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がん治療と仕事の両立に対する取組

コラム

がん治療と仕事の両立に対する取組

NPO法人がん患者支援機構 理事長 浜中 和子
令和元年度取材

 厚生労働省の統計によれば、日本では年間100万人が新たにがんに罹患し、37万人ががんで死亡しています。生涯でがんにり患する確率は男性62%、女性47%と報告されています。また、働き盛りの年齢層にがんの発生数も増えています。
 一方でがんの5年生存率は年々増加しており、2019年12月の国立がん研究センターの発表によれば、全がんで66.4%、前立腺がんでは98.8%、乳がんでは92.2%と高率を示しています。つまり、がんイコール死ではありません。がんと診断されたとき、ショックや未来への不安や絶望感から仕事を辞めたりしがちですが、決してそんなことをする必要はありません。がんになっても、がんと共に生き、がんの治療をしながら仕事を続けていくべきだと思います。
 私自身も42歳という働き盛りの時に乳がんの体験をしました。当時は病院に勤務していたため有給休暇をとり、入院し手術を終えました。がんと宣告され、死をすぐそばに自覚した時、生きている有難さを実感し、術後体力が回復した時には仕事ができるという有難さも再認識し、すぐに病院に帰って仕事を再開しました。今思えばまさに仕事が私を生かしてくれたと思えます。
 現在、がん患者の就労支援については、社会的にも体制が整備されつつあります。がん治療と仕事の両立を支援する取組には以下のようなものがあります。

  1. がんに関する情報提供
  2. がん患者会の取組
  3. がん拠点病院の相談支援センターの取組
    ・ピアサポート活動  ・拠点病院へのハローワーク設置 ・参考資料の紹介
  4. 各企業の取組

例)広島県の取組:チームがん対策ひろしま

1.がんに関する情報提供

 がんになったときにはほとんどの方がいろいろと情報を集めようとしてネットで検索されると思います。しかしネット上には正しい情報からとんでもない情報まで様々な情報があふれていて、思いがけない方向へ行ってしまう患者さんもおられます。是非正しい情報を得てほしいと願っています。
 国立がん研究センターのがん情報センターのHPには、がんが疑われている方やがんと診断を受けた方、そのご家族などへ向けた「がんの冊子」を提供しています。各種がんシリーズ、がんと療養シリーズ、社会とがんシリーズ、がんを知るシリーズがあり、さらにがんと仕事シリーズとして、がんと就労に関する冊子「がんと仕事のQ&A」があります。(https://ganjoho.jp/public/support/work/index.html)
その中には「診断から復職まで」「復職後の働き方」「新しい職場への応募」「お金と健康保険」「家事や子育て」等あらゆる問題のQ&Aが掲載されています。是非その内容をご覧ください。
 またこれらの冊子は全国のがん診療連携拠点病院などのがん相談支援センターでも入手可能ですので、問い合わせをされてみてはいかがでしょうか。さらに「がんになっても安心して働ける職場づくり」ガイドブック(大企業編・中小企業編)も作成されています。
 がんになったときに先ず職場の上司に相談すると思いますが、企業によっては人事部や総務部に相談窓口が設置されているところもあります。各症例で治療期間・休職期間も様々なので、医師とも相談し、治療と仕事の両立へ向けて十分な検討が必要になるでしょう。
職場での相談が十分得られない場合は、都道府県労働局の労働相談コーナーの相談窓口でも相談することができるそうです。

2.がん患者会の取組

 がんになった時、具体的にどのように対応したら良いか分からない方は、近くのがん患者会やがん患者支援団体等を訪れてみましょう。あるいはネット上のつながりを持つ患者会もあります。公益財団法人日本対がん協会のサバイバークラブ(https://www.gsclub.jp/)には全国のがん患者団体やがん患者支援団体が登録(令和2年1月末現在396件)されていますので、自分と同じがんの団体や、近くの地域で活動している団体等を検索することができます。
 がん患者会にはがんの先輩の方や体験者の方が沢山いますので、生活、仕事、育児・家庭に関することなどさまざまなヒントが得られると思います。がんになって、社会への疎外感や孤立感を抱く方もおられますが、辛いのは自分だけではないと知ること、決して一人ではないことを知ることが先ず大事です。実際にがんになっても仕事を続けている多くの先輩の話を聴くことで勇気づけられ、自分も仕事を続けることができると思えるでしょう。

