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事例5:キャンサー・ソリューションズ株式会社

がん患者がいきいきと働きやすい社会を実現するために

令和三年度取材

1.企業概要

設立:2007年
所在地:東京都千代田区神田錦町2-9 大新ビル4階アネックス10-401号
従業員数:11名(うち非正規10名)
事業内容:がん患者にとっても働きやすい社会の実現に向けた調査研究、政策提案、コンサルティング、がん患者の雇用機会創出・相談事業

2.取組の背景

 当社は、社長自らが、がんに罹患したことをきっかけに立ち上げた会社です。がん患者にとっても働きやすい社会を目指し、医療関係者らによる調査研究チームに参加して政策提言などを行う傍ら、がん体験者(サバイバー)による講演・セミナーの運営、「がんのことをもっと正しく、もっと良く知ってもらう」ためのコンテンツやツールの製作、企業への啓発活動、がん患者と企業をつなぐ職業紹介事業などを行っています。
 また、診察室を離れた社会生活上の課題については、病気を治すことについては高い専門知識を持っている医師にさえ、あまり知られていないこともあります。そこで、調査によって患者の思いや医療へのニーズを可視化して医師に届けることも行ってきました。
 こうした活動によって、がんになったら入院・退職するしかないという社会の意識を、がんになっても通院しながら仕事と両立できる、という方向に変えられつつあると自負しています。

 当社の従業員は全員が、がん体験者で、中にはまだ治療中のスタッフもいます。治療と仕事の両立のため、当社では創業当初から在宅勤務を基本としてきました。ツールは、メールとGoogleカレンダーを使う程度でしたが、2020年のコロナ感染症拡大による緊急事態宣言によって、周囲でもテレワークが広がってきたことをきっかけに、新しいツールを積極的に試用し、より効率的な在宅勤務の在り方を模索し始めました。使ってみてだめなら他の方法を試す、というトライアルアンドエラーを繰り返し、現在は安定的な運用ができています。

3.取組内容・工夫したこと

⑴システムの導入

  • ①クラウドサービスの導入
     従来は、重要な書類等は会社のサーバにアクセスしなければ取り出すことができず、そのために月に数回は出社しなければなりませんでした。しかし、従業員の中には抗がん治療中で免疫力が低下しており、コロナに限らず様々な感染症のリスクが高い者も多いため、満員電車での通勤はできる限り避けなければなりません。そこで、クラウドサービスを導入し、自宅からも会社のデータにアクセスすることができるようにしたことで、出社の機会をできるだけ減らすことに成功しました。
  • ②Web会議システムの導入
     当初は従業員によってインターネット環境の脆弱性や、パソコンのスペック等に差はありましたが、リモートワークのツールも進化していて、パソコンにあまり負荷のかからないツールを活用すれば、さほど支障を感じることはありませんでした。Web会議のツールを選ぶ際には、複数のアプリケーションを実際に試し、最終的には負荷が軽く使い勝手の良いZoomを使用することにしました。会議に出られなかった従業員は、録画を見ることで内容を確認できる点も非常に便利です。
     また、最近ではPCやスマホは会社から貸与しているほか、Web会議に使用するヘッドセットなど必要最低限のツールの購入は会社負担で行っています。
  • ③チャットツールの導入
     以前はメールをコミュニケーションツールとして使用していましたが、メールでは受信件数が増えると過去の履歴を探すのが大変でした。今はSlackなどのチャットツールを使用しています。チャットツールはプロジェクトごとに履歴がアーカイブされるので、一連の流れがつかみやすく、従業員の情報共有や、最新版のファイルを探すのに大変便利で、業務がスムーズに進むようになりました。

⑵治療との両立
 通院中の待ち時間でもリモートで業務はできますが、当社では、「外来中は治療に専念する」ことを原則としており、外来待ち時間中の作業やWeb会議を禁止しています。外来の待合室は他の患者さんもいます。中には重要な結果を聞いた後だったり、聞く前だったりすることもあるので、Web会議をしていたりキーボードの音を立てたりするのは配慮に欠けると思うからです。
 入院時には、本人が希望するなら病室で業務をしてもいいことにしています。入院中のがん患者にとって、仕事は唯一の社会とつながる窓であり、モチベーションにもなっているからです。しかし、無理はさせないようにしています。
 パソコンのモニター越しには顔しか見えないので、本人の状態がよくわかりません。そのため、なるべく密にコミュニケーションを取り、様子を確認することの大事さを日々痛感しています。過去に何人も、死亡退職となった従業員を見送ってきました。とても残念なことですが、オンライン上であっても最期まで仕事という自分の居場所があり、仕事仲間とつながっていられる、そういう環境を作ってあげられたことは会社としてもよかったと思っています。

