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「プレ・マタニティハラスメント予防に向けた企業の取り組みに対する提言」

コラム

「プレ・マタニティハラスメント予防に向けた企業の取り組みに対する提言」

NPO法人Fine理事長 野曽原誉枝
令和4年度執筆

1.「プレ・マタニティハラスメントとは」

 プレ・マタニティハラスメントとは、妊娠する前の人に対するハラスメントを指します。特に妊活(妊娠するための活動・努力)や、不妊治療・不育治療を行なっている人に対する嫌がらせや妊娠を妨げようとする行為で、意識的かどうかを問わず相手に不快感や不利益を与え、尊厳を傷つけることです。具体的には不妊治療や不育治療を理由に解雇、降格、減給、雑務ばかりを行なわせて就業環境を害することなども含まれます。 また、上司や同僚から精神的、肉体的に苦痛になる言動を受けた場合も該当します。
 日本では、マタニティ(妊娠・出産・育児)に対してのハラスメント行為は違法となり、各企業でもマタニティハラスメント防止の取り組みが広がってきました。しかし妊娠する前の段階でのハラスメントについては具体的な取り組みがありませんでしたが、不妊や不妊治療に悩む人が増えていることから2020年6月施行の通称「パワハラ防止法」(労働施策総合推進法)に「不妊治療に対するハラスメント」防止に向けた措置が義務化されました。妊活や不妊・不育治療はカップルで行なうものですので、男性不妊に関わる治療の必要性の有無に関わらず、男性労働者に対する言動も対象になります。
参考資料:https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000683138.pdf

2.「プレ・マタニティハラスメントの実例」

 どのような言動がプレ・マタニティハラスメントに該当すると思われますか?
NPO法人Fineが実施した「仕事と不妊治療の両立に関するアンケート Part 2」より抜粋してご紹介します。

<解雇その他不利益な取り扱いをする言動>
・不妊治療をすることを伝えると、職場の理解を得られず、上司からは「不妊治療をするなら、退職してからしてほしい」と言われ、やむなく退職しました。

・不妊治療で休みを取るなら「正社員としては雇用できない」と言われました。

・上司に不妊治療をすること、休みが増えてしまうことを告げましたが、「妊活か仕事かどちらかを選びなさい」と⾔われ、結局退職することになりました。

・突然の受診のため上司に仕事を調整したいと伝えましたが「もう少し長期的に予定が立てられないのか?」と言われてしまい、理解が得られませんでした。

・不妊治療のことを伝えたら、異動希望も出していないのに仕事を変えられ、配置転換をされました。

・職場の⼈から「こんな状況で妊娠したら、つわりで休むんでしょ?産休育休取るんでしょ?辞めれば?退職して⼦どものことに専念すれば?」と⾔われました。

<制度などの利用請求や利用を阻害する言動>

・上司に体外受精をする旨を伝え休暇を申し出ましたが、上司から「さっさと1回で成功させろ」と言われました。体外受精を始めて間もないのに、これから毎回このような精神的苦痛を伴うのかと思うと絶望しました。

・不妊治療のために必要な休暇申請を出したところ、「そんなに休暇が必要なら1ヶ月休め」と言われ、休暇が取れませんでした。

・上司に不妊治療のことを打ち明けましたが、「まだ若いから子供はいつでも作れる。今は仕事を優先して」と定期的な面談の度に言われ、とても辛かったです。

・女性が多い職場で、女性上司に理解が得られず、「不妊治療の病院通いは休みの日に行きなさい」と言われました。休みの日に通院もしていましたが、不妊治療はあらかじめスケジュールが立てにくい治療でしたので、悲しかったです。

