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体験談6:Sさん

2度の流産|不妊・不育症治療と仕事を両立し、3度目の妊娠でようやく出産へ至る

【プロフィール】
性別・年齢:女性・30代
勤務先の事業内容:金融業界
従業員規模:300人以上
職務:企画職
家族構成:非公表
居住地:非公表

1.不妊治療を始めるまでの経緯

 私は最初から不妊治療を意識していたわけではありません。結婚が決まるとともに自然妊娠が判明し、「すぐに妊娠ができた」と安心していました。しかし、妊娠5か月目直前に「稽留流産(胎児は死亡しているが、出血・腹痛などの症状がない流産)(1)」が判明。後期流産のため手術ではなく出産の必要があり、流産判明からわずか数日で分娩しました。さらに、法律上、産休を取る必要があったため、急遽2か月間会社を休むことに。同僚の中には妊娠自体を伝えていなかった人もいたので、心配をかけてしまったと思います。産休中は、出産の影響による身体的な負担と同時に家に一人でいることの不安感の増大によって、心身ともに不調が続きました。
 不妊治療を始めたのは、2度目の妊娠を考え始めたときです。30代半ばという年齢、加えて一度後期流産を経験したことから、不妊治療の病院へ通い始めました。妊娠はできましたが2度目の妊娠でも流産し、その後は不妊治療に加えて不育症治療にも通い始めています。(不育症とは、妊娠したものの流産、死産を2回以上繰り返す状態のこと(2))私の場合は、不妊治療よりも不育症治療の割合が多くなりました。

2.不妊治療の内容

 2度目の妊娠へ向けて、不妊治療だけでなく不育症の研究者もいる大学病院に通いました。不妊治療では妊娠確率の向上を目指し、ホルモン剤(錠剤)や注射で排卵を誘発しました。加えて、30代半ばという妊娠・出産の適齢期とはいえない年齢であることを考慮し、医師から提案された人工授精を行いました。幸運なことに1度目の人工授精で妊娠に成功しました。しかし、2度目の妊娠でも流産。1度目とは違って早期流産だったため、産休を取る必要はありませんでした。しかし、同僚には流産を打ち明けておらず、変わらず仕事を続けなければならなかったため、精神的につらい時期が続きました。
 3度目は「絶対に流産したくない」という強い気持ちがあり、妊娠の前に、不育症治療に対応した病院を探し始めます。いくつかの病院で検査や初回の問診を受けましたが、病院1つに数ヶ月のスパンを要したため、時間的にも金銭的にも負担がかかりました。
 不育症の病院を探しながら、不妊治療も行っていました。1度目の妊娠のときと同様にホルモン調整をしつつ、人工授精を行いました。すると、再び1度目の人工授精で妊娠に成功。ただ、「また流産するのでは?」という不安が大きかったため、事前に探していた不育症専門の病院の1つに通い始めます。私には、不育症に関して内科的な要因もあったので、内科や内分泌系の病院にもさらに通う必要がありました。病院の診察が続く生活は妊娠後期までずっと続くことに。3度目の妊娠では流産することなく、無事出産まで至りました。

3.勤務先の支援体制と制度等の利用状況

 私が利用したのはフレックスタイム制です。1度目の流産後の不妊治療時には、ホルモン剤の処方や注射などで仕事を抜ける必要があったのですが、当時利用していたフレックスタイム制には、コアタイムがありました。コアタイム以外の時間に病院の予約が取れたときは柔軟な働き方ができましたが、コアタイムにしか予約が取れない場合には、丸一日仕事を休む必要があったのです。
 コアタイムは途中で廃止され、スーパーフレックス制度になりました。加えて、1時間単位での休暇取得が可能になり、仕事と治療の両立がしやすくなりました。

4.協力者との関係

 私は直属の上司にだけは事情を全て話していました。2度目の流産の際、最初の流産のときよりも「なんで?どうして?」という思いが強く、精神的に参っていました。仕事も忙しかったので、休みづらい状況だったのです。このような状況で積極的に声掛けやサポートをしてくれたのが上司です。「会社を辞めたい」と相談をした時にも、「そういう(精神的に落ち込んでいる)状態で大きな決断をするべきじゃないから、とりあえず休みなさい」と優しい言葉をかけてもらいました。また、「今は妊娠出産がプライオリティ高いよね」と声をかけてもらい、私のライフプランである妊娠・出産へ理解を示してくれたのです。

5.両立の悩み

 (1)会社のコアタイム
 病院の予約がコアタイムの時間にしか取れないときは、会社を休む以外に選択肢がありませんでした。治療自体はすぐに終わるので、仕事をしようと思えばできる状態でした。しかし、当時は時間単位での休暇取得やリモートワークが整備されていなかったのです。そのため、「仕事のスケジュールがタイトになること」に悩まされていました。また、治療期間に有休が減ってしまうため「妊娠できた場合の体調不良に使える有休がなくなるのでは?」という不安も大きくなっていました。

(2)同僚との関係性
 仕事を頻繁に休むので同僚との関係性には悩みを抱えました。流産や不妊治療のことは周りには言いにくく、「なんであんなに仕事を抜けるの?」と思われていたはずです。仕事も忙しい時期だったので後ろめたい気持ちはなかなか取り払えませんでした。

