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事例11:株式会社繋
柔軟な制度と対話で実現する、がん治療と仕事の両立支援
株式会社繋
1.企業概要
設立年 :2016年
所在地 :東京都千代田区神田須田町2-8-17福家ビル6階
従業員数 :5名
事業内容 :それぞれの「はたらく」を支援する業務プロセスの見える化・改善、DX推進支援、システムリスク対策、就業・転職支援サービス
2.取組の背景
当社が病気治療と仕事の両立支援、特にがんを中心とした取り組みに注力するようになった背景には、代表自身の歩んできた道のりと、そこで抱いた強い問題意識が深く関わっています。代表は幼少期に難病を患った経験があるため、現在も病気などの事情によって働き方に困難や生きづらさを感じている方のために、自分らしく働くことができる環境を作りたいという切実な思いを持って、病気治療と仕事の両立支援を推進しています。
もしも、がんを患った従業員が職場にいた場合、管理職や周囲の同僚はさまざまな葛藤に直面すると予想できます。上司としては、本人の体調を気遣うあまり「この重要な仕事を任せても負担にならないだろうか」「新しいチャレンジを促すべきか、それともセーブさせるべきか」「長期にわたるプロジェクトの責任者に据えても大丈夫か」と悩み、結果的に本人の意欲を削いでしまう恐れがあります。また、現場の同僚たちも、人によって異なる病状やつらさの度合いをどう理解すればよいのか、どこまで病状について踏み込んで聞いてよいのか分からず、戸惑いが生じるのは避けられません。
病気を抱える方の中にも、自分の状況を詳しく話して周囲の理解を得たい人もいれば、プライベートなこととして話したくない人もいます。
当社では、こうした葛藤を前提とし、
- ・病状や治療内容の共有はあくまで本人の意思に基づくものであること
- ・共有の有無によって評価・処遇に影響が生じることはないこと
を明確にしています。
また、本人が責任感から強がって仕事を引き受け、結果的に無理がたたって納期に間に合わなくなるというリスクも考えられます。当社では、こうした繊細な心理状況や現場で起こりうる摩擦を十分に考慮した上で、社内に「病気治療と仕事の両立に関する相談窓口」を設置し、一人ひとりの声に真摯に耳を傾ける体制を整えています。特に対がん治療においては、医学的判断は主治医の指示を前提とし、治療計画との兼ね合いや使用する薬の副作用または後遺症についても深く理解し、寄り添う必要があります。事前に治療計画を共有してもらえることは組織運営上非常に助かりますが、当社では決してそれを強制することはありません。急性期にあるのか、あるいは経過観察の安定期にあるのか、それぞれのフェーズに合わせて、従業員自らが業務上の事柄を柔軟に選択し、納得感を持って働けるような取り組みをしています。
3.取組内容
具体的な取組内容としては、まず時間の融通と場所の柔軟性を確保するため、コアタイムのないフレックスタイム制度を導入しています。これにより、急な体調不良や定期的な通院に合わせた業務時間の調整が、従業員自身の判断で比較的容易に行えるようになっています。また、制度面・システム面の両方でリモートワークを標準的な勤務体制として確立しており、業務の性質上どうしても出社が必要な場合を除き、リモートワークを希望する社員は自宅などで勤務を継続することが可能です。
さらに、勤務日数や勤務時間についても、個々の事情や体調に合わせて雇用契約の中で短日勤務や短時間勤務を柔軟に設定できるようにしています。制度としての休暇も充実させており、治療が必要な傷病を抱えた従業員が安心して働き続けられるよう、年5日分の「病気治療休暇」を設けているほか、法的な出勤停止が求められていない感染症に本人や家族が罹患した際に利用できる「非常時有給休暇」も準備しています。すべての有給休暇を半日単位で取得可能にしていることも、細かな通院や体調管理に非常に役立っています。
また、前述した相談窓口では、本人が治療しながらの就業を希望する場合、いかに無理なく続けられるかを最優先に考え、当日の体調不良による急な休暇・欠勤連絡でも受け付ける柔軟な運用を行っています。急な体調変化にも対応できるよう、手続きは簡素化していますが、業務継続性を確保するための事前共有体制を整えています。
