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仕事と介護の両立に向け、企業が取り組むべきこと

コラム

仕事と介護の両立に向け、企業が取り組むべきこと

みずほ情報総研株式会社
小曽根由実

平成27年度取材

これまでの介護経験の有無を問わず、社員は仕事と介護の両立に不安を感じています。

「介護離職」という言葉を聞いたとき、あなたは何をイメージしますか。「親を介護するために手いっぱいで、仕事どころではない」「遠方に住む親を介護するためには、一人っ子である自分が実家に戻らなければならない」など、おそらく「切羽詰まった状態」を思い浮かべるのではないでしょうか。同時に、「自分もいずれ、介護離職せざるを得ないかもしれない」と考えたかもしれません。

東京都が平成26年度に行った調査(以下、「平成26年度調査」と表記)1では、現在、介護をしている社員の約8割が「仕事と介護の両立に不安を感じている」ことが分かりました。また、これまでに介護経験がない社員も、約8割が同様の不安を感じています。

企業が持続的に成長するためには、自社社員に対する仕事と介護の両立支援が急務です。

日本の労働力人口は減少傾向にあり、優秀な社員の確保は難しくなってきました。そのため、企業の持続的な成長には、自社の仕事に精通している現有社員の定着がいままで以上に重要なポイントとなるのです。

翻って、介護を行う可能性が高い社員の多くは、働き盛りの40~50歳台の社員です。こうした社員の中には、管理職として活躍する者、職責の重い仕事に従事する者も少なくないでしょう。また、近年は、20~30歳台の孫が祖父母の介護にあたる「孫介護」も増えています。こうした現状に目を向けると、幅広い年齢層の社員に対する「仕事と介護の両立支援」が企業にとっていかに重要か、自然とおわかりになるでしょう。

それでは現在、各企業ではどのような仕事と介護の両立支援が行われているのでしょうか。平成26年度調査によると、「特に行っていない*2」が過半数となっています。さらに、育児・介護休業法で定められている介護休業を就業規則に記載している企業は8割を超えていますが、介護休暇では約6割にすぎません。この状況では、社員が仕事と介護の両立に不安を感じていても仕方ないと考えられます。

5つの取組を行うことが、仕事と介護の両立のために有効です。

企業において社員の仕事と介護の両立を支援するためには、どのような取組が有効でしょうか。厚生労働省では「介護離職を予防するための両立支援対応モデル*3」として、5つの取組を提示しています。すなわち、

  1. 社員の仕事と介護の両立に関する実態把握
  2. 仕事と介護の両立支援制度の設計・見直し
  3. 介護に直面する前の従業員への支援
  4. 介護に直面した従業員への支援
  5. 働き方改革

の5つです。これらの具体的な取組方法や支援メニューは、厚生労働省のホームページにマニュアルとして詳しく掲載されていますので、ご確認ください*4

本コラムでは、5つのなかでも重要度が高く、そしてすぐに取組むべきと考えられる「3.介護に直面する前の従業員への支援」に関して、その考え方ならびに具体的な方法の例をご紹介します。

「社員は仕事と介護の両立に向けた情報を知らなくて当然」と捉えましょう。

仕事と介護を両立している方々にヒアリングしていると、「自分が介護するようになるまで、介護保険サービスのことについて何も知らなかった」「勤務先に介護休業制度があるなんて知らなかった」といった声を数多く聴きます。

しかし、それはそうかもしれません。ご自身のことを振り返ってみてください。その制度がどのような内容のものであれ、また、国や自治体の制度であれ、勤務先の制度であれ、自分が利用する(可能性がある)までは「その制度を詳しく知らない」ことがほとんどではないでしょうか。

以前、50歳手前の人事担当者へのヒアリング時に「介護保険料を支払っていないのだけれど、自分もいずれ介護が必要になったらヘルパーを利用できるのかな」との質問を受けました。介護保険制度上、会社員は40歳を超えると、介護保険料が給与から天引きされます。この質問のケースからは、給与明細が紙で渡されず、社内LAN等を通じて確認する会社では、自らが行動を起こさない限り、「介護保険料を支払っていない」と考える社員がいる可能性を指摘できます(それが人事担当者であっても…)。

つまり、企業は「社員は国の介護保険制度、勤務先の仕事と介護の両立支援制度などを『知らなくて当然』」と捉えて取組を進める必要があるのです。

「社員の不安を和らげ、介護に備える」ため、介護に直面する前から情報提供を行いましょう。

仕事と介護を両立している方々は、「介護保険サービスを利用したり、勤務先の仕事と介護の両立支援制度を利用したりしながら働いている」場合がほとんどです。これを踏まえると、社員に対して「介護にいつ直面しても慌てないような」、また、「それらの制度を必要に応じて利用すれば仕事と介護の両立が可能なこと、すなわち、介護離職が防げることを理解してもらえるような」心がまえとして、企業が事前の情報提供を行うことが不可欠です。これが仕事と介護の両立に対する不安の軽減にもつながるのです。

情報提供に当たっては、「誰を対象に、どのような内容を、いつ、どのような方法で」行うかも重要になります。以下にその例を挙げていますので、参考にしてください。なお、社員がすぐに手に取りやすいという理由からリーフレットやハンドブックも有用ですが、「情報を落とし込む」ためには研修等で社員に直接説明することが望まれます。

その他、先に挙げた「社員の仕事と介護の両立に関する実態把握」を行い、社員の介護状況やニーズに見合った情報を提供することも有効です。

<情報提供の主な例(※)>

誰を対象に どのような内容を いつ、どのような方法で
  • 40歳の社員*5
  • 管理職
  • 希望する社員
  • 全社員
  • 介護保険制度のポイント
  • 介護保険サービスの内容
  • 要介護認定の申請方法
  • 自社の仕事と介護の両立支援制度の内容
  • 仕事と介護の両立事例
  • 「働き方」の見直し
  • 職場におけるマネジメントの方法(管理職に対して)
  • ?既存の研修や定期的な会議等のコンテンツの一部として(管理職研修、営業会議、等)
  • 単発のセミナーとして
  • 座談会形式

※自社の状況に合わせ、これらを組み合わせて実施してください。

仕事と介護の両立支援制度を充実させることは、社員の働きやすさ向上につながります。

もちろん、事前の情報提供だけでは、仕事と介護の両立支援が十分とは言い切れません。前述の5つの取組をうまく循環させながら進めていくことが重要です。

その際にはたとえば、「有給休暇や介護休暇を時間単位で取得できるようにする」「介護休業期間中に、休業者に対して職場の情報を適宜伝える」「仕事と介護の両立支援制度を利用する社員の人事評価や昇進・昇格が不利にならないようにする」「仕事と介護の両立支援制度を利用しやすい職場風土を醸成する」といった工夫・配慮も望まれます。

仕事と介護の両立支援制度を利用しやすい職場は、その他の人事制度も利用しやすい職場であると言えます。仕事と介護の両立支援はまた、すべての社員が働きやすい環境づくりにも資するはずです。

以上

*1:東京都産業労働局「仕事と介護の両立に関する調査」(平成27年3月)

*2:育児・介護休業法上に定められた制度等を除く。

*3:(図表)介護離職を予防するための両立支援対応モデル
(出典)企業における仕事と介護の両立支援実践マニュアル(厚生労働省)

*4:企業における仕事と介護の両立支援実践マニュアル(厚生労働省)

*5:介護保険料の支払開始年齢であり、節目となる。

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