(3)制御できないメンタル
 2度目の流産の時は、前回以上に精神的なダメージを受けました。仕事中に突然涙が出てくることもあり、自分では制御できない状態だったのです。結局耐え切れなくなり、2週間ほど急に仕事を休みました。休む本当の理由は同僚には言わずに、ただの体調不良ということにしてもらいました。

(4)スケジュール調整
 仕事と治療を両立する上では、時間のやりくりも大変です。毎週病院に行くのはよくあることで、1日おきに治療があることも多々ありました。というのも、私の場合、不妊治療だけではなく、妊娠後には産婦人科、不育症因子の治療のための内科、内分泌科、不育症治療と様々な病院に通う必要があったからです。

(5)キャリアと出産の間で葛藤
 出産は人生の一大イベントですが、キャリアアップとの間で葛藤がありました。不妊治療に通う時間がないとしたら、仕事に集中して取り組めます。ただ、私にとっては出産も人生において大事なことでした。今思うと、「仕事も出産も」という思いでいっぱいいっぱいになっていたのかもしれません。

6.両立のコツ

 時間的・金銭的だけでなく精神的にもつらい治療を乗り越えられたのは、仕事があったからでもあります。一人で家にいると悲観的になってしまうことがあり、ある程度精神的に落ち着いてからは、没頭できる仕事があったことで救われた面もあります。
 同僚への後ろめたさに関しては、「不在が多くても成果は出す」という心がけで何とか乗り越えました。また、仕事の調整や欠勤の説明に関しては上司に任せていました。任せられる部分は上司に引き取ってもらい、自分で抱え込みすぎないようにしていたのです。今でも上司には感謝しています。
 人と会うことさえ辛かった時期には会社を休むこともありましたが、「自分がいなくても意外と会社は回る」と吹っ切れた部分がありました。後ろめたい気持ちはもちろんありましたが、上司が理解してくれていることを拠り所に何とか頑張りました。

7.不妊治療で得たもの、学んだこと

 私が不妊治療・流産・不育症治療で学んだのは、「妊娠しても出産できるとは限らない」ということです。私は2度の流産を経験し、3度目の妊娠でようやく出産できました。妊娠から出産までは40週(280日)と言われており、その間に何があるかわからないということを、身をもって経験したのです。
 一般的に妊娠期間には安定期という心も体も休まる時期があります。しかし、2度の流産を経験した私にとって安定期というものはなく、「また流産するのではないか」という不安と戦い続けていました。そのため、出産した我が子のことを今でも「明日いなくなったらどうしよう」と不安に考えてしまうことがあります。平気そうに見えても、色々な不安や悩みを抱えながら働いている同僚がいるかもしれないと想像力を働かすようになりました。

8.不妊治療をする労働者へのアドバイス

 (1)あなただけの問題ではない
 仕事と治療を両立する上で、「仕事を抜けてはいけない」「休んではいけない」「迷惑をかけてはいけない」と当事者は思います。私もそう思いました。しかし、企業には様々な事情で誰かが抜ける可能性があるため、自分一人の問題だと抱え込む必要はありません。私の場合は、上司が状況を理解してくれて仕事の調整までしてもらえたので恵まれていたと思います。不妊治療の経験者の多くがそうであるように、治療中であることを周りに言いにくい点は私も同じでした。しかし、一人ではどうにもできない問題なので、部門内で調整できる環境が重要なのです。

(2)ゼロヒャクで考えなくていい
 また、「仕事を辞めるか、出産を諦めるか」という極端な思考に陥る必要はありません。私にも辞職を考えた時期がありましたが、今では「辞めなくてよかった」と思っています。治療をしていると「妊娠出産できるのだろうか」という不安はつきまといますが、将来の不確実なことに悩んで今のキャリアを諦めてもよいのかはよく考えてみてください。

(3)周りの理解を得る
 不妊治療・流産・不育症治療を周りに言いづらいと思う人は多くいます。なぜなら、不妊や不育について当事者以外が知る機会が少ないからです。また、「妊娠したら出産できる」という固定観念を持たれていることも多いですし、当事者側も後ろめたい・秘密にしたいと考えがちです。「妊娠自体も困難」「妊娠しても出産できるとは限らない」という認識が広がれば、不妊・不育症治療と仕事の両立に悩みが生じた際にも相談しやすい環境になると思います。同僚全員に打ち明けなくても、サポートしてくれそうな上司や同僚にだけでも伝えることは悪いことではないかもしれません。

(4)会社の制度を利用する
  最後に、さまざまな負担がかかる時期なので会社の制度は積極的に利用して欲しいです。会社の制度にも色々ありますが、時間的制度と働き方としての制度の2つは整備されている企業も多いのではないでしょうか。時間的制度とは有給休暇の分割取得(1時間単位での取得)やスーパーフレックス制度などです。働き方の制度は、リモートワークやハイブリッドワークなどです。働く時間と場所に融通がきくと、心身ともに良好な状態で治療と仕事の両立ができます。制度が「ある」だけではなく「必要な時に利用できる」環境があり、各個人が「幸せだ」と感じる働き方ができあれば、仕事のパフォーマンスも上がるはずです。

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