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事例10:株式会社 技研製作所

0%の男性育休取得率を3年間で100%にした方法とは?

令和四年度取材

1.企業概要

設立:1978年(創業1967年)
所在地:(東京本社)東京都江東区有明3丁目7番18号 有明セントラルタワー16階、(高知本社)高知県高知市布師田3948番地1
従業員数:690名(男性571名・女性119名)(グループ連結 2022年8月末時点)
事業内容:無公害工法・産業機械の研究開発および製造販売ならびにレンタル事業、土木建築その他建設工事全般に関する業務ならびにコンサルタント業務、土木施工技術・工法の研究開発、上記に関する海外事業
URL:https://www.giken.com/ja/

2.取組の背景

 当社は創業時から「仕事に性別は関係ない、能力で評価する」という創業者の方針により、早期から経営会議に女性が参画していました。しかし、企業風土の対外的な認知度は低く、「男性中心の会社」というイメージを持たれがちでした。
海外売上比率7割を目標に掲げる当社にとって、男女問わず優秀な人材を国内外で確保することは大変重要であり、それを実現するには、日本に比べて女性の社会参画が進む海外から見ても、多様な人材が活躍する魅力的な企業であることを外部に広く示す必要性を感じていました。
 そこで、2018年4月、女性人材の育成と定着を加速すべく、女性役員(現・専務取締役)先導のもと、女性社員を中心とした部門横断型の「ポジティブ・アクション:Positive Action(女性の活躍推進)プロジェクト」を発足。女性社員がそれぞれの強みや視点を活かしながら活躍・スキルアップできる場をつくりました。プロジェクトでは「働きやすい環境づくり」「社員満足度の向上」「会社のブランド力向上」を基本方針とし、様々なテーマに取り組んでいます。
 その1つに2019年6月に発足した「男性育休取得推進チーム」があります。2017年に改正育児・介護休業法が施行され、日本社会の流れとしても男性の育児参画・女性の活躍推進が当時から謳われていました。しかし、当社では2008年から2018年までに配偶者が出産した男性社員150名のうち、育児休業(以下、「育休」)取得者は0人、つまり育休取得率は0%だったのです。「仕事に性別は関係ない」という方針ながら、女性に育児を任せる風潮がありました。「男性は育児をするものではない、女性が育児をするもの」「男性は家族のために働くものだ」などの考え方が男性社員のみならず、女性社員にも浸透していたのです。そのため、当初は男性社員が育休を取得するという概念自体がない状況で、育休の申し出がしづらい雰囲気でした。このため、「男性育休取得推進チーム」による本質的な施策を実施することとなり、結果としてわずか3年で男性社員の育休取得率を0%から100%にまで引き上げることに成功しました。

3.取組内容

(1)男性育休取得率0%の原因追求のためにアンケート実施
 2019年に597名を対象にした全グループ社員アンケートを行い、男性の育休取得に当たっての課題を特定しました。結果、同僚への罪悪感や収入減少に対する不安が大きいことが判明。「育休を取っても問題ない」という雰囲気の醸成や金銭的支援を中心に、男性育休取得推進活動をスタートしました。アンケート結果は全社員へ共有し、会社の現状を周知しました。

(2)同僚へ負担がかかることへの罪悪感の解消
①社内説明会
 2019年には育休取得対象者とその上司に向けた説明会を実施し、育休取得経験のない世代にも育休取得のメリットを伝え、当事者のみならず上司の育休に対する理解も深めました。具体的には、「奥さまのケアをするのはあなたしかいない」「身近な人を幸せにできる社員になってほしい」と家庭の全体最適の重要性などを伝え、遠慮しながら育休を取るということがないように管理職にも共感してもらうようにしました。
 2020年12月には全社員を対象に育休説明会を行い、延べ約600名が参加。「育休取るの?」ではなく「育休はいつ取るの?」という育休取得前提の積極的な働きかけを促しました。育休取得対象者のみに説明するのではなく、上司や全グループ社員を対象にすることで助け合える環境構築に注力したのです。

②外部講師による社内講演会
 2022年4月に、全社員に加え、その家族も対象にした社内講演会をオンラインで開催しました。講演動画や資料は社内イントラネットに公開し、いつでも確認できるようにしています。参加者からは「夫と聴講できてよかったです!」「女性の自分も初めて知りました。」などのコメントをもらうことができ、男性社員の育休に対する理解を深められました。

(3)収入減少に対する不安解消
①育休給付金シミュレーションツールの構築
 育休取得時の収入面の不安を解消するために、給付金シミュレーションツールを導入しました。過去6か月の給与と育休取得の希望期間、税金、社会保険料を入力すると、育休中の収入と支出の予測金額が表示されるという仕組みです。

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②当社独自の「育児休業支援金」の創設
 2021年9月に「育児休業支援金」を創設し、収入面の不安解消や育休の長期取得を目指しました。国の給付金に加えて最大15万円の支給としたため、休業前の手取り額とほぼ同額を受け取ることができます。また、「3か月以上の育休取得者に支給」という条件を設けることで育休の長期取得を促し、男性・女性問わず、また第二子以降も支給対象にしています。

(4)社内外への発信
①社内イントラネットで育休取得をアピール
 「育休専用ページ」を社内イントラネットに開設し、育休に関する疑問点や不安感を解消しています。

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 育児・介護休業法の改正によって可能になった育休の分割取得などの詳細説明ページもあります。さらに、「男性の育休支援面談シート」や「業務引き継ぎシート」を作成し、スムーズに育休を取得できるような仕掛けも用意しています。

