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体験談10:Tさん

不妊治療を経て高齢出産をした後に、育児と介護のダブルケアに直面

【プロフィール】
性別・年齢:女性・40代
勤務先の事業内容:新聞社
従業員規模:2885名
職務:新聞記者
家族構成:夫、息子/娘(4歳)
勤務地:東京

1.育児・介護の状況(属性、要介護者との関係)

 私のこれまでの道のりを振り返ると、「仕事の時代」「仕事と不妊治療・介護の時代」「仕事と育児・介護の時代」の3つに分けられます。
 仕事の時代である20〜30代は、転勤を繰り返す生活で仕事に没頭していました。その後、40代前半で結婚し、高齢であったことから不妊治療を開始。同時期にパーキンソン病を患っていた母の介護も始まっています。私は母の介護を直接していたわけではありません。妹の家で在宅介護をしていたため、私は妹のサポートをする立場でした。
 母の介護に関しては施設入居の話が出ました。しかし、近くの特別養護老人ホーム(以下、特養)は入居不可、有料老人ホームは高額、地方の特養は「母を一人にできない」という理由から、施設入居は断念して妹の家で在宅介護を続けることになりました。
 妹には子どももいて、症状が悪化する母の介護と育児で相当なストレスにさらされていたようです。私も不妊治療をしていたのでお金も時間もかかるという状況でした。
 そんな中、幸運なことに、40代後半という年齢ながら妊娠に成功して出産まで至りました。ただ、高齢出産だったため、親のサポートは受けられず、仕事と育児を両立しながら妹のサポートを続けました。コロナ感染拡大の少し前には母が要介護5(最も要介護度が高い状態)と判定され、特養入居が決定。妹は5年以上も母の在宅介護を担ったことになります。
 私は1年以上の産休を経て仕事に復帰しました。特養入居後の母との面会に関しては、コロナの影響によりガラス越しやオンラインでの面会が続きました。

フルタイム勤務に戻ってからは、日々奮闘しながら仕事と育児の両立をしています。母に関しては、数年間暮らした特養を退所して病院へ入院することになりました。状態が悪くなってからは看取りのために再び在宅介護を行い、母の最期を見送りました。

2.自身が行っている(いた)育児・介護

 介護に関しては、在宅介護をする妹のサポートに徹しました。具体的には、金銭的・精神的支援です。特に妹の精神的負担を考慮し、電話やLINEで妹の話を聞いてはけ口となりました。また、妹には思春期の子どもがいて育児にも悩んでいたので、子育てに関する相談窓口を調べて紹介しています。金銭面でいえば、この後お話しする介護サービス「ショートステイ」「デイサービス」「特養」を利用するに当たっての費用を負担したことです。妹の家で在宅介護をしてはいましたが、全ての世話を妹一人に任せていたわけではなく、プロのサポートを受けつつ食事や排せつの世話にあたることで妹の負担軽減を図りました。
 母が特養に入居してからはなるべく面会に行くようにしました。ただ、コロナの影響によりガラス越しでの電話やZoomでのオンライン面会がほとんどで、直接会えるのは病院の診察で外出するときくらいでした。パーキンソン病の母との意思疎通は難しく、一方的なコミュニケーションになることが多かったのですが、時間があるときには面会に行きました。
 育児に関して、朝と夜の数時間は子どもの世話でバタバタしています。朝、子供を保育園に送るのは私で、迎えは主に夫が担当しています。仕事から帰宅して子どもが寝るまではとても忙しく、高齢の私にとってはハードな毎日です。また、子どもの予防接種や急な体調不良に対応する必要があるので、会社の制度を利用しながら何とか両立しています。

3.育児・介護サービスの利用状況

 共働きなので、育児サービスとしてベビーシッターさんや保育園に子どもを預かってもらっていました。迎えに行く私が、仕事で帰りが遅くなることもあるのでとても助かりますし、安心できます。
 介護サービスでは「ショートステイ」「デイサービス」「特養」の3つを利用していました。基本的には妹の家で在宅介護をしていたので、妹家族の都合に合わせてショートステイ・デイサービスを活用していました。
 特養は何年も入居待ちだったのですが、要介護5の判定を受けるとすぐに入居が決定。妹の家からは徒歩圏内で、自転車ならすぐに行ける距離にあり、数年間お世話になりました。その特養は、ショートステイ・デイサービスでも利用経験があって母も馴染みがあったので、安心して入居させられました。

