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体験談9:K.Hさん
周りに悩みをシェアすることで不妊治療と仕事の両立を達成する
【プロフィール】
性別・年齢:女性・30代
勤務先の事業内容:卸売業、小売業
従業員規模:約80人
職務:広報
家族構成:配偶者・子供1人
居住地:東京都
1.不妊治療のきっかけと、経験された不妊治療について
私は結婚当初、まず仕事に専念したいと考えて妊活は行いませんでした。その後、結婚から1年が経過した頃に妊活をスタートすることにしました。最初は自己タイミング法を試しましたが、なかなかうまくいかず、思うような結果が出ませんでした。市販の精子検査キットを使用してみたところ、あまり良い結果ではなく、さらに私自身も生理不順があったため、専門のクリニックを受診することを決めました。クリニックで初めての検査の結果、精子の数値が低いことから「顕微授精が最適」と言われましたが、再検査を受けたところ、精子の運動率などが改善されていることが分かり、医師と相談のうえ、まずは人工授精から治療を開始することにしました。
それで人工授精を3回試みましたが妊娠には至らず、次のステップとして体外受精に進みました。2回目の体外受精で無事に妊娠することができ、2021年12月に第一子を出産しました。その後も第二子を希望し、再び不妊治療を開始しました。体外受精を4回行った結果、妊娠に至り、2025年7月の出産を予定しています。
2.勤め先にはどのような特別休暇の利用や福利厚生がありますか。また、どのように活用されているでしょうか。
私の勤務先では不妊治療と仕事の両立を支援するため、さまざまな制度が整備されています。例えばその中には、「不妊治療通院補助の休暇制度(コウノトリ休暇)」という、不妊治療に際して必要な通院のための休暇に対した休暇制度があります。この制度では毎月1日特別有給休暇が付与され、通院しやすい環境を整えています。
また、妊活・妊娠・産後の生活を応援するため、「マタニティエール制度」を導入し、希望者に対して葉酸サプリメントを毎月1袋無償で提供しています。厚生労働省も妊娠前からの葉酸摂取を推奨していることから、社員の健康をサポートする目的で実施しています。
また、私の勤務先ならではかもしれませんが、社内にさまざまな専門家が在籍しています。特に妊活に関しては、「妊活マイスター」や「助産師」、「胚培養士」といった専門家がおり、勤務時間外なども含め、気軽に相談できる環境が整っています。不妊治療についての正しい知識を得たり、悩みを相談したりすることで、不安を軽減しながら治療を進めることができました。
勤務時間に関しても柔軟に調整できるシフト制度で仕事を行うことができています。出社時間を7時から12時の間で調整できるため、不妊治療の通院時にも活用が可能です。この制度により、診察時間に合わせてスケジュールを組むことができ、仕事と治療の両立がしやすくなっています。
3.ご家族や上司、同僚の方々がどのようにサポートしてくださったかについて、もしよろしければお聞かせいただけますか?
私が不妊治療を続ける中で、家族や職場の上司・同僚のサポートはとても大きな支えとなりました。治療により通院の回数が増えた際には、休暇制度やシフト制度を活用しながら仕事を続けました。また、急に通院しなくてはならなくなった時にも対応できるよう、上司や同僚には不妊治療を受けていることを伝えるようにしました。
第一回目の不妊治療では、投薬や通院などの物理的な負担がどうしても女性側に偏りがちになると感じてストレスが溜まることもありました。正直に話すと、夫と意見がぶつかることも何回かありましたが、その度に話し合いを重ね、お互いを尊重することを意識しました。治療の終盤では、助成金の申請のための事務仕事は夫が担当してくれるなど、役割分担をすることで負担を分け合い、定期的に治療の進捗を共有する時間を設けることができるようになりました。この経験を通じて、夫婦としてお互いに支え合うことの大切さを改めて実感しました。
第二回目の不妊治療では、選択したクリニックの方針で子どもを連れての通院ができないという制約がありました。そのため、私が通院の日には保育園の送り迎えは夫に全面的に任せなくてはなりませんでした。フルリモートで仕事をしている夫は多忙でしたが、積極的にサポートしてくれたおかげで、私は安心してクリニックに通うことができました。
私の勤務先は、従業員それぞれが広報・採用・SNS運営などの担当業務を持っているため、業務の調整や引き継ぎに困ることはほとんどありませんでした。また、会社全体として「子育て中だから」「妊活中だから」といった理由で社員を特別視しない文化が根付いており、子育て中の社員も多く在籍していました。そのため、仕事と不妊治療を両立する上で大きなストレスを感じることはありませんでした。とはいえ、当初は「不妊治療をしていることを上司に伝えるべきか」と悩み、通院のことを誰にも言えずにいました。もし不妊治療の話をしてしまうと、ほかの人に気を使わせてしまうかもしれない、仕事のスケジュールを調整させてしまうのではないか、などの心配があったからです。しかし、治療が進むにつれて通院回数が増え、さすがに理由を説明したほうがよいのではと考え、思い切って上司に伝えました。その際、上司は「いいね!ポジティブな話だね!」と明るく受け止めてくれ、気持ちがとても楽になりました。
