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これからの育児と仕事の両立

コラム

これからの育児と仕事の両立

徳倉 康之(株式会社ファミーリエ 代表取締役社長/NPO法人ファザーリング・ジャパン 理事)
令和二年度取材

 新型コロナウイルス感染症の世界的流行は、全ての人にとって生活や仕事の大きな転換点となりました。大げさではなく、様々な業界、年代、国や業種を超えて想像を超えた変化が起きています。
そして、男性の育児と働き方という部分に関しても、これからさらに変化が起きてきそうです。今回は、育児と仕事の両立を男性側からの変化を軸にご紹介していきたいと思います。
 ご存じの通り、日本社会は少子化・高齢化といった人口構造面における課題や、人生選択の多様化が進んだことにより、働き方に制約がある人が多くなりました。具体的に言えば、若い世代の人口が減ることによる労働力不足、また、高度経済成長期に働いていた方々が定年を迎え、支える側から支えられる側に移行し、潜在的な介護問題の発生、そして特に若い世代の様々な現状から共働きが当たり前になり、子育てと仕事の両立が欠かせなくなっていることなどです。
 みなさんの職場で具体的なケースを示すと、20代の若い世代は徐々に減り、30代・40代のかつては働き盛りと言われた世代は子育てと仕事の両立、そして管理職の年代では介護と仕事の両立がなければ、仕事を継続したくてもできない状況が、今後も続いていきます。
 ところが、このコロナのような危機に直面しても、これまでに各種両立支援を行ってきた組織や企業においては、その仕組みを生かしつつ柔軟に支援し続けることで、組織側も働く側も満足度の高い仕事をし続けられているケースもあります。それは即ち、企業として制約ある社員が働きやすい環境へと移行していた事が、組織の危機管理につながったという事ではないでしょうか。

具体的には
①時短勤務・育児休業にあわせた評価制度の仕組み変更
②制約ある人、ない人双方にメリットのある働き方改革
③多様な人が存在することが強い組織になることを理解した経営者、管理職の存在
などがあります。

①時短勤務・育児休業にあわせた評価制度の仕組み変更

 一般的な日本の企業においては、時短勤務を選択した場合や育児休業を一定期間以上取得した場合などは昇給・昇進しないケースも多いのではないでしょうか。言葉としては「マミートラック」とも呼ばれることもあります。このことは、私を含め男性の育休取得者にとっても同じであり、成果をどう出そうとも、時間当たりの生産性を上げても、そもそも評価の対象に入っていないという方も多くなり、不満がたまってしまう原因の一つになっています。
 一方で、時短勤務や各種休業制度を利用しない層からは「仕事をしていない時間や期間があるのだから当然である」という声があることも事実です。
 しかし、組織存続という観点から、少し広い視野で組織マネジメントを考えた時、時間的に制約ある社員(以下、制約社員)のキャリアをどう考えていくのかという事を検討しなければ、いくら制度を導入しても利用率の低い制度となり、「やはり我々には必要無かった」と結論付けてしまう誤った判断を招くほか、必要があって制度を利用する層と利用しない層との双方が不満を感じることになり、組織としての魅力が出てこないどころか、社員が他の会社や組織に移ってしまうことも現実として起こっています。
 評価については、例えば時短勤務者においての評価制度を新たに設定し、フルタイム勤務者と同じ進度で昇給・昇進しなくとも、ある一定の基準をクリアすることにより、それに近い評価を実施する事も可能になります。
 具体的なケースとして、社内の昇進に必須のいくつかの条件の中に、勤続期間の設定がある会社がありました。しかしながら、この会社の場合は年度内の評価として時短勤務期間及び各種休業(病気療養3ヶ月以上・育児介護休業3ヶ月以上)は勤続期間から除外するという規定があり、育児休業を1年取得した場合、多くの方が2年間、この昇進必須条件から除外されてしまいます。(*例えば、3月決算の会社で10月から次の年の7月まで育休を取得した場合、2期に渡って3か月以上休業してしまう為)また、複数の子どもを出産した場合には、この期間がさらに長くなります。
 丸々2年間休んでいた訳ではないにも関わらず、その間昇進の対象から外れてしまうということで、制度の利用をためらう社員も多くいたようです。
 この様に、制度を導入していたとしても、それと連動した評価の仕組みも導入しなければ、育児休業制度をはじめ各種両立支援制度の利用はなかなか進んでいきません。

