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改正育児・介護休業法で、障害のある子・医療的ケアの必要な子のケアと仕事の両立が前進

コラム

改正育児・介護休業法で、障害のある子・医療的ケアの必要な子のケアと仕事の両立が前進

佛教大学社会福祉学部 田中 智子

障害のある子・医療的ケアの必要な子をケアする親に立ちはだかる18歳の壁

2025年4月1日と10月1日に、改正育児・介護休業法が施行されました。本改正は、障害のある子や医療的ケアを必要とする子のケアを担ってきた親たちに、長年立ちはだかってきた「18歳の壁」問題の解決に向けての大きな一歩となりました。「18歳の壁」問題とは、学齢期を対象とした放課後等デイサービスが利用できなくなる18歳頃に親の就労継続が困難になることを指します。2012年の児童福祉法の改正を機に始まった放課後等デイサービスを利用しながら、何とか就労とケアを両立してきた親たちの子が成人期に入り、就労の継続が困難になり問題が表面化しました。

子どもが18歳で親の就労が難しくなるということは、それまで積み重ねた親たちのキャリアが途絶えるというだけではなく、親の収入が途絶えることで、家計が行き詰まったり、きょうだいの教育費、老親の介護費用の捻出が困難になったり、他にも家族の生活を制限することへとつながります。さらには、親たちの稼働期の収入が低いということは、将来的な親の年金の低さへとつながり、障害のある子どもの所得に依存することになり、子どもの離家を難しくする、いわゆる「老障介護」と呼ばれる問題の背景の一部にはこの問題が横たわっています。

育児休業および介護休業の改正内容

まず育児休業の方で、企業に労働者に対して両立に関する事情等の個別の意向確認と配慮することが義務づけられたことが重要だと思われます。障害や医療的ケアの必要な子どもをケアしている、ひとり親で子育てしている、不登校の状態にあるなどの個別の事情の聞き取りをして、制度上の子どもの年齢の上限を超えて適用するように指針で示されています(【図1】が、企業の個別の意向聴取にかかる書類例)。また、子どもが3歳になる前などの法律上決められたタイミング以外でも、「働き手から申し出があった際」に、個別の意向聴取と配慮を行うことが望ましいと定められていることで、一般の子育てのようにある時期になったら子育てがひと段落するということが難しい障害のある子や医療的ケアの必要な子のケアと仕事の両立の可能性が広がったと言えます。

4月1日施行の部分については、それまでは、高齢者の介護を想定とした項目や表現が中心であった介護休業取得の際の「常時介護を必要とする状態にかかる判断基準」に障害のある子や医療的ケアの必要な子の養育を想定した内容が加わり、【表1】のように変更されました。例えば、それまでは「⑧外出すると戻れない」と記されていた項目に「危険回避ができないことがある」が加わり、さらに注の中で、「発達障害等を含む精神障害、知的障害などにより危険の認識に欠けることがある障害児・者が、自発的に危険を回避することができず、見守り等を要する状態」と明記されました。

また、厚生労働省の研究会報告書に「これらの判断基準は最低基準であり、各事業主における独自の取組として、労働者にとってより緩やかな内容の制度とすることは望ましいことについても併せて周知を行うべき」という文言が書かれたことも特筆すべき点だと思います。障害のある子や医療的ケアの必要な子は、疾患名が同じであっても状態やそれに伴う必要な配慮や支援は多様です。それゆえ、統一した基準で対応することは難しいという前提で議論が進められたことは重要な点だと思います。このことで、例えば、本基準をもとに、現在、約35万人いると言われている不登校児童への対応も場合によっては可能となります。

【図1 企業の個別の意向聴取にかかる書類の記載例】

図1

(出典)厚生労働省「育児・介護休業等に関する規定の規定例」より「妊娠・出産等申し出時個別周知・意向記載書記載例(好事例)」より
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/000103533.html

【表1 常時介護を必要とする状態に関する判断基準】

表1

表2

(出典)2025年1月「介護休業制度等における『常時介護を必要とする状態に関する判断基準』の見直しに関する研究会報告書」
https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/001387433.pdf

今後への期待と課題

今後への期待として、まずは今回の法改正によって、障害のある子をケアしている当事者がこれまでは就労継続を諦めて人知れず離職していたのが、自分も声をあげて良いんだということに気づき、声をあげやすくなること、企業側にとってもそういう社員がいるという前提に立っていろんな対応を考えていけるということが大きな前進と思います。厚生労働省の研究会によるヒアリングを受けた「一般社団法人 障がい児及び医療的ケア児を育てる親の会」が働く会員を対象に介護休業制度の利用に関する調査を行った結果、13%の方が(高齢者向けの制度と言われるなど)利用したいけどできなかったという声が寄せられました(https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/001364932.pdf)が、そういう現状の改善につながります。これまでは、聞き取られなかったような「声なき声」の可視化が進んでいくことが期待できます。すでに法改正に先駆けていくつもの企業で、どうしたらそのような声が聞けるか、聞いた声を企業の仕組みに反映していく取り組みも行われているので、そういう先進的な好事例が共有されるようになると良いと思います。

課題としては、今回の法改正を実効性のあるものにしていくことが必要であると思います。中小企業などでは、代替要員の確保の困難などの事情を労働者側が察して、育児休業や介護休業の利用を躊躇することがあるかもしれません。あらゆる企業が、ケアをしながら働く人、いわゆるワーキングケアラーがいることを前提に仕組みを考えていくことが重要だと思います。また、今回の見直しで介護休業の判断基準は改められましたが、障害のある子や医療的なケアの必要な子の状況を踏まえて、よりマッチした利用ができるように、当事者の声を聞きながら、例えば法で3回までと定められている介護休業の分割利用制限を独自のルールを設けて無くすなどといった会社の積極的な環境整備により、従業員の方が就労とケアの両立をより一層しやすくなることが期待できます。

また、家族だけでケアを抱え込みすぎないように障害のある人や医療的ケアが必要な人の社会資源の整備、障害のある人がライフステージに応じて、家族だけではなく社会のなかで生活していく機会を保障することは大事だと思います。障害のある人と生活、両方の生活や人生を充実させていくためには、労働政策と福祉政策が両輪とならなければなりません。

最後に、障害のある子や医療的ケアの必要な子を養育する親が離職することは企業や社会の側にとっても大きな損失です。今、多くの企業では、SDGsやインクルーシブな社会ということで多様性を尊重した製品開発やサービス提供、企業風土づくりに励んでいます。そのような中で、長期にケアを担う障害や医療的ケアのある人の親の就労継続ができないということはそういう人の声が反映されないということにつながります。現在の超少子高齢社会の中で、子育てや高齢者介護などケアの問題は現代社会を生きる私たちにとって避けられない問題です。誰にとっても働きやすい企業や生きやすい社会づくりが必要です。

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