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男性の育児参加について

コラム

男性の育児参加について

鈴木 健之(立正大学 文学部社会学科 教授)
令和元年度取材

 内閣府・厚生労働省は、1990年代後半より「男女共同参画」の旗印の下、仕事における「男女平等」と家庭における「男女平等」の実現に向けてリーダーシップを発揮してきました。Gender Equalityを「男女平等」ではなく、「男女共同参画」と訳した点が何よりも評価できます。「男女共同参画」という言葉には、「より大きな平等を求めて」男女ともに行動していくこと、男女平等を理想論で終わらせてはならないという決意が示されているからです。「男女共同参画社会」の実現は、21世紀日本社会の目標として設定されてきたのです。

 2000年代に入ると、「男女平等」をさらに推進するべく、「ワークライフバランス」実現に向けたプラン(「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」や「仕事と生活の調和推進のための行動指針」)が示されます。性別、未婚既婚を問わず、仕事だけの人生はつまらない。長時間労働を是正し、仕事以外の自分の時間を充実させようというもので、民間の企業を巻き込んで「ワークライフバランス」の実現が推し進められました。さらに2010年代に入ると、厚生労働省は、「イクメン」(育児を積極的に行う男性)を応援するために、男性の育児と仕事の両立を推進する「イクメンプロジェクト」を発足させました。こうして「男女共同参画社会」の実現に向けた施策を展開していきます。

 国が進めるこうした取組は「男女平等」という考えに基づくものであり、性別にかかわりなく「家庭と仕事を両立する」、そして男性に対して「男も家事、育児」という意識改革を促したという点で高く評価できます。しかし、どれほどの男性が実際に「家事」そして「育児」を積極的に引き受けようという気持ちになり、行動したかという点が重要です。「男女共同参画社会の実現」という目標を掲げて20年。「家事」や「育児」への男性の積極的参加は諸外国と比べるとまだまだ進んでいないというのが実情のようです。

 ここ日本では、「家事」も「育児」も依然として、女性の「しごと」と考える男性が今なお少なくないようです。家事について、最近のTV番組やCMでは、「家電男子」や「洗濯する男性」も目にするようになり、家事好きの男性は珍しいことではなくなった気がします。  
 しかし、平成8年から平成28年までの20年間、男性の家事時間はあまり増えておらず、平成28年では女性が3時間7分であるのに対して、男性は17分というのが現実です(総務省「平成28年社会生活基本調査」)。他方、育児については、「赤ちゃんにミルクをあげる父親」、「赤ちゃんのおむつを替える父親」のCM自体あまり見ることがありません。これほどまでに「赤ちゃんの世話」は女性の「しごと」とされ、それが当たり前とされてきたのではないかと思います。

 そのような背景の中、「イクメンプロジェクト」が登場します。これは、「育児」のどの段階においても男性が積極的にかかわるべきという考え方に基づき、父親、そしてその父親が働く企業に対して、大きな意識・行動改革を求めるものです。
 プロジェクトでは、「男性の育児休業取得、仕事と家庭の両立、育児への参画を促すため、積極的に育児をしている・これからしたい男性や、企業・自治体・学生等に向けた様々な事業」(『共同参画』平成30年6月号3頁)を展開しています。たとえば、2013年度から、男性の育児と仕事の両立を推進している企業を表彰する<イクメン企業アワード>、そして2014年度からは、部下の育児と仕事の両立を推進するために、部下の育児休業取得や育児短時間勤務の利用などを推奨するとともに、部署全体の働き方の見直しや工夫をし、また自らも仕事と生活を充実させている管理職=「イクボス」(男女不問)を表彰する<イクボスアワード>を実施してきました。政府は2020年までに男性の育児休業取得率を13%にする目標を示していますが、「図表1:育児休業取得率の推移」が示すとおり、「男性の育児休業取得率」は平成30年度で6.16%と、平成29年度の5.14%と比べて増えているとはいえ、取得率はなかなか向上していません。

注:平成23年度の [ ] 内の割合は、岩手県、宮城県、及び福島県を除く全国の結果
(出典:厚生労働省「雇用均等基本調査」)

 次に働く男性の現状はどのようなものかを見てみましょう。日本労働組合総連合会(連合)が2019年9月に行った「男性の家事・育児参加に関する実態調査2019」を見てみましょう。同居している子どもがいる全国の25歳から49歳の有職男性1,000名に聞いたものです。この中の「男性の育児休業取得について」の調査結果は以下のとおりです。

