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不妊治療と仕事の両立を支援する柔軟な働き方

コラム

不妊治療と仕事の両立を支援する柔軟な働き方

特定社会保険労務士 福島通子
令和5年度執筆

今日では、様々な企業における不妊治療と仕事の両立支援の取組が広がってきています。企業が社員の事情に応じて支援する姿勢を示し、不妊治療と仕事の両立が可能となる取り組みを進めることは、離職の防止や、モチベーション維持などに役立ちます。

厚生労働省は「不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル」や「不妊治療と仕事の両立サポートハンドブック」を作成し、不妊治療と仕事の両立を図る休暇制度・両立支援制度などの職場環境整備や利用促進に活用していただきたいとしています。

ここでは、不妊治療と仕事の両立支援の取組を行うために必要な5つのステップについて解説をします。

グラフ1

出典:「不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル」P10

ステップ1 取組方針の明確化、取り組み体制の整備

まずはトップが企業として不妊治療と仕事の両立を推進する方針を示し、企業内で講じている取り組み体制について周知するところから始めます。こうした宣言があることによって、社員は制度を利用しやすくなりますし、上司や同僚のサポートが受けやすくなります。

取り組み体制の整備に関しては、主導する部門や担当者等を決定し、社内の要請や他社の対応について情報収集します。人事部門もしくは総務部門が主導することが多いようですが、中にはプロジェクトチームを編成して主導した例もあります。

ステップ2 不妊治療と仕事の両立に関する実態把握

社員の不妊治療についての認識や社員の状況、仕事との両立に対する不安、支援のニーズなどを把握します。

実態把握の方法として、①チェックリストや無記名のアンケートなどを活用した現状把握、②社員からヒアリング、③社員意識調査や人事面談による意見聴取、④労働組合等の社員の要望をまとめる組織との意見交換などが考えられます。

こうしたアンケートやヒアリング、意見交換などの実施は、企業として不妊治療と仕事の両立を支援するという姿勢を示すことにもなり、社員のモチベーションを向上させることにつながります。

グラフ2

出典:「不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル」P11

ステップ3 制度の設計・取り組みの決定

実態把握の結果を踏まえて、制度設計を行います。

取り組み企業の中には、不妊治療のための休暇もしくは休職の制度を設けたり、治療費の補助や貸付を行うなど、独自の取り組みを行っている企業がありますが、社員のニーズに応じて 柔軟に働ける制度を用意するとよいでしょう。

不妊治療は頻繁に通院する必要があるものの、1回の治療にそれほど時間がかからない場合もあります。不妊治療の一般的なスケジュールとして、月経周期時の通院回数の目安から見ると、一般不妊治療は1回につき1時間から2時間程度の通院が2日から6日必要です。生殖補助医療になると、1回につき半日から1日程度の通院が4日から10日必要となります。通院のタイミングも含めて、仕事の日程調整が可能となる働き方を用意することが望ましく、柔軟な働き方を用意することによって働きながら治療を受けられる状況が作れることになります。

また、不妊治療に特化するのでなく、社員全体で共有できる制度であればなお使いやすい制度となるでしょう。休暇や休職だけでなく、時間単位での有給休暇取得や、フレックスタイム制の導入なども検討してはいかがでしょうか。テレワークの導入も検討されるとよいでしょう。

なお、具体的な取り組みや制度を導入するにあたり、就業規則に記載しなければならない事項もありますので、就業規則の整備も必要です。例えば、休暇制度の導入をする場合は、①対象となる労働者の範囲、②休暇取得に必要な手続き、③休暇期間 等について明記します。また、この期間の賃金支払いの有無についても決定し記載することになります。

ステップ4 運用

そしていよいよ運用です。たとえ制度や支援の枠組みが充実していても、それを利用する場合は本人からの申出が基本ですので、全社員への周知と申し出がしやすい環境づくりが欠かせません。そのためには不妊治療等を理由としたハラスメントが生じることのないように意識啓発を行うことも重要です。

1.制度等の周知と意識啓発

(1)自社の方針の明確化と制度の周知
制度を知らなかったがために利用できず退職したというケースもあります。こうした残念な事態を起こさないためにも、トップの方針表明や社員のみならず管理職も含めた制度の周知が重要です。

(2)社内意識の醸成
不妊治療を行っている社員に対する職場の理解が求められます。不妊治療を行っていることを知らせたくないと思っている社員もいますが、不妊治療のみならず、育児や介護など様々な家庭事情を抱える社員もいますので、そうした家庭事情と仕事の両立を支援しているという企業メッセージを発信することが両立支援への社内意識の醸成につながります。

