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事例9:株式会社交通新聞社
不妊治療もキャリアも諦めない。「こうのとりサポート制度」が導く、制度と風土が両輪で回る『やさしい組織』づくり
1.企業概要
設立年 :昭和33年2月28日
所在地 :〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台2-3-11 ヒューリック御茶ノ水ビル
従業員数 :233名
事業内容 :新聞その他の定期刊行物の発行、時刻表及び書籍、雑誌等の出版・販売並びに取次販売、広告事業
2.取組の背景
当社は発足以来、鉄道や交通、さらには旅行に関する深く専門的な情報を社会に発信し続けてきました。出版や新聞といったコンテンツ制作を主軸とする当社では、かつては「校了」「下版」という業界特有の厳格な期限を守る必要性から、長時間労働が常態化する場面が少なくありませんでした。
しかし、2010年代に入り、労働環境を取り巻く社会情勢の変化に対応するとともに、何よりも大切な財産である従業員の皆さんに安心して長く勤めてもらいたいという経営陣の強い意思のもと、勤務制度改革に着手しました。2016年のフレックス制度導入に加え、2020年にはテレワークを導入(コロナ禍を経て2022年に正式制度化)するなど、超勤削減のみならず育児・介護等との両立支援体制を確立しました。そして2024年、さらなるライフワークバランスの向上をめざして不妊治療と仕事の両立を支援する目的でスタートしたのが「こうのとりサポート制度」です。
不妊治療に関する取り組みに着手した理由は大きく3つあります。第一に、社会的なニーズの高まりです。こども家庭庁の統計によると不妊の検査や治療を実際に経験した夫婦は約22.7パーセントに達し、これは約4.4組に1組という極めて高い割合になります。また、将来的な不妊への不安を抱える夫婦まで含めると、その数はさらに膨らみます。不妊治療はもはや特別なことではなく、誰もが直面しうる身近なライフイベントであり、企業として真摯にサポート体制を整備することは、もはや選択肢ではなく不可欠な責務であると私たちは考えました。
第二の理由は、従業員から寄せられた切実かつ具体的な声です。ある日、退職を視野に入れていると面談の申し出を受け、よく話を聞いてみると、理由は不妊治療でした。不妊治療は個々の体調に合わせた緻密なスケジュール管理が求められるため、事前に予定を確定させることが難しく、急遽の通院も発生します。さらに、高度にプライバシーに関わる課題であるがゆえに、会社に申し出ることに抵抗を感じる方が多いように感じます。こうした実情を踏まえると、人知れず仕事との両立に悩む従業員がきっとほかにもいるのではないか、と考えました。
そして第三に、当社の根本的な経営方針として「社員をステークホルダーの一員として大切にする」という考え方があります。当社は女性活躍にとどまらず、「男女ともに等しく活躍できる推進体制」を一貫して追求しています。その中で、特に女性の負担が大きくなりがちな不妊治療というテーマに真正面から向き合うことは、多様性を尊重し、お互いを認め合う健全な組織風土を醸成する上で非常に重要なプロセスであると考えています。
3.取組内容
当社では、単に制度を設けるだけではなく、それが実際に機能する風土を同時に育てていくことを重視しています。まず、柔軟な働き方の土台として、仕事の繁閑に応じてメリハリをつけて働けるよう、コアタイムを設けないフルフレックス勤務制度を導入しました。これに加え、出社と自宅勤務をその日の状況に応じて柔軟に切り替えることができるテレワーク制度も標準化しています。これにより、不妊治療はもちろん、子どもの急な発熱や学校行事といった育児の用件、さらには介護や自己研鑽といったプライベートな予定とも無理なく折り合いをつけられるようになりました。また、深夜22時以降の勤務や休日出勤を原則禁止するルールを徹底することで、オンオフの切替がしっかりできる健全な労働環境を維持しています。育児支援の面では、一般的には小学校低学年までとされることが多い短時間勤務制度を、当社では小学校6年生を修了するまで利用可能とするなど、法定を上回る手厚い設定としています。
