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育児と介護のダブルケアについて

コラム

育児と介護のダブルケアについて

NPO法人子育てネットひまわり 代表理事 有澤陽子
令和元年度取材

 「子育て」と「介護」。どちらかだけでも大変なのに、両方同時になんて一体どうなるの・・・? 実はこれ、他人事ではありません。私のダブルケアはある日突然始まりました。子育てと家事、更には仕事をこなしながら「元気な私が動かなければ」「病気の本人に心配かけないように」「周囲に迷惑をかけないように」「子どもを犠牲にしないように」とプレッシャーだらけで、朝から晩まで全力疾走の日々でした。ある日、勇気を出して、同じ経験をした友人に相談し「しんどいよね」と声をかけられた時、緊張の糸が切れたように、涙があふれました。

ダブルケアの実態

 少子化と高齢化の同時進行や、晩婚化・晩産化に伴い、子育てと介護を同時に行わなければならない世帯(ダブルケア)の増加が予測されています。
 平成28年3月に公表された内閣府の調査によると、未就学児の育児と介護を同時に行っているダブルケアラーは約25万人と推計され、そのうち8割が30~40代と働き盛りの世代で、約66%が女性です。
 私たちが運営する子育てひろばや相談事業でも、「家族の介護が必要になったため、子どもの保育施設を探している」という相談が増えています。障がいのあるきょうだい児のケア、病気のパートナーのケア、自分の体調不良などの多重介護の状態を含めるとダブルケアの形は様々です。時には「仕事と子育てで多忙な上に急に介護が始まり、疲れ果て、自分が心の不調に…」とダブルケアが引き金で新たなケアが生まれることも珍しくありません。
 小さな家族の中で、どんどん大変な状況が積み重なると、気が付いた時には身動きができない状態になっていることも珍しくありません。そうなる前に備えておくことが重要なのです。

ダブルケアへの備え

 ダブルケア経験者の4割近くが備えをしていなかったとのデータもあります。ダブルケアをやみくもに恐れず、必要な「備え」を知り、できることから一つずつ整えておくことがいざという時に役立ちます。必要な「備え」は主に四つです。
 一つ目の「備え」は支援や制度の確認です。「高齢者福祉」「児童福祉」「障がい者福祉」と制度上は縦割り状態の中、ダブルケアは「狭間の問題」です。そのため窓口がバラバラになってしまい、支援につながるまでに疲れ果ててしまう家族を多く見てきました。事前に自分に関係しそうな複数の分野の支援先のイメージをうっすらでも知っておくことはダブルケアの基礎体力となります。
 二つ目は仕事に対する「備え」です。ダブルケアの経済的な負担は育児と介護で月7万円を超えると言われています(ソニー生命ダブルケア調査2018)。経済的な負担が大きい一方で、男性の8.4%、女性の11.6%が離職をしています。その理由として必要な支援につながるまでは、家族が主体となって対応しなければならないことが多くあることが挙げられます。ダブルケアと仕事の両立に必要なことは「一人で抱え込まないこと」。職場の理解を得ようと思ったら、介護をしていることを周囲に伝え、必要な情報を共有することです。また介護休業や介護休暇は「仕事を続けるための準備期間」として活用し、具体的な目標を持って動くことが必要です。仕事はダブルケアの状況下において、精神的な逃げ場となったとの声もよく聞かれます。実際私も、ダブルケア状況であっても、仕事をしている間は自分のスイッチが切り替わり、日々の精神的なバランスをとることができたことを記憶しています。また仕事は自分のキャリアでもあります。人生で大切なものが守られることは充足感となり、生きる力となります。
 三つ目の「備え」は生活状況の把握です。昨年、私たちが実施した子育て家庭の家事・育児のニーズ調査によると、未だにケアワークの主体は圧倒的に母親でした。それだけでなく、女性に比べて男性は、ケアワーク全般のコストに対する意識が低い傾向がみられました。いざという時に「こんなにかかるのか」と夫婦で口論になるなど、意識の違いもまた、ストレスとなります。そこで大切になるのは「会話」です。普段から、時間やコストが「何に、どれくらい」かかっているかを具体的に共有しておくことが大切です。
 また、ダブルケアをしている方からは、「子どもに対して余裕がなくなってつらい」など子育てへのしわ寄せをつらいと感じる声が多く聞かれます。「どちらかをしようとすると、どちらかがおろそかになって当然」と自分たちの事情に納得し、どう優先順位をつけるかを決めるようにすることで心の負荷を最小限におさえることができます。また、少し大きくなった子どもは人の役に立つことを喜びます。無理のないことで子どもに役割を与え、できたら「ありがとう、助かったよ」と感謝を伝えることで、子どもの自己肯定感が育つチャンスになるのです。
 そして四つ目の「備え」は「介護される側になるであろう家族と話し合っておくこと」です。ダブルケアは担い手の大変さがフォーカスされますが、介護をされる「本人にとって大切なこと」が実は大事です。私たちが行っているダブルケアカフェ※1では普段の生活や会話の中で、家族の希望やこだわりをチェックすることをすすめています。両親へのプレゼントに「ライフプランノート」を渡し、一緒に作成し始めた人もいます。人の気持ちは揺れ動くという前提で何度も話し合うことがポイントです。文字に書き起こすことで自分の気持ちが明確になり、個々が望む暮らしの実現につながるのです。私たちがダブルケアについて介護される側に近い高齢のみなさんにお話しをした時、「子どもの犠牲、しわ寄せは望まない」「介護で仕事をやめさせたくない」などの声が多く聞かれました。こうした当事者の思いを予め知っておくことでいざという時の決定もしやすくなります。

