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体験談5:Sさん

温かい職場との良好な関係構築で不妊治療と仕事を両立

【プロフィール】
性別・年齢:女性・40代
勤務先の事業内容:建築業
従業員規模:30人
職務:販売事業部リーダー
家族構成:夫、長男(13歳)、双子の次男・三男(4歳)
居住地:東京都

1.不妊治療を始めるまでの経緯

 2008年、31歳で長男を授かり結婚しました。幸運にもいつの間にか妊娠していたという状況で、このときはいずれ自分が不妊治療をすることになるとは思ってもいませんでした。
 2人目が欲しいと思い始めたのは、長男が3歳になったころ。なかなか授からないなと感じていましたが、当時は職場で産休等の制度が整っていなかったこともあり、治療してまで子どもを持ちたいとは考えませんでした。その後も子どもは授からず、2014年、社内で産休・育休制度が導入されたのをきっかけに近所の婦人科を受診しました。タイミング療法を試みましたが、妊娠には至らず、婦人科で紹介された大学病院で卵管造影の検査を受けましたが、特に異常は見つかりませんでした。翌年、自宅から自転車で通える場所に不妊治療専門のクリニックがあることを知り、そこで本格的に不妊治療を始めました。

2.不妊治療の内容

 37歳から2年ほどかけて人工授精を3回、体外受精を3回行いました。
 治療のために通ったのは、院長が診療を行うアットホームなクリニック。不妊治療専門ということもあり、説明やケアが行き届いていました。院内では定期的に治療に関する説明会が開催され、冊子も配られさまざまな情報提供がありました。説明会では院長から治療のステップごとに内容やスケジュール、費用などを詳しく聞くことができ、安心して通院を決めることができました。
 通院して2~3か月ほど経った段階で、人工授精を行うことになりました。人工授精は排卵期に子宮に精子を送りこむ治療法で、生理周期にあわせてスケジュールが組まれ、排卵誘発剤の注射も1週間に1度受けに行く必要がありました人工授精の当日は朝病院に行った後、少し休んでから出社していました。
 こうして3回の人工授精を行いましたが妊娠には至らず、次のステップである体外受精のお話をいただきました。人工授精に比べて注射の頻度が増えること、採卵を行うので痛みが伴うこと、費用がかかることなど、不安に感じた要素も多くありましたが、38歳という年齢を考えると早めに行ったほうがよいというアドバイスに背中を押される形で、夫とも相談して体外受精に踏み切りました。
 体外受精は、排卵直前に手術をして採卵を行い、取り出した卵子を体外で精子と受精させ、その後受精卵を培養して子宮に戻す治療です。採卵に向けて排卵誘発剤を打つ期間は1週間ほど連続して通院しました。痛みを我慢しつつ採卵し、体外受精当日の朝夫が採精し病院に持参、受精を行い、受精卵を移植するというサイクルでした。私は採卵を2回、受精卵の胚移植を3回行い、2016年11月に3回目の胚移植で着床、妊娠に至りました。
 妊娠後は1週間に1回通院して経過観察を行い、妊娠が分かってから2か月後に不妊治療のクリニックを卒業し、自宅から徒歩5分の距離にある産院に転院しました。その後、妊娠後期には切迫早産となり2か月入院した時期もありましたが、無事に双子の男児を出産しました。

3.勤務先の支援体制、利用状況

 不妊治療と両立させるために使った職場の制度は、有給休暇のみです。フレックスタイム制度はありませんでしたが、時間単位の有給休暇を取得できたので、付与された有給休暇日数内で対応することができました。診察と施術のため、移動を含め1回につき4時間程度必要だったので、人工授精を行っていた期間は4時間の有給休暇を4回、体外受精を行っていた期間は5回、それ以外の検査や診察で2回ほど、時間単位の有給休暇を取得していました。自宅、職場、クリニックがいずれも自転車で通える範囲内にあったことにも助けられました。
 また、職場の人たちから治療に対する理解を得られたことも助かりました。建築の会社で、社員30名のうち女性は5名と少なく、産休・育休も制度化されたばかりであり、理解してもらえるかどうか不安でしたが、不妊治療を始めようと決めた段階で、思い切って治療について伝えてみた結果、通院のために休暇利用が増えることを了承いただきました。
 2017年5月から産休を取得し、2か月後の7月に出産。12月に保育園の申請を行い、0歳の双子を保育園に預けて2018年4月から職場復帰をしています。所定労働時間は9時~18時ですが、復帰後1年半の間は終業を16時に、その後9か月間は終業を17時とする短時間勤務を続け、フルタイム勤務に戻りました。
 また、公的制度については、東京都の「東京都特定不妊治療費助成」と、区の「特定不妊治療費助成事業」を利用しました。