そして、不妊治療を具体的に支援する独自の仕組みとして構築したのが「こうのとりサポート制度」です。この制度は、プライバシーに関わるデリケートな課題に対し、会社が敬意と配慮を持って寄り添うことを目的としています。具体的には、働きながらの通院が物理的・精神的に困難になった際、性別や雇用形態を問わず、最大で1年間の休職を取得することが可能です。休職にあたっては、開始の30日前までに申請を行うことを基本としていますが、医師の診断書以外にも厚生労働省が推奨する「不妊治療連絡カード」の活用を全面的に認め、従業員の事務的な負担軽減にも配慮しています。さらに、休職期間中の経済的な不安を少しでも和らげるため、社会保険料の本人負担分に相当する額を会社が補助する仕組みを新たに設けました。これにより、月々の負担が数万円単位で軽減され、無給期間における生活への影響を最小限に抑えることが可能となりました。
制度を形骸化させないための啓発活動と風土づくりについては、全従業員を対象としたライフイベントに関するセミナーを毎年継続的に実施し、育児や介護、そして不妊治療等への理解を深める機会を設けています。特に管理職に対しては、多様な状況にある部下を適切に評価することをはじめ、心理的安全性を確保しながら支援するための教育を定期的に行い、時には外部の専門講師を招いた実践的な研修も取り入れています。
4.これまでの効果と、今後の課題
当社の継続的な取り組みは、確かな成果として身を結び、2023年8月に「プラチナくるみん」、2025年6月に「えるぼし(第三段階)」、さらに9月には不妊治療と仕事の両立を高い次元で実現している企業として「プラチナくるみんプラス」の認定をいただきました。実際の数値においても、直近10年間の採用男女比は女性の方が多く、常勤役員の25パーセント、管理職の20パーセントを女性が占めるなど、業界内でも高い水準を維持しています。これらは性別という枠組みを超え、一人ひとりの従業員が自然体で最大限に能力を発揮できるよう、男女活躍推進を続けてきたからこその結果であると確信しています。労働人口が減少の一途をたどり、人材の流動化が激しさを増す現代社会において、当社で長く働き続けたいと願い、キャリアアップを実現する従業員が増えていることは、経営上の観点からも大きなアドバンテージとなるでしょう。
組織風土においても、大きな変化を実感しています。研修や対話を通じて「自分もいつか支えられる側になるかもしれない」「今は同僚の力になりたい」という共助のマインドを持つ従業員が着実に増えてきました。また、実際に両立支援制度を利用した経験者が、今まさに悩んでいる後輩の相談に乗るといった「経験のバトン」が社内で自然に受け継がれており、誰でも気兼ねなく相談できる温かな雰囲気が根付いています。
一方で、解決すべき課題もあります。こうした支援制度は、従業員全員が100パーセント満足するような状態にすることが難しいのが現実です。支援の充実と同時に、制度を直接利用しない従業員が不公平感や業務のしわ寄せを過度に感じることのないよう、細心の注意を払う必要があります。加えて、不在期間のサポートに対して人事考課や賞与等で適切に報いる等、明確な形でフォローしていく枠組みの検討も重要です。制度を利用する側と支える周囲のメンバー双方がともに前向きなマインドを持ち、感謝し合い、称え合えるような仕組みを構築することが、当社の次なる目標です。
制度の存在は、従業員に「安心感」をもたらします。とくに「こうのとりサポート制度」に関しては、実際の利用者は今後あまり増えないかもしれません。しかし、平時は柔軟なフレックス制度やテレワークを活用して自律的に対応しつつ、いざという時には長期間の休職や経済的支援が約束されています。そのようなセーフティネットが存在していることに大きな意義があります。それに加えて、気兼ねなく使える職場の雰囲気が重なり合うことで、両立支援の取り組みの輪は確実に広がっていくでしょう。
私たち人事課のモットーは、従業員の皆さんを「お客さま」ととらえ、常に「+αの応対」の姿勢を忘れないことです。担当者たちもまた、一人の人間として生活と仕事の両立に悩み、試行錯誤してきた経験を持っています。だからこそ、相談に訪れる従業員が抱える不安やストレスを、決して「よくあること」として切り捨てるのではなく、自らの痛みとして共有し、心からの感謝を持って親身に寄り添うことを徹底しています。制度という縦糸に「理解」や「やさしさ」という横糸のエッセンスを通すことで誰もが真に輝ける組織になっていくと信じて、これからも私たちは、より一層ライフワークバランスの充実した職場環境づくりを追求してまいります。