②制約ある人、ない人双方にメリットのある働き方改革

 私は様々なところで働き方改革や、男性の育児休業取得促進についてお話させていただいていますが、結果的に、制度の導入だけでなく、取得率も向上している組織に共通していることは、「制約社員・無制約社員双方にメリットを感じられる改革を行っているか」ということに尽きます。さらに興味深いことに、特に男性に多いのですが、直接ヒヤリングなどを行うと、無制約社員と思っていた方も実際は家族が様々なケアを担っているから無制約社員に見えるだけで、本当の意味での無制約社員はかなり少ないのではないかと感じています。
 ここからはそのような点も踏まえて、双方にメリットのある働き方改革・両立支援施策について考えていきます。もちろん業種や業態、規模にもよるので一概には言えませんが、まずは「有給休暇取得促進施策」が大きなポイントになります。現在ある基本的な制度を使えなくして新制度の導入は厳しいものがあるでしょう。
 一言で有給休暇取得率向上と言っても、取れない雰囲気や取れないような業務体系になってしまっている事もあります。
 その場合におすすめなのが、「上司と部下との面談時に、半年先までの最低5日間の有給休暇取得日について決める時間を持つ」というものです。
 一人暮らしであっても、実家に帰省するタイミングや予定の決まっている冠婚葬祭もあるでしょう。子どもが小中学生の社員であれば運動会や音楽発表会、3者面談など1年間のスケジュールが決まっている学校がほとんどです。夫婦のみの家族の場合でも、共働きであれば、休みを合わせて旅行に行くこともあるでしょう。
 4月スタートの企業の場合、期首の面談時に数字の目標等と併せて、働く人やその家族に関わる休暇の希望を聞くことにより、スムーズに休暇中の仕事の分配や調整ができるのではないでしょうか? 逆にそれでも仕事の調整ができない組織の場合は、もっと大掛かりに組織の在り方や働く人の数、責任の所在などを変えていかねばならないはずです。
なぜならば、急に人が辞めてしまった場合、すべての業務が止まってしまう可能性があるからです。まずはご自身の組織の有給休暇取得率を上げていくことに注力し、人が一時期抜けても組織が回っていく環境をつくる土台を作っていく事が大切です。

③多様な人が存在することが強い組織になることを理解した経営者、管理職の存在

 日本の企業にはもちろん就業規則があります。しかし各種制度が明記されているにも関わらず、それを活用する風土がない企業も少なくありません。この風土を生み出すのは、経営者であり管理職層の方々です。もちろん社員の都合で仕事を休むのに会社が何をする必要があるのか?とお考えの方もまだまだいらっしゃるかもしれませんが、究極的には、自分たちの組織で育児をはじめとした各種時間制約によって起こる離職をどう防ぐかが、これからの社会においては必要になります。その為に、①・②のような具体的な行動を起こす経営者・管理職の存在が必須となります。その方々を総称して「イクボス」と私は呼んでいますが、決してこれは育児を行うボスの事ではなく、部下が育児やその他の理由で働き方に制約があるかないかに関わらず、限られた時間内で成果を出していくようなマネジメントを行える経営者・管理職の事を示します。イクボスの事例も沢山出てくるようになりました。是非、チェックしていただき、皆さんの組織の規模や、業界・業態に合わせて参考にしつつ実行に移して頂きたいと思います。

(ご参考)
NPO法人ファザーリングジャパン・イクボスドットコム https://ikuboss.com/
厚生労働省 イクメンプロジェクト 企業事例 
https://ikumen-project.mhlw.go.jp/company/case/
内閣府 「生活と仕事の調和」推進サイト 調査研究
http://wwwa.cao.go.jp/wlb/research.html

これからの男性育休推進はどうなる

 2021年から2022年にかけては、これまで以上に男性育休に焦点があたることが多いタイミングになると思います。2021年の通常国会において、育児・介護休業法の改正案が決定されると、2022年からは「男性産休」制度が新たに始まる予定です。これは、妻の産休中に夫がしっかりと妻と子をケアする期間を持てるようにしつつ、その後の育児休業取得率向上を目指すための法改正です。
 このような国の制度の変更に伴い、企業側もこのままの状態ではなく、男性・女性に関わらず積極的に育児休業をはじめとした仕事と子育てを両立させる独自の取り組みが求められてきます。同時に、働く人全ての環境をより向上させていくことがますます重要になってきます。
 男性の育休のメリットはここで述べるまでもなく多くのものがあります。これまでの休業の意識を大きく転換し、少しの期間職場からは離れるがまた帰ってくる即戦力が、自分たちの組織にはいるのだと考え方を変え、能力ある人が認められ長く働き続けられる組織へと早く変革できた所に人は集まり、さらに仕事と子育てを両立しやすい環境の職場へと、加速度をつけて変化していくことにつながるのではないでしょうか?
 これまでの働き方全てが悪かったわけではありません。しかし冒頭に示した通り、日本社会の人口構造の変化に加え、新型感染症による様々な物理的な制約と、働く人一人一人が抱える時間的な制約に、組織や企業が理解を示し、継続して事業を行えるように工夫した制度を作り活用する事こそが、活気ある生き生きとした職場を作っていくのではないでしょうか。
 是非、良い事例を取り入れ、自分たちの組織もまた新たなロールモデルとなるべく取り組んで頂きたいと思います。

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