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睡眠改善で実現する、健康経営とメンタルヘルス

コラム

睡眠改善で実現する、健康経営とメンタルヘルス

ビオスピクシス株式会社 代表取締役 仙波 修

はじめに

「なかなか寝付けない」「眠っている間に何度も起きてしまう」「グッスリ眠れない」「もっと眠っていたいのに早朝目覚めてしまう」「起きた瞬間、すでに疲れている」「日中猛烈な眠気に襲われる」……など。睡眠不調といっても症状はさまざまで、またその原因も千差万別。
不規則な生活、運動不足、飲酒や喫煙、勤務形態、ストレス、疾病や薬物など、人によってみんな違います。眠りは日々の行動や出来事から複合的・多層的に影響を受け、そして身体・心・脳に多種多様な影響を及ぼすのです。

社会環境と眠り

人々をとりまく社会環境や生活習慣は21世紀になって大きく変化しました。
24時間ネットワーク社会は、睡眠環境や睡眠習慣を悪化させ、睡眠時間の減少や睡眠品質の低下をまねき、睡眠負債は今や社会問題化。現代型不眠、睡眠時無呼吸症候群、交代制勤務障害、睡眠リズム障害など、老若男女がこれまでになかった睡眠不調に悩まされています。

一方、ここ数年で睡眠計や睡眠アプリが多数開発・商品化され、個人の客観的な睡眠データは比較的容易に記録・分析できるようになってきました。腕時計タイプのウェアラブル・デバイスも含め、計測精度や分析内容は各社バラつきがあるものの、日々の自分の眠りを主観的な評価と比較しながら記録していけば、睡眠改善の大きなヒントが得られることでしょう。

睡眠薬は対症療法であり、依存性も高く、不眠症の根治にはなかなかつながりません。日々の生活習慣や睡眠環境を改善することで、よりよい眠りが得られれば、病気になりにくい心と身体になります。睡眠の改善は、ストレス耐性の向上、認知症の予防、健康寿命の延伸、延いては医療費や介護費の軽減にも大きく寄与します。

労働環境の、眠りへの影響

深夜の高速道路を疾走する長距離トラックのドライバー、24時間営業のコンビニや飲食店で働く夜勤労働者、警察・消防・病院・介護施設をはじめ、昼夜の区別なく業務をこなす社会インフラ従事者。本来夜行性ではない人間のDNAに逆らった生活を強いられる彼らの眠りは過酷で、睡眠習慣の乱れは心身に大きな負荷を与え続けます。
1日中座ったままでデスクに向かい、パソコンの操作をし続けるオフィスワーカーも、活動量の低下や液晶画面からのブルーライトの影響で、睡眠が劣化します。

1日24時間から、仕事と日常生活と娯楽との時間を引いていき、最後に余った時間が睡眠に充てられる。そんな生活が日本人労働者の大半を占める中で、今一度睡眠の重要性を見直し、体と心と頭の栄養になる「眠り」をしっかり確保する必要があるのではないでしょうか。

仕事とストレスと眠り

近年、働き方改革が叫ばれ、健康経営がブームとなり、ストレスチェックが法令義務付け化されました。労働時間や勤務形態の見直し、労働環境の整備、メンタルヘルス対策の導入といった動きが、大企業を中心にようやく出はじめたところでしょうか。

厚生労働省が「新睡眠指針」7箇条を公表したのが2014年。ここでは、眠りが心に与える影響が色濃く打ち出されています。そしてその2年後、経済産業省が発表した「健康経営ガイドブック」では、睡眠による休養が取れている従業員群とそうでない群では、企業・組織に与える経済的な影響が大きく異なることが明らかになりました。

グラフ

kenkokeiei-guidebook2804.pdf (meti.go.jp)

2016年に経済産業省から発行された『健康経営ガイドブック』では、健康起因による欠勤を「アブセンティーイズム」、業務パフォーマンスの低下を「プレゼンティーイズム」という指標を用いて数値化しています。さまざまな生活習慣の中で、「睡眠による休養」に課題がある従業員が会社に与える損失リスクは、運動不足や飲酒・喫煙など、他の因子に比較して大きく、プレゼンティーイズムについては、1人当たり年間33万円近い損失があると算出されています。

