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事例4:花王株式会社

大企業における、綿密な実態把握に基づく制度設計と利用促進の取組

花王株式会社

平成28年度取材

1.企業概要

  • 創立:1887年
  • 所在地:東京都中央区日本橋茅場町1-14-10
  • 従業員数:71,950名/ 33,195名(連結)
  • 事業内容:日用品化学メーカー

2.取組の背景

  • 当社は「ダイバーシティ&インクルージョン」を推進することを方針としており、その上で仕事と生活のバランスが重要な要素のひとつと考えています。1990年代に仕事と育児の両立に関して取組を行い、制度利用は定着してきていました。介護については、2000年代半ばに介護離職がマスコミに取り上げられるようになったことなどから、問題意識を持つようになり、2008年に取組を開始しました。

3.取組内容

①実態把握
  • 取組当初に実施した「従業員の家族の年齢に基づく予測」により、この10年で介護を担う従業員数が2倍に増加し、2018年には6人に1人が介護に関わることが分かりました。また、男性従業員も直面すること、共働き・独身ともに介護を担うことになるため、会社にとって様々な面で影響が大きいことが分かり、重要性を認識しました。
  • 介護については、周囲や会社に伝えにくい雰囲気があり、従業員の実態が把握しにくい、制度はあるのに利用が進んでいないという課題がありました。
  • そこで、実態を把握するため、2009年11月に『介護に関するアンケート』を実施しました。その結果、介護は自分が主たる介護者でなくても負担が重いと感じること、要介護者の住まいへの移動時間が車や電車などで3時間以上かかるような従業員も3割以上いること、介護認定が軽くても、いろいろな意味で介護者の負担が重いことなどが分かりました。
  • さらなる個別の介護実態把握のため、全国の事業所で個別面談という形でヒアリングを実施しました。アンケートのフリーコメントとヒアリング結果を合せて分析したところ、介護者が抱える課題は<心理的負担><時間的負担><経済的負担>に分類でき、中でも心理的負担が大きいことが分かりました。
  • 心理的負担は、急に介護が発生した時や、介護認定を受ける前の負担が大きいこと、周囲に言いづらいという負担、時間的負担は、介護期間が1年以上である場合が85%であることや、要介護者の病態によって介護にかかる時間・期間は様々であり、柔軟な働き方が望まれること、経済的負担は、入居型施設の費用等、介護保険だけでは不十分である場合があることなどが分かりました。
  • 各負担に対し、心理的負担は相談窓口を設置、時間的負担には柔軟な働き方に関する制度を整備、経済的負担は共済会の支援という形で対応することにしました。
  • 会社はあらゆることを支援するというのではなく“当事者が主体的に対応(自助努力)することが基本になるが、仕事と介護の両立は負担が重いので、会社は社員の自助努力をできるだけ支援する”という考えです。そのうえで、各職場においては“お互いさま意識を持って支え合う”という介護支援の基本方針を設定しました。
②制度の設計・見直し
  • 時間的負担に対して、法定以上の介護休業・休暇制度、短時間勤務制度等、柔軟な働き方に関する制度を整備しています。2015年の1月からは時間単位の有給休暇取得も可能としました。
  • 現状では、法定の介護休暇や、有給休暇等の単発休暇の利用が多いものの、利用者数増加傾向です。
  • 介護休業制度の利用者数も微増していますが、有給の特別休暇(40日まで)や有給休暇で対応しているケースが多いです。
③事前の情報提供
  • 介護に直面する前の従業員にも心構えをもってもらえるよう、仕事と介護の両立に関する知識習得や自社制度の利用促進を目的として、以下のような各種情報提供を実施しています。
  • 両立支援ガイドブック⇒育児や介護に関する社内外の制度や支援情報を、イラストなどを使いわかりやすく解説しています。イントラネットで紹介しています。
  • 介護ハンドブック⇒両立支援ガイドブックの別冊として介護の情報に特化し、発行したものです。どのような方針で当社が介護に取り組んでいるのかを明記しています。相談窓口、国や会社の介護支援制度、介護保険の手続き、事前の準備が必要なこと等を掲載しており、イントラネットで紹介しています。
  • 介護相談対応マニュアル⇒人事担当者用のマニュアルです。社員からの介護相談に対する人事担当の役割などを共有できるようになっています。
  • D&I推進ニュースレター(社内向けメールマガジン)⇒従業員の意識啓発のためのもの。介護に関しては年に1回配信しています。
  • 介護セミナー⇒全国の各事業所で、希望した従業員を対象に外部講師によるセミナーを年2~4回程度実施しています。
  • 様々な情報提供をしていますが、知らなかったという声もあるため、今後も地道に継続していかなければと考えています。
④介護に直面した従業員への利用支援
  • 経済的負担に関しては、共済会による介護サービスに対する補助金など、金銭的援助を実施しており、制度利用者は増加しています。
  • 心理的負担に関しては、まず、介護と両立しながら仕事に取り組むための方法については、各事業場の勤労担当や、各部門専属の人事担当であるキャリアコーディネーターに相談することにしています。また、会社に相談しにくいことについては、外部の窓口に相談することができます。相談体制の充実は、非常に重要であると考えています。
⑤働き方改革
  • 全国に工場や研究所等の事業場があり、製品や職種が多岐にわたり、専門的な業務も多いことから、部門ごとに業務内容がかなり違っています。そのため、仕事の仕方の工夫は各部門が主体となって対応することとしています。介護との両立においては、本人の意向を重視することを基本としながら、業務配分を工夫するなど、まずは各部署で最適な方法を検討してもらいながら進めています。
  • 管理職に対しては、介護に限らずダイバーシティ推進という観点から、以前よりマネージャー研修にて、自分の部下が介護になった時の対応策を検討するケーススタディを実施しています。
  • 2016年から、さらなるマネージャーのスキル向上のため、マネージャー全員を対象にダイバーシティマネジメントを徹底する研修を行っており、介護も全体の一部として触れています。部下が介護に直面した際に上司として取るべき態度等、基本的なことを伝えて、部下が介護をしながらも仕事への意欲を維持できるなど、介護に理解のある風土の醸成と、業務配分の工夫に努めるよう、マネージャーの理解を深めています。

4.これまでの効果と今後の課題

  • アンケートとヒアリングにより実態把握がしっかりできたことで、取組を説得力を持って進めることができました。
  • 情報発信により、介護に関心のある従業員には、介護との両立に関する情報提供が届いており、自社制度の理解や利用の促進が進んできていると感じています。また、休暇取得の際に上司に配慮してもらえて助かったという声もあり、風土醸成においても一定の効果が出ていると思います。
  • 一方で、介護という言葉を聞いてもキャッチしない従業員に、どう情報を伝えるかが課題です。起こって欲しくない事には目を向けたくない心理があるようで、全ての従業員にはまだ理解が進んでいない面があります。お互いさま意識の醸成には、介護への理解が不可欠なため、従業員全体の意識をどう高めるかが重要です。
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