⑶評価方法の見直し
 当初は勤怠管理システムを導入し、パソコンの電源が入っている時間を就業時間としてカウントし、この時間の長さを仕事の評価に反映していました。しかし、実際には家事や子どもの送迎などちょっとした用事のために電源を入れたまま離席するという従業員も多く、システム上の勤務時間と実態とが合わないということが少なくありませんでした。また、従業員のスキルによっては、作業時間と成果物の量とが見合わないという例も出てきました。そのため、勤怠管理システムに頼ることはやめ、従業員1人ひとりと十分に対話をし、成果物の質・量や納期等で評価をすることにしました。

⑷業務の進め方の見直し
 治療中の従業員もいるので、突発的に業務に従事できなくなる事態に備え、必ず2人1組で業務を進める体制にしています。
 また、進捗管理を頻繁に行い、オーバーワークにならないよう調整することを心がけています。

⑸コミュニケーションの活性化
 治療中は孤独や不安に陥りがちなので、業務上必要なコミュニケーションだけでなく、メンタル面をサポートする上でのコミュニケーションを頻繁にとるよう努めています。
 ただ、大人数のミーティングをあまり頻繁に行うと、日程調整が大変になります。以前は全体会議を週1回行っていましたが、これを月1回に変更し、あとはチームごとに必要に応じてミーティングを行うようになりました。
 通常のコミュニケーションはオンラインで行っていますが、オンラインだけでは雑談の機会がなくなってしまいます。雑談にも気づきやビジネスのアイデアが隠れていることがありますしリアルでなければ伝わらないこともあるので、年に数回は、オフラインのランチ会などを開催したいと考えています。
 ずっと在宅勤務を中心にしてきて、業務上不都合を感じることはほとんどありませんが、表情やしぐさ、声のトーンなどがはっきりと伝わるノンバーバルなコミュニケーションも大変大事だと感じています。相手がどんな人なのか、どんなことで悩んでいるのかなど、パソコンの画面で見るだけではわからないことがたくさんあります。必要に応じて、リアルとオンラインを使い分けることが必要だと感じます。

4.これまでの効果と今後の課題

⑴効果

  • ①病気治療の経験がプラスの武器に変わった
     通常は、治療中というと、本人や会社にとってマイナスの面が多いと思う人もいるかもしれません。しかしそうではなく、がん体験は、その後も仕事を続けていく中で、新しい価値の創造や社会課題の解決に活かせる力になっていると私は考えています。
     今や日本人の2人に1人はがんにかかる時代です。自分がかからなくても家族がかかるかもしれない、同僚や部下がかかるかもしれない。当社の例は決して特殊ではなく、どこの会社も、がんなど、病気との共生を考えていかなければなりません。
  • ②同じ体験をした者同士であることと当社のミッションにより連帯感が強まった
     当社のように100%リモートワークだと、会社への帰属意識が生まれにくいのではとよく言われますが、当社の場合は、全員ががん体験者です。一度は仕事をあきらめて、前の会社を退職した後に当社に入社し、新たな生きがいを見つけたという人ばかりです。互いがピアサポーターであり、同じ経験をした者同士の連帯感、頼り頼られる関係の居心地のよさが、生産性の向上につながっています。また、従業員は、同じ悩みを抱えているがん患者たちのために何かしたい、社会を良くしたいという共通の想いも持っており、それが当社のミッションにも合致していることから、仕事へのエンゲージメント向上にもつながっていると思います。
  • ③ビジネスチャンスが広がった
     当社は創業当時から試行錯誤をしながら在宅勤務による業務を進めてきたため、他社に先んじて培ったノウハウを活かして、コロナ禍で他社のリモート環境設定をサポートしたり、Webイベントの運営を任されたりするなど、新たなビジネスチャンスを獲得できました。また、Web会議なら遠方のクライアントとも頻繁に話せるので、これまでのように月に1回の訪問で一方的に企画を提案するのではなく、互いに議論を繰り返しながら企画を作り上げるといったビジネススタイルに変わっていくでしょう。よりクライアントとの関係性が強まり、ビジネスチャンスが広がっていくと期待しています。

⑵今後の課題
 当社のように小さな企業の中でも、社内に病気を体験した人や同僚などのコミュニティを作ることです。同じ悩みを持つ人たちがゆるやかにつながり、悩みや体験談を話し合う、それだけで、どれほどの力になるか計り知れません。

 働き盛りの世代ががんによって職を失うことは、社会的アイデンティティや生きがいの喪失にもつながり、人生の質(QOL)が著しく損なわれることは憂慮すべき課題です。また、今後、生産年齢人口の減少が見込まれるわが国において、これらの労働力の損失は大きな社会問題にもなります。私たちの活動によって、がん患者であっても働き続けることが当たり前となる世の中にしていきたいと強く願っています。

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