  • 父親が育児のために取得した休業・休暇は「年次有給休暇」が最多、「男性の育児休業取得率」は7.2%
  • 育児休業を取らない理由の1位は「代替要員がない」、2位は「収入が減る」、3位は「男性が取得できる雰囲気がない」。
  • 育児休業の取得日数は平均33日、半数以上が「1週間以下」。
  • 育児休業を取得して困ったことの1位は「収入が減った」、2位は「仕事の情報が得られなかった」。
  • 「2020年までに男性の育児休業取得率を13%に」という政府目標については64.9%が知らない。
  • 男性の育児休業取得率を上げるために必要だと思うことの1位が「男性の育休取得の義務化」。
  • 「育児休業を取得していない人」を対象に育児休業を取得しなかったことの背景にある意識を聞いたところ「取得したかったが、取得できなかった」が30.2%、「取得するつもりもなく、取得しなかった」が69.8%。

(出典:日本労働組合総連合会「男性の家事・育児参加に関する実態調査2019」より抜粋)

図表2:育児休業を取得しなかったことの背景にある意識

 (出典:日本労働組合総連合「男性の家事・育児参加に関する実態調査2019」)

 ここで最も注目すべき点は、「育児休業を取得しなかったことの背景にある意識」です。育児休業を取得するつもりもなく、取得しなかった父親は69.8%いました。育休を取る権利は男女ともにあります。しかし育休を取らない男性がほとんどです。そして、育児休業を取らなかった男性の大半は「育休を取得するつもりがない」というのが現状です。また、たとえ育休を取りたくても「取れる雰囲気ではない」し、収入も確実に減るので、育休を取ることをためらい、あきらめてしまうという実情もあります。

 この調査では、「男性の育児休業取得率向上に必要なこと」として「男性の育休取得の義務化」が1位にあげられていました。半数以上の「育休を取るつもりがない」男性に対して、仮に育休取得を義務づければ、取得率は上昇するかもしれません。けれども、義務付けで育児休業を取得した場合、実際に育児休業に入っても、何をすれば良いのかと戸惑いを覚える男性も多いことが想像されます。数値目標の達成に向け、休業を取得することだけが目的となることなく、具体的に、どのように育児に参加していくかが大切だと思われます。一方の「イクメン企業アワード」、「イクボスアワード」の受賞を目指す企業も、実際的な育児参加を男性従業員に促しながら支援していくことが求められています。
 また、政府の「2020年までに男性の育児休業取得率を13%に」という目標を知っていたと答えた人は35.1%でした。政府の「イクメンプロジェクト」も十分に認知されているとは言えないようです。

 わたしには二人の子どもがいます。2005年に第2子が生まれたとき、2ヶ月ほど育休を取りましたが、育休を取るのにとても苦労しました。男性が育休を取れるようになったのは1992年からで、それから10年以上も経っていましたが、一般企業に勤める男性で育休を取る男性はほとんどいませんでした。「男性の育児休業日記」のようなエッセイ本もいくつか出ていましたが、著者は公務員のような比較的育休が取りやすい男性たちでした。

 「連合」の2019年調査によれば、男性の育児休業取得率は7.2%。この数字を見るかぎり、「2020年までに男性の育休取得率を13%」には届きそうにありません。しかし、国の「イクメンプロジェクト」が功を奏していないかというと、決してそんなことはありません。現に、わたしが育休を取得した2005年当時の育休取得率は1%未満でしたが、2018年度の育休取得率は6.16%にまで上がってきています。
 このプロジェクトは「男女共同参画社会」の実現をめざすものです。つまり、「男女平等」の理念に基づき、これまで女性のしごとと考えられてきた「育児」においても「共同参画」していこうとするのがこのプロジェクトなのです。重要なのは「男性が育児休業を取ること」ではなく、「男性が育児にかかわること」。育児休業を取っても、実際に育児にかかわることがないのであれば、育児休業を取る意味はありません。「イクメンプロジェクト」の本来の目的もそこにあるはずです。男女がともに「家事」、そして「育児」をしていくことが何よりも大切なのです。わたしたちはこの「男女共同参画」という目標をめざさねばなりません。

働く父親のみなさんへ。「まずは、育休を取りましょう」。そして、人事担当のみなさんへ。「父親に、まずは、育休を取らせましょう」。

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