睡眠が改善されると、「血圧」「血中脂質」「肥満」「血糖値」などの身体指標は改善されます。さらに「主観的健康観」「生活満足度」「仕事満足度」「ストレス耐性」も向上するため、「睡眠による休養」についてのリスク有無による差分金額は、より大きくなると考えられます。睡眠改善から始める健康経営は、理に適った指針と言えるでしょう。

睡眠改善によるメンタルヘルス対策

従業員50人以上の職場では、「ストレスチェック」が法令義務付け化されました(2016年施行)。メンタルダウンする社員が後を絶たない日本において、メンタルヘルス対策は喫緊の課題です。

しかし高ストレスと判明した従業員への介入は産業医に限定されており、企業側から積極的にメンタルヘルス施策を講じる道は細いままです。それ以前に、ストレスチェックの結果を会社側に開示したくない従業員も全体の7割近くに及んでおり、調べたはいいが詳細を把握できないという状況は、どこかチグハグな感じが否めません。

我々の研究成果から、「ストレスチェック」と「睡眠満足度」の結果には、大きな相関性があることが確認されました。あまりよく眠れない人はストレスが多く、快眠社員は「ストレスチェック」の結果も良好です。

不眠はうつ病の初期マーカーとも言われており、睡眠改善を起点としたメンタルヘルス対策は、今後、健康経営を掲げる企業・組織にとって、重要なソリューションとなるでしょう。

業種や職種で異なる睡眠課題

合計10の質問と個人のプロフィール(身長・体重・年齢・職種など)を記入してもらう、当社ビオスピクシス株式会社の「睡眠アンケート」。わずか5分で回答できる睡眠主観評価は、それだけでも大きな示唆と課題を私たちに突きつけます。

毎日10時〜18時の定時勤務であれば、就寝・起床時刻はおおむね一定で、睡眠習慣は整えやすく、過度な残業がなければ睡眠時間の確保も容易です。しかし、交代制勤務や夜勤が多く、昼夜逆転してしまうような生活を強いられる職場では、睡眠満足度は低く、睡眠時間も短くなります。家族と過ごす時間をつくるために、睡眠時間を削るようなケースも散見されます。

パート・アルバイト従業員比率が高い24時間営業のコンビニや外食産業では、店長などマネージャークラスの睡眠がシフトの狭間や欠員の穴埋めで奪われ、業務上のストレスと合わせて負のスパイラルに陥ることも少なくありません。

組織や職場単位、階層別などにセグメントして眠りを分析することは、働き方改革やメンタルヘルス対策の有用なデータになるのです。

それでは「睡眠アンケート」を導入した企業の睡眠状態を、「睡眠分析MAP」で比較して見ていきましょう。

※『睡眠分析MAP』: 横軸に量=睡眠時間、縦軸に質=睡眠満足度を設定して「睡眠アンケート」の結果を組織内で包括的に把握できる。6時間以上の睡眠時間を確保し睡眠満足度も高い「睡眠良好型」、6時間未満の眠りが慢性化し睡眠満足度も低い「睡眠不足型」、6時間未満の睡眠時間でも満足度が高い「タフ型」、7時間以上眠っても満足感が得られない「ストレス型」と、4つの象限でタイプ分類。規則正しい:青、時々乱れる:緑、毎日バラバラ:赤/自然に目覚める:○、目覚まし時計が必要:●、どちらとも言えない:△。など、色や形で睡眠習慣や起床時の状況も可視化。(睡眠計や睡眠アプリなどで客観的に睡眠状態を数値化できる場合は、縦軸は睡眠スコアや睡眠点数などに置き換わる)

<事例1>

「午前4時に業務終了」交代制勤務従事者 ~印刷業ブルーカラー〜
●体内時計のズレが睡眠不調を助長する

グラフ2

印刷会社C社は、新聞朝刊の印刷を主業務としており、午前4時に業務が終了します。その後帰宅する社員と、仮眠室で翌日の日勤に備える社員が各半数ずつ。「睡眠分析MAP」上では、「ぐっすり眠れる/大変満足」との回答者が51人中0名と、予想以上に厳しい結果となりました。