3.がん診療連携拠点病院の相談支援センターの取組

 現在、各都道府県のがん診療連携拠点病院には、相談支援センターの設置が義務づけられています。医療上の問題点だけでなく、生活上の問題点など様々な相談支援が行われていますので、どうぞ遠慮なく、相談に訪れてみてください。拠点病院に就職相談のため社会保険労務士が配備されていたり、ハローワークが設置されているところもあります。
 また、拠点病院のほとんどに、がんサロンといってがん患者が集まり共に話し合い支え合う場も設置されています。なお、がんサロンは病院外に設置されているものもあります。是非参加されてみてはいかがでしょうか。
 さらに、先輩のがん体験者(ピアサポーター)が、新しいがん患者に対して、相談及び支援を行うピアサポート活動も行われています。東京都では都立駒込病院、武蔵野赤十字病院でピアサポート相談事業を行っており、NPO法人がん患者団体支援機構のピアサポーター養成講座を受講し研修を受けたピアサポーターが、電話と面談で相談に応じています。がん体験者の実体験に基づいたアドバイスや情報提供が、がん患者の就労における問題の解決にも役立つと思われます。

4.各企業の取組

 さて、がん患者・がん体験者がいくら仕事を続けたいと思っていても、受け入れる企業にその体制ができていなければ、それは不可能です。ここで企業のがん対策に取り組む体制を支援している広島県の「チームがん対策ひろしま」※1を紹介します。

※1「Team(チーム)がん対策ひろしま」とは・・・
「地域の皆様と社員の“いのち”を守る企業」として,社員の方のがん検診の受診率向上や就労支援,地域の皆様へのがん検診啓発やがん患者団体支援などのがん対策に,目標をもって,積極的に取り組んでいただく企業の方々にご登録いただき広島県とともにがん対策に取り組む広島県発のチームです!(広島県のHPより)

 令和元年7月26日現在、登録企業は計100社です。登録企業はがん対策として様々な取組をしており、登録企業のうち優れた取組をしている企業を優秀企業として毎年表彰しています。
 優秀企業の取組の抜粋を表1に示しています。主として1)相談支援、2)勤務体制、3)経済的支援、4)がん研修 の各分野で様々な対応が実施されています。
 治療の状況に応じて、時短勤務、時差出勤、在宅勤務制度があるのはがん患者が職場復帰する際に大変有効です。療養休暇が最長4年、さらに介護休業も2年まで認められている企業もあります。また、がんになって休業するとやはり経済的に苦しい状況になる場合が多いですが、「ガン治療費補助・見舞金制度規定」を整備している企業や、治療に重点を置いたがん保険に会社として加入している企業があるのは本当にありがたいことだと思います。さらに、がん体験者の話を聴く勉強会を開催している企業もあります。がん経験者である社員から、働きながら治療を行う気持ちや、助かった点・苦しかった点を教えてもらうことで、理解を深めるための取組です。実際にがん治療と仕事を両立している社員がいるということも周知でき、がんになっても安心して働ける職場だという社員からの信頼を生むと推測されます。
 こうした取組が大企業だけではなく、中小企業にも広く浸透していくにはまだまだ時間がかかるかもしれません。また、企業のみの対応では難しい面もあるかもしれません。しかし、働くがん患者の増加が推測される中、がん治療と仕事の両立支援は必然的になってくるでしょう。
 がん患者自身もがんを正しく理解し、周囲もがんに対する偏見をなくすとともに、がんになっても仕事が続けられる体制整備に向けて、社会全体で取り組んでいく必要があります。

表1.チームがん対策ひろしまの優良企業の取組(抜粋)

1)相談支援

  • 健康相談会実施(本人・管理職・人事担当者・産業医等の各部署メンバーが集合し疾病と就労の両立支援プランを作成)
  • 「治療と就労に関する相談窓口」を設置: 保健師、産業医を配置

2)勤務体制

  • 通院のために時短勤務、時差出勤、在宅勤務制度の活用
  • 「積立有給休暇制度」
  • 療養アフタケア休暇・ファミリーサポート休暇(家族を看護する社員が取得可能)
  • 療養休暇(最長4年) 介護休暇(最長2年)

3)経済的支援

  • 「がん治療費補助・見舞金制度規定」を整備
  • 治療に重点を置いたがん保険に会社として加入

4)がん研修

  • 「がんと就労支援」について研修を実施
  • がん経験者の社員から学ぶ勉強

出典:広島県「チームがん対策」のホームページより作成 https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/gan-net/team-gantaisaku-07.html

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