不妊治療を公表するかどうかは個人の考え方次第ですが、周囲の反応や受け入れ方が、当事者の精神的負担を軽減するうえで重要であると感じました。私自身、家族や職場の理解に助けられたからこそ、仕事を続けながら治療を続けることができたと思います。
4.不妊治療と仕事の両立において、お悩みになったことはありますか。
不妊治療を続ける中で、治療が思うように進まない期間にも仕事と向き合わなければならない時には悩みました。治療期間自体が長引き、なかなか成果が出ないと、感情的に妊娠に対する焦りが募り、余裕を持てなくなることがありました。そうした状況では、家族に対して冷静に接することが難しくなったり、職場でも気持ちの余裕を持てなかったりして自己嫌悪に陥ることがありました。特に私の状況は、体外受精で毎回着床はするものの、その後の妊娠が継続しないケースが多く、期待と不安の間で気持ちが揺れ動き、仕事に集中できないこともたびたびありました。ある時はクリニックの先生に「着床していますが、可能性が低いので一週間後にまた通院してください」と言われ、その一週間は精神的にも大変だったことを覚えています。
理想を言えば、治療・仕事・家族との時間をそれぞれ切り分けて考え、適切にバランスを取ることがベストなのかもしれません。しかし、実際にはそう簡単に割り切れない場面も多くありました。そんなときこそ、「自分を責めないこと」「今の自分を受け入れること」が大切なのではないかと、いま振り返って思います。
5.不妊治療と仕事を両立させる上で、特に意識されたことや工夫されたことはありますか。
私の場合、社内に不妊治療について専門的に話せる方がいたことが大きな支えになりました。例えば、治療を経験している先輩や、不妊治療に関する知識を持つ専門家が社内にいたため、そうした方々に話を聞いてもらうことで気持ちが軽くなることがありました。不妊治療の進捗や治療内容について、同僚や上司に詳しく説明するのは難しい部分もありますが、「今の自分の状況を理解してくれる人がいる」という環境が、精神的な安心感につながっていたと思います。
また、不妊治療と仕事を両立する中で、限られた時間の中で効率よく動くことや、考え方を前向きにすることが大切だと感じました。私が実践していた、不妊治療中の心配事を乗り切るための工夫の一つは「合間時間を活用する」ということでした。不妊治療中は、仕事の合間にクリニックへ通院することも多く、スケジュール管理が重要でした。そのため、職場からクリニック、自宅への移動時間を有効活用するよう心がけました。例えば、移動中にスマホでメールチェックや簡単な業務をこなしたり、クリニックの待ち時間を仕事の資料整理やリサーチの時間に充てたりすることで、少しでも効率的に仕事を進めるようにしました。また、あらかじめ通院の日を決めておき、前後の業務を調整することで、仕事への影響を最小限に抑える工夫もしました。こうした時間の使い方を意識することで、治療と仕事を両立しやすくなったと感じています。
もう一つの工夫は「思考の持ちよう」です。不妊治療中にある先輩から、「もし不妊治療がうまくいって妊娠できた場合、その先には子育てと仕事の両立が待っているよ」と言われたことがありました。その言葉を聞いて、不妊治療と仕事の両立に悩む今の状況を乗り越えられれば、将来的に子育てと仕事を両立する力も自然と身につくのではないかとポジティブに考えられるようになりました。当初は、不妊治療と仕事の両立に対するプレッシャーばかりを感じていましたが、このように「今の経験が未来につながる」とポジティブに考えることで、気持ちが少し楽になりました。大変な時期こそ、自分の成長の機会と捉えることが、心の余裕につながるのかもしれないと感じます。
6.同じように不妊治療をしながらお仕事をされている方々に何かメッセージなどありますか。
私は不妊治療を続ける中で、ふとした瞬間に「私なんか」と自己嫌悪に陥ったり、「私だけ」と孤独を感じることがありました。治療が上手くなかったり・長引く度に、余裕がなくなりこうした気持ちが強くなっていったような気がします。
これは私の場合の話ですが、不妊治療に関連するニュースやデータを見たり、不妊治療経験をした先輩や家族に相談したり、SNSやWebで同じ境遇の人の経験談を見たり…と様々な情報に触れる中で少しずつ「私は一人じゃないんだ」と思えるようになりました。もちろん、それでも治療が上手くいかない度に落ち込んでいましたが…
誰かに悩みを相談するのが苦手な方もいると思いますし、自分の話を無理に打ち明ける必要はないと思います。 今はインターネットやSNSを通じて、同じ境遇の人が自身の経験や想いを発信していることもありますので、そうした情報を見つけたり、オンラインで相談できる場所を探しておくことが今悩んでいる苦しい方の気持ちを楽にしてくれればと思います。
不妊治療と仕事の両立は、いくら周りの理解があったとしても100%状況を理解してもらえるものではないと思いますし、どのような環境であってもきっと大変でつらいものだと思います。ご自身を追い込むことなく、様々な情報に触れながら「自分第一優先」でいることが、不妊治療と仕事の両立に向き合う上での支えになるかもしれません。