4.協力者との関係

 社長の奥様と職場の先輩にとても助けていただきました。社長の奥様は監査役で、事務のトップとして動いていましたが、「Sさんはこの時間はいないから」と、きっぱり周囲に伝え、理解を得る手助けをしてくださいました。その後押しがあったので、不妊治療をしながら問題なく仕事が続けられたのだと思っています。
 また、他の女性社員も皆さん子育て経験者で、私の状況を理解してくれました。治療にあたっても「休んだらいいよ」と温かい言葉をいただきました。
 育休は1年間取ることができるのですが、1年を待たず早めに復職しました。息子たちを保育園に入れられたのも大きな理由ですが、不妊治療中、職場の皆さんが休暇や早退などに理解を示し融通をきかせてくれたことへの感謝の気持ちがあり「戻ってくるよね」と言ってくださった言葉に応えたかったからです。いただいた恩を返したいという思いでした。
 プライベートでは、夫がいちばんの協力者でした。私は不妊治療を始めたことをしばらく夫に話しておらず、人工授精で夫の協力が必要な段階になって初めて「子どもが欲しい。長男に兄弟を作ってあげたい。不妊治療をしたいからどうしてもあなたの力が必要」と、泣きながら訴えました。夫は私の訴えを受け入れて、その後の検査や採精に全面的に協力してくれました。産休に入った直後、切迫早産になり2か月間入院していたときは、小学生だった長男が学童から帰ってきたあとの世話や家じゅうの家事を、夫が引き受けてくれました。夫にはとても感謝しています。

5.両立の悩み

 不妊治療は終わりが見えず、常に不安を抱えながら仕事にも集中しなければならないことが最大の悩みです。子どもができないのはつらく、生理がくるたびに落ち込みました。人工授精は1回15~20万円、体外受精は35~40万と費用もかかりましたので、お金は日に日に減っていきました。注射や採卵も痛かったです。いつやめるのか、それともやめないのか、常に「どうしよう」と思っていました。自宅から病院、病院から職場、職場から病院と、いつも汗だくで自転車移動をしながら、何でこんなことをしているんだろう、と思ったこともしばしばです。
 職場で治療の経過をやんわり聞かれることもあり、その場では普通に返答しても、やはり気持ちは落ち込むのです。周囲にわからないように気持ちを整えて、笑って過ごすようにしていました。夫にはこうした気持ちを吐き出していましたが、いつもあっけらかんと聞いてくれたので助かりました。

6.両立のコツは

 仕事は仕事できちんとこなすことで、職場との良好な関係を構築すると同時に、つらい治療を乗り越えるためのメンタルを維持することが大切だと思います。不妊治療をしていた当時、私の主な業務はホームページの更新作業で、自分のペースで進めることができました。そこで、午前中に通院した日はなるべく早く戻るようにして、仕事に穴をあけないよう努めるなど、治療との両立で仕事に抜けが出ないよう注意しながらスケジュールを調整していました。
 また、通院させてもらえることをとてもありがたく感じていたので、私も仕事でできるだけのことはしようと思い、治療がつらくても気持ちを切り替え、仕事に向き合うようにしていました。
 そして、私の中では一貫して「長男に兄弟を作ってあげたい」という強い思いがありました。その思いがあったからつらい治療を乗り越え、仕事とも両立させる努力ができたと思っています。

7.不妊治療で学んだこと

 不妊治療当事者の複雑な気持ちと、命の大切さを学びました。
 1人目の子を苦労せず授かったこともあり、自分が不妊治療をするまで、子どもを「望んでもできない」ことがここまで辛いとは思っていませんでした。治療を経て、当事者の気持ちを身をもって実感しました。子どもは欲しいと思っても、お金で買えるものではありません。いくら頼んでも手に入らない授かりものです。治療に追いつめられ、他人の妊娠を素直に喜べない人や、子どもを見るだけで傷ついてしまう人もいます。治療自体も負担ですし、周りに気を使わせないよう人知れず泣いたり、明るく取り繕ったりするのも精神的に消耗します。
 私は幸いにも3回目の体外受精で妊娠しましたが、思い返せばそこが区切りだったのかもしれません。3回目は凍結受精卵を子宮に戻すだけだったので気持ちも体も余裕がありましたし、助成金も最後となりその後は完全に自費となるタイミングでした。双子を授かったことも奇跡ですし、幸運に恵まれたことへの感謝しかありません。
 やはり命は尊いです。「大切にしなければならない」と、改めて感じました。

8.不妊治療をする労働者へのアドバイス

 不妊治療と仕事を両立するためには、職場で日々の仕事をきちんとこなして、良好な関係を築いておくことが必要だと思います。そうすれば、日々の行動が信頼につながり、いざというときに周囲が協力してくれます。言いづらくても職場に治療のことを伝えて、何故休むのかを伝えておかないと、頻繁に休んだり抜けたりすることが信頼の失墜につながってしまうと思います。
 また、気持ちの浮き沈みは治療にも仕事にもよくありません。不妊治療は治療の結果に一喜一憂しがちですが、結果を受け入れてなるべく平常心を保ち、考えすぎず明るく過ごすことをお勧めします。職場でもプライベートでも、本人が明るくしていた方が周りも接しやすく、それがスムーズな両立を後押しすることにもつながるのではないでしょうか。

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