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男性の家事・育児分担

コラム

男性の家事・育児分担

普光院 亜紀(保育園を考える親の会代表)
平成30年度取材

社会が変わって見えてきたこと

 この30年間で日本の家族観は大きく変化しました。
  男女雇用機会均等法が1986年に施行された頃にはまだ、「腰掛け3年」という言葉がありました。女性は会社に3年程度勤めて職場でよい相手を見つけ、結婚退職して家事・子育てに専念するのが幸せと考えられていました。「女性は能力が低い」という偏見もありました。3歳までは母親の手で育てるべきという「3歳児神話」も根強く、子どもを保育園に預けて働き続けようとする女性たちには大きな逆風が吹いていました。男性が大黒柱になって一家を養うのは義務とみなされ、ひとつの会社に勤め上げることが求められました。それは、日本型経営と言われた年功序列式賃金と、高度経済成長に支えられたライフスタイルでした。
  今、社会はまったく変わりました。まだ格差はありますが、平等な機会を与えられた女性は仕事で男性に劣らない能力を発揮しています。待機児童対策は追いついていませんが、保育の受け皿はどんどん大きくなっています。「3歳児神話」は知らない人のほうが多くなり、むしろ専業主婦が孤立して子育てをする負担の大きさのほうが問題にされるようになりました。日本型経営が崩れ、男性一人で子どもも含めた家族を養うライフスタイルは、標準的な所得では難しくなっています。
  高度経済成長期に成立した性別役割分担では、持続可能な社会が思い描けなくなっているのです。

にもかかわらず低調な男性の育児・家事分担

 こんなに社会が変化しているのに、家庭の中の家事・育児の分担は30年前の価値観を引きずっているように見えます。
  国際社会調査プログラム(ISSP)による2012年の調査で、日本の男性は、調査対象33か国中で最も家事をしていないことがわかり、話題になりました。18歳未満の子どもを育てる家庭の男女の家族ケア・家事時間(1週間)の平均が、日本では女性が53.7時間、男性が12.0時間で、男性の家事負担率は18.3%だったのです。ちなみに、スウェーデンでは42.7%、フランスでは38.6%、アメリカでは37.1%でした。
201631日公開 NEWSWEEK日本版 舞田敏彦「日本は世界一『夫が家事をしない』国」より。国際社会調査プログラム(ISSP2012年「家族と性役割に関する意識調査」からの分析)
  日本の男性が、特別に心が冷たいわけではないと思います。個人生活よりも会社などへの奉公を重んずる日本独特の文化も影響しているでしょう。そして、その従順さゆえに慣習化した長時間労働も、家庭のことができない大きな要因になっています。正社員は残業して当然という風土は、女性を非正規雇用に追いやり、男女の格差を縮まりにくくしています。
  男性の育児・家事分担が進まない背景には、このような構造的な問題とともに、男性の「みんながやらないから、自分もやらない」という横並び意識による悪循環もあります。これを変えるには、社会の構造と個人の意識の両方を同時に改造していく必要がありそうです。

対等な個人の協力体制

  さて、ここからは、それぞれの家庭、一人ひとりの意識の問題として考えてみたいと思います。
  まず、仕事と子育ての両立が直面するときのさまざまな問題を「お母さんの問題」と考えることをやめる必要があります。
  いまだに妻に向かって「君が働きたいなら働いてもいいけど、家事や子育てにしわ寄せがいかないようにしてくれ」と言う男性がいると聞きますが、そもそもそんなことを言う権利はないことに気づいてもらう必要があります。収入が多い少ないの問題ではなく、人が人の生き方を一方的に決めることはできないのです。
  対等な個人同士が一緒に暮らすことにした、一緒に子どもを育てることにした、どういうやり方ならお互いの希望をかなえられ、家族にとって最善の選択になるかを対等に話し合って決める。それが、すべての出発点です。
  そして、そのとき意見が分かれて大もめにもめたとしても、それぞれ納得いかないことに妥協した部分があったとしても、一緒にタッグを組むことにしたのであれば、その暮らしを守る責任は、妻と夫に等しくあります。
  共働きの場合は、協力体制を密に組む必要がありますが、その当事者は妻と夫の両方です。妻の問題に夫が協力するわけではありません。
  たとえば、お互いに仕事の責任を果たせるようにする、必要な家事が回るようにする、子どもとの時間を確保する、子どもの病気などの場面で互いの仕事への影響や子どもの負担を最小限にする方法を考え対応する……これらを極力可能にするためには、夫婦でお互いに補い合うような協力をすることが、共働きの生活ではどうしても必要です。
  仮に、「共働き子育てを成功させる」というミッションがあるとすると、夫婦の協力体制の有無は、成功率を左右する最も大きな要因になります。この協力体制が組めなくて困るのは、子どもも含めた家族全員です。

