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企業におけるフェムテックを活用したPMSとの向き合い方について

コラム

企業におけるフェムテックを活用したPMSとの向き合い方について

山田奈央子(日本フェムテック協会 代表理事)
令和4年度執筆

1.フェムテックの概要

 フェムテック(Femtech)とは、女性が抱える健康課題をテクノロジーで解決する商品やサービスのことで、カバーする領域は多岐にわたります。

  • ・月経
  • ・PMS(月経前症候群:生理前の心身の不調)
  • ・妊娠・不妊・産後ケア
  • ・更年期
  • ・婦人科系疾患 など

 具体的には、月経周期管理アプリや吸水ショーツ、妊活アプリ、オンライン相談サービスなどがあります。「フェムテック」という言葉が新しいだけで、女性の健康課題を解決しようという考え方は以前からありました。
 まだガラケーが普及していた時代の2000年には月経管理ツールの提供がスタートし、その後も女性のヘルスケアサービスが数多く登場しました。フェムテックという言葉は、2013年リリースの月経管理アプリを開発したイダ・ティン氏により作られた造語です。Female(女性)とTechnology(テクノロジー)を組み合わせた言葉で、投資家たちの理解を得るために作られました。
 日本で話題になり始めたのは2020年で、この年は「フェムテック元年」と呼ばれています。2019年の末から新型コロナウイルスが感染拡大し、病院に中々行けない状況となり自分自身でヘルスケアをする必要が生じ、健康への関心が高まりました。また、「生理の貧困」という言葉が普及し、女性の健康課題への注目が集まったのです。中でも、「フェムテック振興議員連盟」が発足し、「フェムテックを産業として成長させよう」と政治家が立ち上がったことが大きな影響をもたらしました。このように、女性の月経やPMSなどつらいことをオープンにしようという機運が高まったことで、フェムテックという考え方や言葉が広がり始めたわけです。
  その後、2021年9月には大手アパレル製造小売業者が「吸水ショーツ(いわゆる生理用パンツ)」を販売開始し、さらに同年11月には流行語大賞に「フェムテック」がノミネートされました。また、大手流行情報誌の2022年ヒット予測には「フェムテックギア」が10位にランクインし、2022年4月には不妊治療の保険適用がスタートしました。加えて、SDGsが浸透し、ジェンダー平等を掲げて健康経営を推進する企業も年々増加するなど、女性の健康課題を解決しようとする社会の流れが強まり、ますますフェムテックが注目されているという現状です。

2.フェムテックが企業の活動の中で必要となるケースについて

 厚生労働省の「平成29年度 不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査研究事業」の調査結果報告書(1)によると、不妊治療と仕事を両立できずに仕事または不妊治療をあきらめたのは27%、両立できずに雇用形態を変えたのは8%で、合わせると3分の1以上になります。この状況は女性が働きやすい環境とはいえません。不妊治療に限らず、月経・PMS・更年期などの健康課題を解決するフェムテックは、企業で女性活躍推進をするには必要不可欠なのです。企業においてフェムテックが求められる代表的なケースは以下の5つです。