(3)ハラスメントのない職場づくり
男女雇用機会均等法に基づいて策定された「事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」において、職場における妊娠・出産等に関する否定的な言動がハラスメントの原因にもなるとされています。
不妊治療を受ける者や受けることに関する直接的な嫌がらせや否定的な言動、からかい、軽々しく扱うことなどを慎むように周知しましょう。例えば、日ごろから上司や同僚が不妊治療を軽んじているような言動をしていれば、治療を行っている社員は傷つき、迷惑をかけているような気持になるでしょう。社員が十分に能力を発揮できない状況が生まれ、職場秩序の乱れや業務への支障を招きかねません。制度への利用などに関する嫌がらせもあってはならないことです。制度があるにもかかわらず利用を躊躇するような職場環境であってはなりません。

(4)プライバシーの保護
不妊や不妊治療に関することはプライバシーに属することであり、保護には十分に配慮しなければなりません。
たとえば、本人から相談を受けたとき、相談内容の情報についてどの範囲まで共有するかということも本人に確認しておきましょう。本人の同意なく、本人の意思に反して知れ渡ってしまうような状況は避けなければなりません。

(5)周知すべき事項は以下のような内容と考えられます。

 ①不妊治療と仕事の両立支援についての自社の方針

  • ・不妊や不妊治療についての知識
  • ・不妊治療と仕事の両立支援の意義
  • ・不妊治療と仕事との両立を応援しているということ
  • ・不妊や不妊治療を理由とするハラスメントを許さないこと
  • ・プライバシーの保護

 ②制度の内容、利用要件、適用範囲、申請方法、申請事項、申請時期

(6)周知方法

 ①通達、社内報、パンフレット、ハンドブック、イントラネット等
 ②上司から部下への説明
 ③説明会、研修会、eラーニング等の実施

以上により、制度の周知や意識啓発を進めていきますが、運用において重要な役割を果たすのは、管理職や人事部の担当者です。日ごろから、不妊治療に関わらず家庭の事情は誰にでも起こりうることを周知することや、不妊治療を行っている者のフォローをしている社員の働き方や業務量の見なおし・調整を行うことも役割の一つです。

最も直接的な重要な役割として相談対応があります。相談を受けた場合は、どのような働き方を望んでいるのか等、可能な範囲で実態やニーズを把握します。また、要望する働き方を実現するためにどのような制度が利用できるのか、説明ができるようにしておきましょう。

2.相談対応

不妊治療と仕事の両立に関する相談等についての対応窓口を決めて周知をします。相談を受ける者や管理職や人事部の役割もできるだけ明確にしておきましょう。

相談対応のポイントは以下の通りです。

  • ・両立を支援するというメッセージを伝える
  • ・相談者の実態を可能な範囲で把握する
  • ・両立のためにどのような課題を抱えているのかを把握する
  • ・どのような働き方をしたいのかのニーズを把握する
  • ・制度説明をする

なお、制度説明に関しては、単に制度の提示だけではなく、具体的な申請方法やタイミングを示して、相談者の実情に沿った制度の利用が可能かを検討する必要があります。

ステップ5 取組実績の確認、見直し

一定期間が経過したのちに、制度や取組の活用実績などを確認したうえで、評価や見直しをするというプロセスが必要です。見直しを行う際には、まず、自社の制度の趣旨や内容が十分に周知されているかどうかの確認を行います。アンケートやヒアリング、意見交換などにより実態把握を行い、課題を抽出します。
利用実績が少ない理由が、要件のわかりにくさや手続きの煩雑さである場合は、早急に見直しを行います。

また、不妊治療をする社員は、必ずしも連続した休暇が欲しいわけではなく、短期の休暇や、半日や時間単位で労働時間を調整できる働き方を求めている場合もあります。テレワークのように時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方のニーズも考えられます。現状の制度にとらわれず、社員のニーズに対応しているかどうかの確認は常に行っていくべきでしょう。

通院と仕事のスケジュールの調整、治療の期限が決まらないことへの不安などもあり、治療と仕事の両立は容易ではありませんが、今般は事業所の規模に関わらず、様々な柔軟な働き方を導入し、治療と仕事が両立できる職場づくりに取り組む動きが広がってきています。

取り組みを進めた事業所からは、離職の防止や新たな人材確保にもメリットがあったという声があります。多様な働き方の選択肢のある職場であれば、一時的に違う働き方をする時期があっても退職することなく継続勤務が可能となり、周囲の同僚たちへの感謝の気持ちも芽生え、よい人間関係も醸成されるでしょう。そうした企業であるというアピールができれば新たな人材を招きやすくなります。

自社で可能な範囲で、社員のニーズに応じた制度を検討し、運用しては改善をしていく、PDCAサイクルを回し続けることで、その制度や職場風土が成熟していくものと思われます。

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