テレワーク(在宅勤務等)と介護の両立にあたり知っておくべきこと
コラム
テレワーク(在宅勤務等)と介護の両立にあたり知っておくべきこと
栗原 深雪(社会保険労務士法人レアホア 社会保険労務士)
令和三年度取材
テレワークの歴史と普及率
コロナ禍において、「テレワーク」という言葉をよく聞くようになりました。テレワークとは、パソコンなどITを活用した時間や場所にとらわれない柔軟な働き方をいいますが、ITを活用したり、働き方改革や感染症対策として用いられたりすることが多いので、テレワークが最近の働き方だと思う方が多いかもしれません。
実は、テレワークを初めて取り入れたのはアメリカのロサンゼルスで、1970年代には普及していたと言われています⑴。日本では、1984年に日本電気株式会社(NEC)が育児や介護のためにテレワークを勧めたことが始まり⑵でした。テレワークには30年近くの歴史があり、政府が2020年を一つの目標年次として社会全体に広めると宣言までしていましたが、それほど普及することはありませんでした。
しかし、2020年以降に新型コロナウイルスの感染が拡大・長期化することによって、一気にテレワークの普及率が上がりました。東京都のテレワーク実施率調査結果⑶によると、都内の従業員30人以上の企業における緊急事態宣言期間中のテレワーク実施率は、60%以上、2021年11月のテレワークの実施回数は、週3日以上の実施が46.0%という結果になっています。総務省が作成した地域別のテレワーク実施率(図表①)⑷のとおり、地域差はあるものの、今やテレワークという働き方を知らないという人はいないでしょう。テレワークは、介護や育児・病気治療と仕事の両立が必要な労働者のワークライフバランスの実現に向けた取り組みの一つとして注目を浴びています。
<図表① 地域別・テレワーク実施率>
パーソル総合研究所(2020)「第四回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」を基に総務省作成
テレワークを活用した介護のメリット
テレワークを活用すれば、実家等で遠距離介護が必要となった場合も、介護の開始と同時に慌てずともよくなります。将来のことを考える余裕もなく、会社を取るのか、介護を取るのかという選択をしなければならないという状況からも開放されるでしょう。引っ越しを必要としない場合であっても、介護のために早退・遅刻や休暇を取ることで、上司や同僚に迷惑をかけるのではないか、状況を理解してもらえるのかという不安も解消されます。
また、テレワーク(在宅)勤務であれば、つきっきりの介護までは必要ない場合、家事の手伝いや通院の援助をしたりすることが容易になり、事故や怪我を心配することなく、仕事に集中できるというメリットもあります。
会社にとっても、ある日突然優秀な社員が介護のために退職する、という事態を防ぐことができます。介護だけでなく、育児や病気治療との両立支援など、ワークライフバランスの取れた働きやすい職場環境づくりに積極的な姿勢は、企業イメージの好感度アップや、それによる優秀な人材の確保にもつながります。
テレワークを活用した介護のデメリット
会社にとっても働く社員にとってもいいこと尽くめに感じるテレワークですが、コロナ禍でテレワークが広がってきたことで、いくつかのデメリットも見えてきました。
日本労働組合総連合会「テレワークに関する調査2020」⑸ によると、テレワークのデメリットだと感じる点の上位1位に挙げられているのは、「勤務時間とそれ以外の時間の区別がつけづらい」というものでした。通常の勤務よりも長時間労働になることが「あった」と回答した労働者は51.5%もいるという状況です。
テレワーク(在宅)勤務で在宅介護となれば、介護で仕事に集中できない環境となり、ただでさえ長時間労働になりがちなテレワーク環境において、尚更だらだらと仕事をしてしまう可能性もあります。その上、目の前または近所に要介護者がいるために、一人でできることまでつい関わってしまい、就業時間内に仕事を終えることができず、要介護者が就寝した夜中や休日にまで仕事をすることになりかねません。そんな毎日にストレスがたまり、要介護者にあたってしまい、自己嫌悪に陥るなどというケースもよく聞かれます。
また、通院の付き添いのために定例会議に出席することができない、時差勤務しているため、部署のメンバーとリアルタイムに連絡が取れないなど、テレワーク勤務では、上司・部下・同僚とのコミュニケーションがとりにくいこともデメリットの一つとして挙げられています。
一方、会社も勤怠管理、テレワークをしていない他の社員との公平性の担保、業績評価やコミュニケーションの取り方の難しさをデメリットして挙げています。
テレワークを活用した介護プラン
テレワークを希望する状況としては、以下のようなことが考えられます。
- ・遠距離介護で、週末前後の平日は介護先の居宅でテレワークを行いたい。
- ・定期的に午後半日、通院に付き添う必要があり、午前中は自宅でテレワークを行うことで体力的な負荷を減らしたい。
これらの状況に対応するため、厚生労働省が作成している介護支援プランを策定するためのマニュアル⑹ と、テレワーク活用の好事例集⑺ を紹介します。
「介護支援プラン」策定マニュアルには、テレワーク(在宅勤務)を活用した介護支援プランの内容と、プラン策定における注意点が掲載されています。テレワークとはいえ、介護と両立させるとなると、パソコンさえあれば、すぐにでも会社に出勤するのと同じように仕事ができるというわけではありません。介護が始まる前に、会社や社員自身がテレワークにおけるメリットデメリット、利用できる制度の内容や復帰プランに対する考え方などついてしっかり勉強して準備をしておくことが必要なのです。
また、「テレワーク活用の好事例集」では、父親の介護をしている男性30代後半・一般職/事務職のある1日のタイムテーブルが掲載されています(図表②)。週に1回の通院日にテレワークを行い、午前中は通院の付き添いの前に仕事を開始、通院からの帰宅後は夕食の準備時間まで勤務、その後、父親の世話が落ちついた後、1時間勤務をしています。通勤時間にかける時間を勤務や介護の時間に充てられますし、移動のストレスがなくなるので疲弊することなく、すぐに仕事に取り掛かれることもテレワークの活用による介護のメリットです。
<図表② 介護期の従業員のタイムテーブル(例)男性30代後半・一般職/事務職>
(厚生労働省 平成27年度 テレワークモデル実証事業 テレワーク活用の好事例集)
テレワーク活用のために会社が準備すること