  • ・休暇制度
  • ・セミナーの開催
  • ・検診受診の促進
  • ・低用量ピルの普及支援
  • ・健康検定試験

それぞれ解説します。

(1)休暇制度

 「生理やPMS、更年期障害がつらいのに休めない」「妊活における急な診察が欠勤扱いになる」などと女性社員が感じている企業には一層、フェムテックが必要になってきます。なぜなら、体調不良時に休めないことが原因で休職・離職につながり、企業の損失になるからです。この解決策の代表が休暇制度です。
例えば、妊活をしている女性社員の場合、働きながら急な診察に対応する必要があります。妊活に理解のない企業であれば、女性社員は妊活のための休暇が取りづらく、結果仕事を諦めるという選択を取ってしまいます。または妊娠という個人の幸せを諦め、仕事を優先するという人もいます。つまり、月経・妊活・更年期障害などに関する休暇制度があれば、企業の人材面での損失やパフォーマンスの低下を最小限に抑えられるわけです。
株式会社サイバーエージェントには「エフ休」や「妊活休暇」など女性活躍推進を目的とした制度が整備されています。エフ休のエフはFemaleのFで、月経をはじめとした女性特有の体調不良時に月1回取得できる休暇のことです。月経に限らず、PMSでも取得できるため、社員が柔軟に使用できる点が魅力です。
また、更年期の働き方についても問題視されています。なぜなら、月経やPMSと異なり、期間が長く、症状の個人差が大きいからです。更年期障害なのか、うつ病なのか、他の病気なのかの診断が困難で、自分が更年期障害だと気が付かずに「ただの体調不良」と勘違いして働き続ける人もいます。さらに、症状が皆無の人もいれば、頭痛がひどい人、体がだるくて朝起き上がれない人など様々です。更年期は50歳前後なので、管理職や重要なポジションに就く女性の割合が多くなります。そのため、会社を休みづらいという悩みがあり、最悪の場合離職することもあるのです。もし福利厚生に更年期に関する休暇制度があり、企業全体に更年期への理解があれば、重要なポジションの女性の離職を防止できるというわけです。
他にも看護休暇・時短勤務・有給休暇の分割付与など、フェムテックとして企業が取り組むべき制度は数多くあります。
重要なのは、休暇制度を作ることではなく、休暇を取りやすい環境を整備することです。厚生労働省の「令和2年度雇用均等基本調査」(2)によると、生理休暇を実際に請求した女性の割合はたった0.9%です。つまり、休暇制度がある企業でも取得しづらい雰囲気があるということです。男性・同性・管理職の理解がなければ、休暇制度は形骸化してしまいます。休暇を取った人が損をする環境ではいけません。初歩的な対策としては、共有スケジュールに「生理休暇」と表示せずに一律で「有給休暇」と表示するなどがあります。企業全体に浸透させるには、後述のセミナーや健康検定試験の実施などで女性特有の健康課題への理解を深める活動を同時に進めることが重要です。

(2)セミナーの開催

 外部講師や専門医師によるセミナーを開催することで、ヘルスリテラシーを向上させたり、女性特有の問題に対する男性や管理職の理解を深められたりします。
後半で詳しく解説していますが、ヘルスリテラシーが高い人の方が仕事のパフォーマンスが高いという結果が出ています(3)。ヘルスリテラシーの高い人は、生理痛やPMSを抑える低用量ピルの存在を知っているため、休む以外の選択肢を持つことができ、仕事のパフォーマンスの低下を防げるというわけです。
また、セミナーの開催は、女性が休暇を取りやすくなる環境の形成にも効果をもたらします。会社全体で休暇のメリットを理解できれば、「休む=悪」という固定概念を取り払えるからです。短期的に見れば、休暇は労働力の減少や、それによる他社員の負担の増加と捉えられがちです。しかし、セミナー開催により、休職や離職の防止、満足度の向上につながることへの理解を社内全体で深めてもらうことで、長期的に大きな効果がもたらされるのです。

(3)検診受診の促進

 検診の促進では、機会の提供と金銭的支援の2つが重要です。例えば更年期障害の場合、更年期障害だと気が付かずに心身の不調を感じる人がいます。企業が検診の受診機会を提供していれば、更年期障害に気が付いて適切な処置を受けられる可能性が高まります。結果として、企業の人材的な損失を防げるというわけです。さらに、検診の費用を部分的に、または全額負担することで検診の受診確率を高められます。
また、自社の産業医ではない医師に相談できる環境を整備することも重要です。女性社員の中には「上司に知られたくない」という気持ちが強く、自社の産業医に自分の症状を相談しない人がいます。産業医から上司に報告がいくのを避けるためです。これでは産業医を設置している意味がありません。こうした場合の対策として、オンラインで別の医師にも相談できる環境を作ることが求められます。