・有給休暇を申請すると「また休むの?一昨日も病院に行ったよね?」と言われました。

<状態に対する嫌がらせにあたる言動>

・夫婦で不妊治療をしていると伝えたら、同僚から「種無し」と言われ笑われました。なかなか授かることができず悩んでいるのに、とても傷つき悲しく感じました。

・「XXさんは不妊治療をしているから、時々休暇を取るようです」と、私の承諾を得ないまま、不妊治療をしていることを他の従業員に伝えられてしまいました。

・上司から「月2回くらい通院すればいいんだろう。仕事と両立しろ」を頭ごなしに言われました。

・男性社員が多い職場で、同僚や先輩から「子どもの作り方教えてあげようか?」など、セクハラ発言も多く苦労しました。

・高齢での不妊治療について、職場の同僚から「不妊治療を受けるなんておかしい」と言われ、大変傷つきました。

・二人目不妊治療について「一人子どもがいるんだからもう良いんじゃない?」と言われました。

・職場の⼈に「女は仕事か⼦どもか選ばなくてはね」と言われました。

3.「プレ・マタニティハラスメント予防に取り組む意義」

 これまでの日本的雇用慣行の元、同一の価値観や年功序列の賃金体制、長期雇用制度のままでは組織の成長や組織の発展が見込めなくなっています。そのような中で多くの企業が性別などの属性、価値観、働き方の異なるダイバーシティ組織に転換をしています。従業員の多くは結婚や出産の有無とそのタイミング、さらには子育てや介護など、ライフイベントにおける選択も多様になっています。同時に、ライフイベントと仕事は両立したいという考えが世代を問わず浸透してきていることから、○○と仕事の両立に関する課題も多様化しています。とりわけ介護や不妊治療のように、当事者が周りに話がしにくい事柄については表面化しにくく、潜在的な課題となっています。
 妊活や不妊、不妊・不育治療については、治療の内容や当事者が抱える課題について周囲の人に正しい知識がないことが多く、治療を受けることや治療そのものに対しての偏見も、世代を問わず存在するのも事実です。また当事者が周囲の人に不妊や不妊治療について話しても、正しく理解してもらえない状況にあり、実際には表面化しにくい両立課題となっています。
 また、不妊治療と仕事の両立ができず、やむを得ず退職を選んでしまうことによる人材損失、人材流出は企業にとても大きな損失であると認識し、働きやすい環境や風土情勢、制度整備を進めるなど、仕事との両立の課題に積極的に取り組む企業も増えています。
 それぞれの個々の能力を最大限に引き出し、力に変え、その力を発揮できる組織を作っていくことで、組織の目標は達成できます。働き手不足が顕著になる昨今、優秀な人材を確保し企業活動の継続性を担保し、長期的に社会に貢献する組織にとって、プレ・マタニティハラスメント予防に取り組む意義が大きいのです。

【企業が取り組む意義】

①従業員の福利厚生の側面

・不妊や不育治療と仕事の両立に向けた支援は、ライフワークバランスが実現できることから、従業員の満足度が高まります。仕事と生活の調和がとれることで業務に対する効率化も期待できます。
・有限な時間を有意義に使えることで、従業員の働く意欲が増し、企業への貢献意欲が向上します。
・仕事と両立できないというストレスを抱えた状態は、従業員の仕事に対する生産性にも大きく影響します。心身ともに健康で、それぞれの能力を十分に発揮できる組織作りにも有効です。

②社会的責任(CSR)の観点から

・組織のための人ではなく、人のための組織となるための取り組みは、企業の価値向上に繋がります。
・健康経営の実践、従業員重視の経営、人材育成力は、事業継続の基盤となります。
・社会的責任を果たしている企業であることは、優秀な人材採用に繋がります。

③退職による優秀な人材損失、人材流失予防

・仕事をしながら不妊や不妊治療行なっている世代は、企業の中でも中心的となるリーダー的存在であることも多く、ノウハウや実績を持っている30代、40代が多いのが現状です。優秀な人材は業績への貢献度も高く、これらの従業員が不妊治療との両立の難しさから退職を選んでしまうことは、大きな損失となります。
・突然の退職により、業務遂行のための体制変更、人材育成など、大きなコストが発生することにも繋がりますので、両立を支援することは、長期的には人材損失防止に繋がります。
・ライフイベントと仕事の両立ができる職場であることで、若手が生き生きと働ける環境にもなり、人材流出の予防にもなります。

④制度化による社内への周知、啓発

・組織の中において、仕事やそれ以外の内容で相談や情報共有する風土作りができ、従業員同士のコミュニケーションの円滑化に繋がります。
・妊娠や不妊に関する啓発をきっかけに、企業全体で正しい知識を得ることで、男性女性に関わらず幅広い世代のヘルスリテラシー向上につながります。
・企業として取り組むことで、不妊や不妊治療への理解促進に繋がり、思い込みや偏見を減少させることができ、意図しないハラスメントの防止に繋がります。

 妊活、不妊治療や不育治療は、その人の年齢や状態、疾病の有無などにより個別性が大変高く、治療方法も異なりますし、治療による副作用も異なります。また実際には流産や死産を経験する人も多く、精神的な負担も大きいのが現状です。
 たとえ組織の中に不妊や不妊治療を経験した人がいたとしても、実際には誰一人として同じ経験や状態ではないことをご理解いただきたいと思います。具体的には、一人目不妊と二人目不妊でも違いますし、人工授精を行なっているのか、体外受精を行なっているのかでも状況や状態、精神的な負担も異なります。

 子どもを授かりたいと願い妊活・不妊治療・不育治療を行ないながら、仕事でも企業や組織に貢献したい、キャリアアップを目指したい、そう願う「従業員のための企業」として取り組みが必要になっています。妊娠や不妊、不妊治療に対する正しい知識を身につけ、プレ・マタニティハラスメント防止のための取り組みを進め、しなやかな企業になることが、社会への継続的な価値の還元につながるのではないでしょうか。

【参考】

厚生労働省「不妊治療と仕事の両立のサポート―職場における支援のあり方とやり方」
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/202105_00001.html

厚生労働省「不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/dl/30l.pdf

東京労働局 令和2年「職場におけるハラスメント関係指針」
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000595233.pdf

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