さまざまな選択肢

 ある男性が、保育園を考える親の会の両立支援イベントでこんな話をしてくれたことがありました。
 「家事・育児を分担すれば、どうしても仕事は制約される。妻が仕事をやめれば、私はもっと働いて出世して、もっと高い給料をとれるかもしれない。でもよく考えてみると、私一人が出世するよりも、妻が正社員のまま二人で働き続けたほうが、世帯全体の所得は高くなる」
 会場はあたたかい笑いに包まれました。将来、暮らしをどうしていきたいのか、夫婦で話し合って決めて、協力体制を組んでいるのです。
 もちろん、ライフスタイルを決める判断基準は世帯所得だけではありません。それぞれの仕事や家庭生活への希望や展望のほうが重要かもしれません。
反対に、どちらかの親がもっと子どもに向き合う時間がほしいと考えて仕事をやめるのもひとつの選択です。子どもの病気などの事情で、やめざるをえなくなることもあるでしょう。ただし、やめるのは母親とは限りません。母親のほうが安定した職業だからという理由で父親が仕事をやめて専業主夫になったという話も聞かれるようになりました。
 男女の役割分担をはずせば、暮らし方の自由度は高まります。男性にとっても、家事・子育てを分担できる意識と技術をもっていることは、自分の自由度と可能性を広げ、サバイバル能力を高めることにもつながります。

男性にとっての障壁

 とはいえ、ここまで柔軟に考えられる男性は多数派とは言えません。そこで、最後に、男性にとって家事・育児分担の障壁になりやすい事柄について考えてみたいと思います。

「おっぱいには勝てない」

  父親にはないもの、それは「おっぱい」です。赤ちゃんが泣いたとき、母親が「おっぱい」を差し出すとすぐに泣きやむのを見て、「やっぱり母親が一番だよな」という男性もいます。確かに、授乳期は「おっぱい」の力は偉大です。でも、この時期であっても子どもの関心は「おっぱい」だけに向けられているわけありません。日常的なかかわりの中で、親と子どもとの関係はつくられます。子どものケアがどうしても母親に偏りがちなときは、休日などに母親が一日外出する日をつくると、赤ちゃんの「父親慣らし」ができます。父親の頑張りどころです。

「家事が苦手」

 料理・洗濯・掃除がまったくできないという男性はさすがに少なくなりましたが、「できない」を理由にやらない人はまだいるようです。家事は好きでやるものではなく、やらねばならないもの。生活する以上どうしても必要になる仕事です。最初は慣れなくてうまくいかなくても、慣れると自分なりのこだわりができたりして、楽しめる部分もあります。
  逆に、自分のこだわりを相手に押しつけすぎると「嫁と姑」の関係になってうまくいかないことがあります。「洗濯物は叩いて干す」かどうかでもめるのであれば、必要性の範囲について議論をする、乾燥機を入れて叩かなくてもよい環境をつくるなど、相互理解を基本に解決方法をさぐってください。夫が干したものを目の前で妻が干し直すなどは、夫の意欲減退につながります。

「何をやったらいいかわからない」

 分担は最初からスムーズにはいきません。試行錯誤しながら、互いの領分が決まって行きます。ポイントとしてこんなことがあります。

・育児休業などからの職場復帰前に分担について話し合う。家事や子どものケアにどんなタスクがあるか書き出し、時間の流れにそって、どちらが何をやればうまく回るかを考える。

・主担当を決める。役割に責任感が生まれ、洩れが少なくなる。

・主担当にかかわらず、臨機応変にやれる人がやれることをやる。相手が気づかないときは、「悪いけど、手がふさがってるから、○○をお願いしてもいいかな」とはっきり言葉にして頼み合える習慣をもつ。

「職場の理解がない」

 男性が子育てのために仕事の時間を削ることについて、世間の理解はまだ十分とは言えません。育児休業をとる、短時間勤務をする、子どもの病気で休む、保育園のお迎えのために定時で帰るなどを男性がやろうとすると、周囲の目が厳しいということもあるでしょう。しかし、少しずつですが、変わってきています。保育園の送りはすでに父親が多いのですが、お迎えにも父親の姿が見られるようになってきました。子どもを連れて小児科にくる姿も。男性の育児休業取得率もわずかずつですが上がっています。平成29年度雇用均等調査では、5.14%となって、過去最高、5年連続上昇を記録しました。
  子育て世代が自分たちの選択をすることで、全体が変わってくるはずです。

ワークライフバランスがもたらすもの

 家事・子育ての分担は、単に家庭生活のためだけのものではありません。仕事以外の世界が広がると、新しいことが学べて、体験を豊かにすることができます。人間関係も広がり、子どもを通じて地域デビューもできます。
  雇用する側にとっても、社員に家庭生活のための時間を保障することは、その心身の健康のためにも重要ですし、生活者として成長してもらうことは仕事にもプラスになるはずです。経営幹部、人事の方々には、男性が子どものために早く帰ったり休みをとったりすることに対して嫌な顔をしない職場づくりをめざして、策を練っていただきたいと思います。

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