(4)低用量ピルの普及支援

 低用量ピルは生理痛やPMSの緩和に効果があるだけでなく、月経周期をコントロールできるようになります。例えば、出張で大事な商談がある日や重要なプレゼンの日などに月経が重ならないようにできるのです。また、PMSの症状も和らげられるため、仕事のパフォーマンス向上も期待できます。
しかし、ピルには副作用もあるため、服用に慎重な人も多くいるのが現状です。そのため、男性にも女性にも、低用量ピルのメリットを伝える場を企業が用意することも有効な手段といえます。
企業が率先して低用量ピルの服用支援制度を整備し、低容量ピルの効果を周知させることが、結果として会社の利益につながる場合もあるのです。

(5)健康検定試験

 

 健康検定試験を実施することで、女性特有の健康課題に対する管理職や男性社員の理解を深めることができます。これにより、女性社員が抱く「言い出しにくい」「休みを取りづらい」という障壁を取り払えるのです。実際、ヤフー株式会社では全執行役員が「女性の健康検定」に合格することを目指しています。忘れてはいけないのは、休暇が取りやすいと思える雰囲気を形成することなのです。

3.フェムテックを取り入れることの意義や効果等、ポジティブな側面について

 フェムテック活用により、女性従業員などの個人にとっては、高いパフォーマンスで仕事を続けられることで、将来的に昇格や昇給などの評価につながります。加えて、チームや企業にとっては優秀な人材の確保や生産性向上が売上アップにつながります。その理由について、日本医療政策機構の「働く女性の健康増進調査 2018」(3)のデータを基にさらに詳しく解説します。
 まず、元気な時と比べてPMS・月経時は仕事のパフォーマンスが半分以下になる人が約半数の45%もいます。更年期でも46%と同等の割合です。また、ヘルスリテラシーが高い人の方が仕事のパフォーマンスが高く、さらにPMS・月経・更年期で仕事のパフォーマンスが下がる割合が低いという結果が出ています。その仕事のパフォーマンスの高さと最も関係するヘルスリテラシーの項目が「女性の体に関する知識」でした。
 つまり、フェムテックの活用により「女性の体に関する知識」を身に付け、ヘルスリテラシーを高められれば、仕事のパフォーマンスが向上し、個人にとっても企業にとっても好影響があるということです。自分自身で月経・PMS・更年期に対処できるようになれば、限られた時間の中で成果を出せるのです。
 さらに、ヘルスリテラシーが高い人の方が職務満足度・生活満足度・QOL(生活の質)が高いというデータもあります。単なる休暇制度にとどまることなく、全社員のヘルスリテラシーを高めることが企業の健康経営に求められているというわけです。
  また、定期的に婦人科・産婦人科を受診するようになったきっかけの1位は、「企業の健康診断時に勧められた」で約22%と最も多い割合です。月経やPMSの症状を「病気ではない」と判断する女性が多く、病院で受診するところまで行動する人は多くありません。つまり、企業が健康診断の機会を提供するだけでも女性の健康課題の解決の助けになるということです。

4.まとめ

 フェムテック元年の2020年からの2年間で急速に「フェムテック」が普及しています。今後は、ますます女性活躍推進の社会機運が醸成され、フェムテックの重要性を認識する企業が増加することが予想されます。そのため、フェムテックを活用しない企業には損失が出るおそれがあるだけでなく、採用面でも苦戦を強いられることでしょう。
 フェムテックを取り入れて女性の健康課題を解決しようとする企業は、社員のパフォーマンスを最大限に引き出せるため、結果として社員と企業のWin-Winの関係を構築できます。重要なのは会社の利益のためにフェムテックを活用するのではなく、女性の健康課題の解決により、働きやすい職場環境を整備することを第一の目的とすることです。

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