加えて、当社では全従業員が参加する「1on1」を毎月必ず実施しています。これは単なる上司と部下の面談という枠組みにとらわれず、全メンバーが互いのバックグラウンドや仕事観、人となりを知り合うことを目的としています。普段から何でも相談し合える環境があることで、本人が望めば病気の症状や薬の副作用について自然に話せる空気が生まれます。従業員の中にはオープンな気質の人もいれば、個人的なことは話したくない人もいますが、この1on1を通じて、それぞれの「話したい範囲」を尊重しながら相互理解を深めています。もちろん、個人的事情の開示は任意であり、話したくないことを話す必要はありません。
健康診断の受診についても、年度末までに全員が受診できるよう、欠かさず声掛けを行い、受診の徹底を図っています。特に女性従業員に対しては、女性特有のがんに関する検診の重要性についても周知を行っています。がん検診を含む検診費用は、会社が負担することとしており、従業員が健康管理に妥協しなくて済む環境を整えています。こうした日々の積み重ねの結果、社内には適切な配慮を示す雰囲気が自然と醸成されるようになりました。病気を抱える社員が「もしプロジェクトの途中で具合が悪くなったら……」という不安を素直に相談でき、周りの社員も「心配しなくても大丈夫、みんなでフォローするよ」と前もって伝えられる、そんな温かい関係性が築かれています。
4.これまでの効果と、今後の課題
これまでの取組の効果として、病気だけに関わらず、仕事をする上で障害になりそうな事情や現在の困難を率直に共有し、社員間でフォローし合う意識が格段に高まりました。実際にがんに罹患された方が短時間勤務で就労を継続された際、他のメンバーが抱えていた事務処理の一部を担っていただくことで、組織全体の負荷低減に大きく寄与したという事例も生まれています。
当社では多様な背景を持つメンバーが働いています。育児中の社員の子どもが体調を崩した際に、病気療養中の社員が可能な範囲で業務をフォローしたり、その逆の助け合いが起きたりすることも珍しくありません。これは、単なる「優しさ」だけではなく、日頃の質の高いコミュニケーションによって、仕事を割り振る際にも相手の背景を深く慮ることができるようになった証だと考えています。良いコミュニケーションが取れているからこそ、無理のない、かつ生産性の高いチーム運営が達成できているのだと実感しています。
当社は小規模組織ではありますが、規模に依存しない再現可能な仕組みづくりを意識して運営しています。 一方で、今後の課題もいくつか明確になっています。当社規模では法令上、産業医の選任義務はありませんが、従業員の安全を医学的見地から守るためには、必要に応じて外部専門家の助言を得られる体制の構築を検討しています。
もう一つは、顧客対応を担当しているメンバーががんに罹患した場合のバックアップ体制の強化です。属人化しやすい顧客対応業務において代替要員を確保し、かつ体調に波があるメンバーであっても、その時々のコンディションに応じて利益に貢献できるような、柔軟な事業のあり方を構築していく必要があります。顧客対応業務を含め、属人化を防ぐための業務標準化と複線化を進め、バックアップ体制の強化に取り組んでいます。
全体として、当社が最も大切にしているのは、相手の話をよく聞き、自分の状況を「キチンと」伝えるというシンプルながらも本質的なコミュニケーションです。病気を抱える従業員の気持ちに配慮しつつ、状況を見極めながら「もっとみんなを頼ってもいいんだよ」「状況を話してみることで楽になるかもしれないよ」とそっと背中を押すようなアドバイスができる関係性でありたいと思っています。疾病の有無に関わらず、従業員一人ひとりが安心して働き続けられる環境を整えることは、結果として組織の安定性・生産性向上にもつながると考えています。
私たち一人ひとりは、明日自分の身に何が起きるか分からない不安定な存在です。だからこそ、お互いが「明日は我が身」という想像力を持ち、万が一の際にも備え合える、そんな組織であり続けたいと心から願っております。そのためにも、現在の取り組みに満足することなく、従業員一人ひとりのライフステージや健康状態に合わせたアップデートを今後も続けてまいります。