※1 ダブルケアカフェとは

子どもと一緒に気軽に立ち寄れる場で、先輩当事者の体験を聞いたり、お茶を飲みながらゆっくりと日常の困りごとや課題について話したりします。社会福祉協議会や地域包括支援センターとの協力体制もあるため、より専門的な相談窓口にもつなぐことができます。

間接的にダブルケア家庭を支える

 「子育てが苦しい」「余裕がない」「子どもにイライラしてしまう」と子育てに息苦しさを感じている親が増えている昨今、それに加えて介護という新たなケアが重なると、日々を過ごすことに精いっぱいで『私はダブルケアラーだ』と本人が自覚することはまれです。
一方、ケアマネージャーなど介護の専門家でさえ、ダブルケアをよく知らない人が多いという問題もあります。同じ福祉分野でも、育児と介護はそれぞれ別の分野であるため、ダブルケアを抱える家族の状況を考える認識が遅れているのです。
 そのような中、地域のセーフティネットの網の目を細やかにしていくために、地域住民に向けてダブルケアに関する勉強会や相談会を開催することは効果的です。住民同士の何気ない会話から困りごとをキャッチし、そのままにしない。問題が大きくなる前のタイミングで困りごとをキャッチできれば、支援の選択肢や利用のための手順を示すなど、少し手を添えるだけで、家族の力で必要な支援につなげることができます。
 困難なイメージが強いダブルケアですが、子育てや介護に限らず、人生では様々なケアが重なることが多くあります。そんな中で、私たちは必要な備えをした上で、日々やりくりをしながら自身の人生を成り立たせていっているのです。
 さて、冒頭お話した私のダブルケアですが、友人への相談が突破口となり、医療機関、制度、相談機関など次々と必要な支援とつながることができました。自分自身のことが後回しになりがちな中、ジム通いを始め、なんと減量に成功!意識的に自分のための時間をつくることで、家族にも優しくなれました。愚痴を聞いてもらったり、ねぎらってもらったり、子どもの見守りをしてもらったり、意識をすれば誰かに頼れることは実はたくさんあります。なにもかも頑張りすぎで、頼り下手だった私は、周囲にお願いできることを書き出すことで上手に頼り、体重同様、負荷を減らすことに成功しました。頼ることができる人は頼られる人になると言われます。日頃から「お互い様」のやりとりを積み重ねることで家族の応援団が増え、難しい局面でも望む暮らしの実現の一歩になるのです。

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