全体の70%が毎日バラバラな時間に就寝・起床しており(赤いドット)、睡眠習慣の乱れによる睡眠不調の影響がはっきりと見てとれます。職場の仮眠室はすべて個室で衛生面も整っており、会社のサポート体制はほぼ万全ですが、それでも分析結果は一般企業の平均を大きく下回り、根本的な改善が必要な状況でした。

当社からは、C社全社員へ向けた睡眠改善セミナーを実施。夜間に長時間睡眠が確保できず、不規則な睡眠習慣になりがちの交代制勤務者の状況に合わせて、アンカースリープの導入を基軸とした快眠アドバイスを行ないました。

「アンカースリープ」=毎日決まった時間帯に、最低2時間以上(できれば3時間)就寝時間を確保すること。そしてその「アンカースリープ」前後の時間帯を「スリープゾーン」として設定し、睡眠時間帯のズレを最小限に抑えていくのです。

交代制勤務の場合は、寝ようと思えば眠れる時間帯が結構あるので、逆に「この時間帯は眠らないで」というガイドを設け、毎日の起床時刻の差を2時間以内に収めるよう指導。これにより、体内時計を安定させるとともに、業務終了後の過ごし方、光の活用、昼寝のタイミング、運動のすすめ、など日々の生活習慣改善で可能な施策を提示しました。

<事例2>

「不規則就業」観光バス運転士 ~運輸業界プロドライバー〜
●ほぼ毎日バラバラな睡眠習慣。それでもガッツリ眠るプロの意地

早朝現場に配車し、乗客を観光地まで運ぶ。観光中にバス車内で仮眠をとり、乗客が戻ったら次の目的地までまた運転。事故渋滞や乗客の遅刻など不測の事態も多く、予定どおりの運行のために自己犠牲を強いられることも少なくありません。

日々こうした運転業務をくりかえす観光バス運転士の睡眠は過酷です。毎日決まった時間帯に就寝・起床することは不可能で、乗客を乗せた状態で睡眠起因事故を起こせば大惨事となる可能性は高く、その責任は重いのです。

以前、大手旅行代理店主催のバス会社安全講習会で、首都圏25社、100名を超える観光バス運転士の研修を担当しました。グループワークで各自の睡眠状態を模造紙上の「睡眠分析MAP」につくろうと、赤・青・緑、3色のシールを貼ってもらっているときのことでした。「先生、赤いシールが足りません」と各グループから一斉に声が上がりました。赤いシール=毎日バラバラな時間帯に就寝・起床しているドライバーばかりだったのです。

そのときのグループごとの睡眠分析MAPの結果をひとつにまとめたので、ご覧いただきましょう。

グラフ3

毎日バラバラな時間帯に寝起きしていると答えたバスドライバーは、約75%におよびました。当初バス会社の経営陣は、「深夜業務が多いトラックドライバーとは違い、観光バス運転士はそれほどバラバラな睡眠習慣ではない」との見解を示していましたが、調べてみたら大違い。現場の実態と経営陣の認識とのギャップも今後の大きな課題ですが、そのような状況下、今後注力すべきは6時間未満の睡眠でもガッツリ眠れる、「タフ型」ドライバーの育成でしょう。

限られた睡眠時間&労働環境の中、不規則な睡眠習慣でもしっかり眠れる。
「この業界で働いていくうちに、そういう身体になりました」と話すドライバーもいました。

まとめ

ご覧いただいたように、今回は、睡眠アンケートによる「主観データ」をもとに、企業の睡眠状況を睡眠分析MAPで見える化し、職場における眠りの傾向や睡眠課題の違いについてご説明しました。

職場単位で睡眠改善が進むと、健康経営に寄与するだけでなく、業務パフォーマンスも向上し、メンタルヘルス対策としても大きな効果が期待できるでしょう。

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