紹介いただけますでしょうか。

いとう: はい。私は高校を卒業してすぐに芸能界に入り、アイドルとしてデビューしました。現在は仕事を続けながら大学での研究や経営など、多岐にわたる活動を行っています。

太田: お父様とお母様、お二人の介護を経験されたとのことですが、具体的にどのような状況だったのですか。

いとう: 父は癌と診断されていましたが、さらに筋力が著しく低下していきました。私自身当時はちょうど大学3年生の頃でした。お見舞いに行くたびに、父がどんどん歩けなくなっていくのを目の当たりにしました。最初は自分で車椅子に乗ってナースステーションに行き、看護師さんたちと談笑する余裕もあったのですが、ある日「トイレに行きたい」と言われて起こそうとしたところ、全く力が立たず、私一人では支えきれなかったのです。

太田: お父様の介護をされながら、博士課程にまで進まれたそのエネルギーは素晴らしいですね。介護が始まると、仕事や研究を中断しようと考える方も多い中で、いとうさんの原動力は何だったのでしょうか。

いとう: 多くの方々の役に立ちたい、社会に貢献できることはないかと探し続けていたことが原動力でした。もし自分だけの問題だったら、続かなかったかもしれません。父の介護に関しては、病院にお世話になってはいましたが、病院からの呼び出しが頻繁にあり、それが本当に大変でした。

太田: 病院からの呼び出しは、精神的にも負担が大きいですよね。その際、ご家族での役割分担はどうされていたのですか。

いとう: 父が亡くなる2年ほど前に両親は離婚していました。離婚しているため、母や兄は当然ノータッチです。私が一人で面倒を見ることになりました。

太田: お一人で背負われたのですね。

いとう: ただ、一度だけ、本当に一度だけですが、父が暴れてどうしようもなかった時に、「早く亡くなってくれたらいいのに」と思ってしまった瞬間がありました。

太田: それは、介護をされている多くの方が、ふとした瞬間に感じてしまうことでもあります。

いとう: その時はすぐに「なんてことを考えてしまったんだ」と反省し、後悔しました。でも、今振り返ると、その「悪魔が乗り移ったような瞬間」があったからこそ、自分がどれほど追い詰められているかに気づくことができたのだと思います。もし気づかずに、ただただ義務感だけで介護を続けていたら、私の心身がすり減り、うつ状態になっていたかもしれません。

太田: 自分をすり減らさないためには、どうすればよいと思われますか。

いとう: どうしても一人で抱え込みがちです。しかし、辛い状況の中でも、小さな喜びを見つけたり、誰かに頼ったりすることが大切だと思います。私の場合、父の介護を通して行政の支援や仕組みを知ることが重要だと痛感しました。企業にお勤めの方であれば、会社の制度を知る機会があることは大きな救いになります。

太田: その後、お母様の介護も始まったとのことですが、どのような経緯だったのでしょうか。

いとう: 母は飼っていた犬が亡くなってから一切外に出なくなり、家でテレビばかり見る生活になってしまいました。ある時、あまりに動かないので無理に散歩に連れ出したところ、数十歩歩いただけで呼吸困難に陥ったのです。慌てて病院に連れて行くと、間質性肺炎と心不全を併発しており、肺も心臓も水が溜まっている危険な状態でした。回復し、退院することができました。ただ、自宅では酸素吸入が必要で、以前のように自由に動くことはできませんでした。その後、自宅で転倒して骨折し、再び入院することになった際、病院の方から「もう一人暮らしは無理ですね」と告げられたのです。

太田: そこで初めて、在宅での一人暮らしの限界を指摘されたのですね。

いとう: はい。その時、病院の医療ソーシャルワーカーや、病院内に設置されていた行政の窓口の方々が連携してくださり、介護保険の申請やヘルパーさんの手配など、これからの生活について具体的に教えてくださいました。私は企業の制度などを知る由もない立場でしたので、プロの方々が「オムツは行政の助成を使えば安くなる」「こういう施設がある」と事細かに教えてくださったことが、本当に助かりました。もし自発的に動かなければ、何も知らないまま私が一人で介護に奔走することになっていたと思います。

太田: 病院にそのような相談窓口があることを知らない方も多いですが、ソーシャルワーカーさんなどの専門家につながることは非常に重要ですね。いとうさんは、お仕事や研究を続けながらの介護でしたが、具体的にどう両立されたのですか。

いとう: 私がいない朝や夕方の時間は、自費でヘルパーさんをお願いして来てもらいました。介護保険外のサービスも使い倒しましたね。母の下の世話などは、家族である私や兄よりも、プロの方にお願いした方が母自身のプライドも傷つかないだろうと考えたからです。

太田: お仕事の現場では、介護のことは話されましたか。

いとう: 仕事現場では一切話しませんでした。プロのサービスを利用して体制を整えていたので、現場に心配をかける必要はないと判断しました。ただ、これは私が個人事業主のような立場だからであって、企業にお勤めの方は、絶対に会社に相談すべきだと思います。会社にはさまざまな支援制度があるはずですし、それを活用しない手はありません。逆に企業側も、社員が言い出しにくい雰囲気を作らず、どのようなサポートができるのかを積極的に提示してあげてほしいですね。

太田:その後、お母様は施設に入られたのですか。

いとう: はい。最初はデイサービスに行くことさえ嫌がっていましたが、スタッフの方々がとても優しく接してくださるおかげで、次第に「ありがとう」と感謝の言葉を口にするようになり、表情も穏やかになりました。施設に入居する際も、コロナ禍で面会が制限されていましたが、母が寂しくないよう、iPadを設置して自動着信できるように設定しました。画面越しに「お母さん元気?」と話しかけたり、愛猫を見せたりして、コミュニケーションを絶やさないよう工夫しました。

太田: ご自身のキャリアも介護も諦めずに続けてこられたわけですが、今、介護のために仕事を辞めようか悩んでいる方に、どのような言葉をかけたいですか。

いとう: 絶対に諦めないでください、と伝えたいです。介護のために自分のやりたいことや仕事を諦めてしまうと、その後の人生は取り戻せません。時間は誰にでも平等で、巻き戻すことはできないのです。自分一人で抱え込まず、地域包括支援センターや会社、プロの手を借りて、使えるものは全て使って、なんとか両立する方法を模索してください。

太田: そして最後に、企業へのメッセージをお願いします。

いとう: これからは人口が減少し、人材確保が難しくなる時代です。育児や介護への理解がない企業、多様な働き方を認めない企業は、人が離れていき、淘汰されていくでしょう。企業にとっても、従業員の生活を全力でサポートする姿勢が、今後生き残るための必須条件になると思います。

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