②役員が男性育休取得推進を社内外へ発信
 社内通達で、「健康経営」と「男性の育児休業取得」について、企業活動の一環として経営者と一体となり推進することを、経営陣からのメッセージとして宣言しています。また、当社のHP上で、社外に対しても「育休取得率100%を目指す」と発信しています。

③社内報に育休取得経験談を連載
  男性育休取得者の経験談を社内報に掲載しています。育休のリアルが経験者によって社内全体に共有されることで、部下が上司に相談しやすい環境が形成できました。

4.取組における工夫

(1) 全社員アンケートによる原因究明と解決に向けた早期の対応
  前述の全社員アンケートで育休取得の最大の障壁となっていることが判明した「同僚への罪悪感の解消」にフォーカスし、「育休を取得しても大丈夫」という雰囲気の醸成に早期に取り組んだことにより、短期間での育休取得率をアップが実現しました。

(2)ロールモデルによる具体的な育休経験談の共有
  育休取得経験者が自身の経験を社内報で具体的に伝えてくれたことが、取得率アップに大きな効果をもたらしました。
社内報には、具体的に以下の内容が記載されています。

  • ●育休取得のタイミング
  • ●育休取得後の仕事の進め方や段取りなどの変化
  • ●育休取得後の育児に対する意識の変化
  • ●配偶者からのコメント

  上司だけでなく若手社員の育休経験談も掲載しているため、社員全員が気軽に相談できる環境を構築できました。

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(3)経営陣と一体となったことによる取組の加速化
 経営陣からトップダウンで育休取得の意義が発信されたことで、プロジェクトでの細やかな施策が実現したことも、スピーディに育休取得率100%を達成できた秘訣だと言えます。「育休が取りやすい職場は生産性が高い」というメッセージを経営陣が発信し続けたことで、新たな企業文化を形成できたのです。また、経営陣を巻き込んだ部門横断のプロジェクトや、その成果を現場と共有できる風通しのよさも、育休取得率アップに効果があったと考えられます。

5.これまでの効果と今後の課題

(1) これまでの効果
①男性の育休取得率を3年で0%から100%に
 前述のとおり、当社の2008年度〜2018年度の男性の育休取得率は0%でしたが、「男性育休取得推進チーム」が発足した2019年度には30%、2020年度には61.5%、2021年度には100%を達成し、2022年度も100%の見込みです。

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②企業価値の向上
 女性活躍や男性の育休取得を推進し、効果を上げたことで様々な賞を受賞しました。

  • ●イクボスアワード2018で特別奨励賞受賞
  • ●イクメン企業アワード2020でグランプリ受賞
  • ●令和3年度「なでしこ銘柄」に選定
  • ●令和3年度「女性活躍・子育て支援リーディング企業表彰」で最優秀賞受賞
  • ●健康経営優良法人2022(大規模法人部門)に認定

 社内で育休が当たり前となり、社外でも認められることで社員のロイヤリティ向上にもつながりました。また、当社ホームページで男性育休取得推進の取り組みを発信することで、採用面でも好影響が出ています。

③組織力強化
 男性の育休取得率増加により、誰もがいつでも休みを取れる環境が構築され、柔軟で強靭な組織力強化につながっています。従来であれば属人的とされていた業務も、引き継ぎ期間や業務引き継ぎシートを設けることで、他の職員も対応することができています。また、一般的には取得しづらいイメージのある管理職クラスの育休であっても、当社ではチームの成長機会と捉えて活用されているケースもあります。
 単なる業務の引き継ぎにとどまらずに業務改善の取り組み機会にもなっているため、「誰が休んでも大丈夫」な組織として、育休が大きな効果をもたらしています。

(2) 今後の課題
 現在、男性の育休取得は社内に定着しており、2021年度は取得率100%、平均取得日数89.2日、2022年度は96.1日の見込みとなっています。今後は育休取得における選択肢を拡大し、本人の希望どおりの期間を取得できるよう会社としても支援して、個々のライフに寄り添えるよう制度拡充を図っていきます。
 また近年は、育休取得時だけでなく、復帰時の相談も多いことから、法令を超えた支援制度の整備にも力を入れています。法令では3歳まで・小学校入学までの支援制度が多いのですが、当社では小学校卒業まで支援制度を延長しています。さらには、有給の時間単位での割り振りやフレックス制度の導入など、働き方の多様化も検討中です。
 定性的な目標としては「社員、そして社員の家族の幸せが当たり前になる企業文化へ」を掲げています。同僚に迷惑をかけたくないという理由で育児休業を取れないのは本末転倒です。自分の幸せ、家族の幸せを後回しにしても良い仕事はできません。「休まれて困る」組織ではなく、「誰が休んでも大丈夫」な組織を目指しています。
 社員の幸福度が向上することで、会社へのエンゲージメントが高まり生産性が向上する、また社会にとっては少子化対策や女性活躍推進などの社会貢献につながるという好循環を、男性の育児参画により今後も生み出していきます。また、育児サポートのみならず、介護や副業も含めて対応できる企業を目指しています。そして、このような考え方や本プロジェクトの取り組みを社会全体へ発信することで、少子化の歯止め、女性活躍の推進、多様な働き方の推進など社会課題解決に寄与していくことも、リーディングカンパニーとしての責務だと考えています。

引用・参考資料
「GIKENの働き方改革」

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