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WLBが家庭及び家族に与える影響について

コラム

WLBが家庭及び家族に与える影響について

尾形 和男(埼玉学園大学特任教授)
平成30年度取材

  平成8年以降共働き家庭の数が専業主婦家庭のそれを上回っていますが、それに伴い夫婦の「妻として」「夫として」の生活の仕方にも変化が求められるようになってきています。
  生活の根幹を成す労働は私たちの生活の中心となるものですが、労働によって疲労し生活に支障をきたすようなことがあってはなりません。このような考えを受けて2007年に内閣府は「ワーク・ライフ・バランス憲章」を掲げています。これは、今までの労働の在り方を根本から見直し、仕事と家庭生活の両立を図ると同時に、人間として生き生きとした生き甲斐のある生活の実現を図ることを狙いとしたものですが、同時に国民一人一人の仕事と生活の調和を図ることによって経済成長を促進し、誰もが意欲と能力を発揮して労働市場に参加することにより我が国の活力と成長を高めること、ひいては少子化の流れを変えることに繋がることを期待して掲げられたものです。この考えの中には一人一人の人間らしい生き方の実現、言葉を換えれば自己実現を目指した生き方を求めているともいえるのです。
  仕事と家庭の両立に向けてどのような生活をすることが望ましいのでしょうか。この命題の中には実に多岐に渡る複雑な説明が求められていると思われます。というのは、一家庭の生活の在り方を見た時に、夫婦が結婚してから老後を迎えるまでに幾つかのライフステージを経ることになり、しかも個々のライフステージでは各家庭に課せられるワーク・ライフ・バランス(WLB)のあり方は異なります。わかりやすくいえば、妻の妊娠、子どもの誕生に伴う夫婦の対応と仕事、乳幼児期や児童期の子育てと仕事、青年期の家庭の変化と夫婦関係のあり方の再構築、親の看病や介護と仕事の問題など各ライフステージには実に多くの問題が存在することとなります。このことは単に子育てのあり方、親としての生き方、夫婦間の調整の在り方などの家庭内の問題として収まるのではなく、社会との関りにまで繋がる幅広い問題でもあります。しかし、一般的に指摘されることは、人生の中でも子どもの幼い時期が夫婦にかかる負担が大きく、それに伴う精神的健康の問題の多いことも心理学では指摘されています。
  WLBは本来的には、仕事と家庭生活の両立に関する内容を指していますが、より具体的には「家庭生活」「仕事」「余暇時間の活用」「地域への関わり」の4領域を指しています。この4領域のバランスのあり方が基本的に問題となります。しかも、既述のようにライフステージもその段階によっては家族に掛かる負担も異なりますので、この両側面の要素も入れて具体的に検討することが必要となります。4領域についてどのようなバランスのあり方がWLBとしてより望ましいのでしょうか。このことを検討するために4領域に渡る生活スタイルのあり方が「夫婦関係」「家族成員のストレス」「家族機能」のそれぞれに及ぼす影響を調べてみました。家族機能というのは、家族としての特色を指しています。具体的に皆で話し合い進める民主的な家族、まとまりのある結合性のある家族、自由に思ったことを出しあう表現性のある家族などです。
  上記のことに関する調査結果を紹介したいと思います。調査の対象になったのは関東と愛知県を主とする共働き1,364世帯です。ライフステージ別には妊婦家庭(121世帯)、乳幼児家庭(147世帯)、児童家庭(241世帯)、中学生家庭(434世帯)、高校生家庭(199世帯)、大学生家庭(222世帯)となります。両親の職業は会社員、教員、公務員、自営業・パートタイムなどとなっています。1,364人分のデータをクラスタ分析という手法から図1に示しますように4つの生活スタイルに分類することができましたが、それぞれA:夫婦家庭中心型、B:夫婦全関与型、C:妻のみ家庭関与型、D:夫婦家庭低関与型としました。そして乳幼児家庭から大学生家庭までのライフステージごとにA~Dの4つの生活スタイルの「夫婦関係」「家族成員のストレス」「家族機能」の状況を比較しました。図1のグラフは0を平均にしてありますので、0より上は平均以上0より下は平均以下を示します。
  まず、「夫婦関係」についてですが、夫婦それぞれが相互にどのような気持ちを持っているのか調べました。各ライフステージを通して(相手に対する満足感)は夫婦共にAとBの生活スタイルがDの生活スタイルよりも高いことが示されました。つまり、妊娠期、子育ての時期、子どもの教育の時期など常に夫婦で話し合い協力し合いながら進めて行く必要のあることに関して、夫婦共に家庭生活を中心とした生活スタイルが求められています。