前出の事例では、始業・終業時間を繰り上げ、繰り下げすることにより、1日の所定労働時間を勤務しています。会社は、テレワークを活用した介護支援プランを策定する際、始業・終業時間についてどのような取り決めをするのか、前もってルール化しておく必要があります。時差出勤制度や介護をしている社員が、その日の始業・終業時間を決めることができるフレックスタイム制度(一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決めることのできる制度)の導入も考えられるでしょう。
一方、介護にかける時間が多くなり、1日の所定労働時間を勤務することができない場合もあります。この場合、その中抜けの時間帯をどのように処理するのか、深夜時間帯に勤務が及んだ場合に勤務として認めるのかという点についても、会社はルールを決めておく必要があります。
ルールの例として、以下のようなパターンが考えられます。
- ①時間単位による年次有給休暇の消化とする
- ②時間単位による介護休暇の利用とする
- ③フレックスタイム制をとる
- ④深夜時間帯の勤務を許可する
時間単位の年次有給休暇を取得させる場合には、会社は前もって、年次有給休暇について5日の範囲内で与えるという労使協定を締結しておく必要があります。また、時間単位での年次有給休暇の管理は煩雑ですし、法律上は年に5日が上限ですので、年次有給休暇のすべてを時間単位で利用できるわけではないということに注意が必要です。介護休暇を利用する場合、有給休暇にするのか無給休暇にするのかは法律で決められていませんので、会社が独自に決めることができます。フレックスタイム制を利用するのであれば、1日で所定労働時間を勤務していなくても、1か月~3か月の会社が決めた一定の期間内に所定労働時間を勤務すれば、欠勤控除や遅早控除などで給与の減額がされることはありません。しかし、制度を導入するには就業規則等への規定と労使協定の締結が必要です。
勤務が深夜時間帯に及んでしまいそうな場合には、前もって上司からの許可を取れば、勤務をすることができるのか、深夜時間帯の勤務は一切認めないことにするのかを決めておく必要があります。これらのルールをあいまいにしたまま始めてしまうと、介護をしている社員の混乱を招くことは勿論のことですが、勤怠管理や人事評価をする上司の不安や協力をしている部署の同僚からも不満が出てきます。結果的に、介護をしている社員が職場にいづらくなり、退職せざるを得なくなってしまったということになりかねません。
テレワークと介護の両立をする人の心構え
これまで、会社においてテレワークを活用した介護支援プランを策定する前に準備すべきことをあげてきましたが、介護をする社員自身も、テレワークと介護の両立におけるデメリットについて理解するとともに、事前の準備が必要です。今はまだ介護の必要性がないと思っている人もある日突然、その日はやってくるかもしれません。そこで、いつ始まっても慌てないように事前にしっかりと準備をしておきましょう。
介護者が事前に準備しておくことは以下の2点です。
- ①介護保険制度・介護サービス、両立支援制度の概要を把握しておくこと
- ②介護に直面したときはどこに相談すればよいか、その窓口を知っておくこと
そして、テレワークと介護の両立を成功させるポイントは以下のとおりです。
- ①職場に「家族等の介護を行っていること」を伝え、必要に応じて勤務先の「仕事と介護の両立支援制度」を利用すること。家族の介護状況が変わった場合には、すぐに報告して、支援プランの見直しをすること。
- ②「家族や近所の人、職場の同僚等周りの人と良好な関係」を築いておき、協力をしてもらうこと。
- ③毎日テレワークするのではなく、週に2日程度は出勤するなど、要介護者に対して、すべての関わりを持とうとするのではなく、専門家に任せられることは任せて、家族にしかできないことを行うようにすること。
- ④介護を休むことに罪悪感を持たず、介護保険サービスを利用したりするなど、自分一人で「介護をしすぎない」こと。これにより、心に余裕ができ、要介護者に優しくすることができます。
- ⑤困ったときはケアマネージャーに「何でも相談すること」。
テレワークと介護の両立で大事なことは、介護者が、要介護者のことを極力意識しないで働ける環境を作ることです。そして、会社は画一的な支援をするのではなく、社員の介護の実情にあわせて、介護プランの見直しをするなど、柔軟な対応が必要となるでしょう。
引用・参考資料
- ⑴平成20年度「THE Telework GUIDEBOOK 企業の為のテレワーク導入・運用ガイドブック」(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/crd/daisei/telework/p4.html - ⑵平成22年「テレワークの動向と生産性に関する調査研究報告書」(総務省)
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/linkdata/h22_06_houkoku.pdf - ⑶令和3年「テレワーク実施率調査結果(東京都)
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2021/12/09/06.html - ⑷令和3年「第四回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」(総務省)
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd123410.html - ⑸「テレワークに関する調査2020」(日本労働組合総連合会)
https://www.jtuc-rengo.or.jp/info/chousa/ - ⑹平成29年度 仕事と介護の両立支援事業「~介護に直面した従業員への支援~『介護支援プラン』策定マニュアル」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/kaigo_1.pdf - ⑺平成27年度 テレワークモデル実証事業「テレワーク活用の好事例集」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/tele-koujireisyuuH27.pdf
- (参考)「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/000476042.pdf