チャート図

(相手への要望)については児童家庭・中学生家庭・高校生家庭でDよりもAとBの生活スタイルで妻が夫に対して多く要望を持つことが示されました。子育ての中でも子どもの教育に関わることの多いこのステージでは、子どもの教育のこと、将来のことなど夫婦や子どもで話し合って決めて行かなくてはならないことが多くなり、まさに夫婦間の結びつきの強い家庭生活中心の生活スタイルが映し出された姿ともいえます。
また、「家族成員のストレス」については3年生を中心とする児童にストレスが見られ、DがAとBの生活スタイルよりも多くのストレスが生じていることが示されています。これは、夫婦揃って家庭への関わりが少ない、つまり夫婦のコミュニケーションが少ない場合は子どもにとっては安心して生活できる家庭として機能していないことを示していると思われるのです。また、夫のストレスも見られましたが、それは妊婦家庭・児童家庭・中学生家庭・大学生家庭それぞれで、DがBとCの生活スタイルよりも高く、基本的には夫婦共に家庭への関わりが少なくコミュニケーションに基づく安定した環境の不足が原因と考えられる場合です。
  さらに「家族機能」についても全てのライフステージを通してDの生活スタイルは他の生活スタイルよりも、結合性、表現性、民主的などの健全な機能が低くなっているのです。
  このように夫婦が共に家庭生活を基本にして仕事などへの関わりを持つ場合、ライフステージ全般に渡り夫婦関係と家族機能は良好であり家族成員の精神的健康も良好といえます。
  ここでもう一つ重要なことに触れたいと思います。それはWLBがうまく送れていない場合子どもの成長・発達にも大きな影響をもたらすということです。具体的には、専業主婦家庭の夫の生活の送り方が子どもの社会性の発達にどのような影響をもたらすのかについての調査結果を紹介したいと思います。夫の家事・育児や家庭への関わりなどの「家庭生活」が妻のストレス形成と子育てを通して子どもの社会性の発達(身辺自立・コミュニケーション能力・集団参加・自己統制能力など)にどのような影響をもたらすのか検討を加えました。調査の対象は小学校低学年児童146人とその両親146組です。ここで夫の関わりとして「夫婦間のコミュニケーション」「子どもとの交流」「家事への援助」、妻のストレスとして「集中力の欠如」「孤立感」「心的疲労感」「自己閉塞感」が抽出されました。夫の3つの関与それぞれの平均得点と妻の4つのストレスそれぞれの平均得点を求め、「夫婦間のコミュニケ―ション高・妻の孤立感高」「夫婦間のコミュニケ―ション高・妻の孤立感低」「夫婦間のコミュニケ―ション低・妻の孤立感高」「夫婦間のコミュニケ―ション低・妻の孤立感低」のように4つのグループを形成し、それぞれのグループの子どもの社会性の状況を調べました。図2に示しますように、「夫婦コミュニケーション高・妻の孤立感低」のグループは「夫婦間のコミュニケーション低・妻の孤立感高」のグループの子どもよりも社会性の発達が有意に高いことが示されています。このことは、夫のWLBという視点から見ると、家庭への関わりを多く持つ場合、妻のストレスを介して子育ての家庭環境形成に影響を及ぼし、それが子どもの成長・発達にまで影響をもたらしているということがいえるのです。また図3にも示されているように、夫が子どもに多く関わり妻の自己閉塞感の低い場合に子どもの社会性の発達が良好であることが分かります。その他の夫の関わりと妻のストレスについても同様にグループを作り子どもの発達状況を調べました。その結果、夫の関わりが平均以上で妻のストレスが平均未満の場合、つまり夫の関わりが高く妻のストレスが低い家庭の子ども発達が良いということが示されました。図2、3は調査結果の1例ですが、夫の他の関りと妻のストレスと子どもの社会性の発達についても同様の結果が示されています。

イメージ図

  上記の結果は専業主婦家庭の夫の生活のあり様が家族にもたらす影響を示したものですが、妻の子育てを仕事に置き換えて考えると夫の生活のあり様が妻の生活(WLBのあり様)にまで影響をもたらすことを示すものです。
  WLBは人間らしい生活を目指すものですが、家族の大切さも十分に考えた生活を心がけたいものです。 
  (ここで紹介しました結果の詳細については下記に示す文献を参照してください。)

引用・参考文献
尾形和男編著 2018 家庭と仕事の心理学 -子どもの育ちとワーク・ライフ・バランス- 風間書房 
尾形和男著  2007 家族システムにおける父親の役割りに関する研究 -幼児、児童とその家族を対象として- 風間書房

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