4.勤務先の支援体制、制度等の利用状況

 私が利用した制度は「休暇制度」です。結婚後、数年間は不妊治療に通院していたので「不妊治療休暇」を活用していました。治療で仕事に行けない日はあらかじめ休暇を申請するという仕組みです。
 出産前後には「産前産後休暇」「育児休業」を利用して、合わせて1年以上の休暇・休業を取得しました。仕事へ復帰した後は、子どもの予防接種・自治体の健康診断・急な体調不良のときに「看護休暇」を取得しています。看護休暇は1日でも時間単位でも取得可能なので、柔軟な働き方ができます。母が特養を退所して再び在宅介護になってからは「介護休暇」も使用しました。看護休暇と同様に、1日でも時間単位でも申請可能です。
 また、社のルールとして各種休暇取得には上司への報告が必要でした。不妊治療については、介護・育児休暇と異なり、言い出すのに心理的な葛藤があったことを覚えています。「報告することで自分が不妊治療をしていることを知られてしまう」「もし出産できなかったら治療してダメだったことを知られてしまう」という恐れが強く、取得に勇気を伴いました。上司は男性のときも女性のときもありましたが、報告はいずれもきちんと受け止めてもらえました。ただ、不妊治療についてこうした葛藤が常に伴うことは、当事者以外はなかなかわからないかもしれないと感じています。

5.仕事と育児・介護を両立できた理由

 仕事と育児・介護を両立できたのには5つの理由があります。
まず、上司への共有機会があったからです。不妊治療・介護・育児に対する職場の理解がなければ、仕事との両立は困難です。言いにくい内容もありましたが、上司が理解してくれたことで休暇取得のハードルが下がりました。
 2つ目は妹と妹家族の協力があったからです。もし私一人であれば、仕事も不妊治療も介護も育児も全て一人で抱え込む必要がありました。想像の域を出ませんが、最悪の場合、仕事か妊娠どちらかを諦めていたかもしれません。両立の実現には、夫が不妊治療・育児を自分ごととして考え、保育園のお迎えは主に夫が担当するなどしてきたことも大きく影響しています。
 3つ目は会社の休暇制度が整備されていたからです。不妊治療・産前産後・育児・看護・介護と様々なケースに対応していたので、時間的な理由で仕事との両立を諦めることはありませんでした。
 4つ目は外部のサポートサービスの存在です。育児にせよ介護にせよ、ベビーシッターやデイサービスあるいは訪問介護に頼ることで負担が大きく軽減されるほか、悩みなども相談できるため、安心して仕事と両立することができています。
 最後は先輩ママ・パパが近くにいたからです。私は高齢出産でしたが、母親としてはわからないことばかりでとても苦労しました。ただ、職場に先輩ママ・パパがいたため、わからないことはいつでも聞ける会社の風土に助けられました。

6.仕事と育児・介護の両立の際の苦労

 妹の育児・介護のストレスケアも必要でした。直接母の介護をしていたのは妹で、妹には思春期の子どももいたため、精神的・身体的負担は相当かかっていたと思います。私も仕事をしながら不妊治療をしていたので、時間的にも金銭的にも余裕がありませんでした。そのため、直接母の介護ができずに「申し訳ない」という気持ちがあったのを覚えています。
 妹の負担を軽減するためにも特養入居の話が出ましたが、近くの特養には空きがなく、何年も入居待ちの状態が続きました。有料老人ホームに関しては入居費用が高額で、不妊治療を受けていた私が支援するには大きすぎる金額だったのです。空きがある地方の特養も候補に挙がりましたが、「見知らぬ土地に母を一人にするのは心配」ということで施設に入居しない期間が長く続きました。
 子どもが生まれてからの仕事と育児の両立に関しては、親のサポートが受けられなかったため苦労しました。実母は要介護で、実父は子どもの頃に他界しています。義父母も高齢かつ地方に住んでいたため、育児のサポートを依頼できない状態でした。
産休・育休を経てフルタイム勤務に戻ってからは、毎日仕事と育児の繰り返しで身体的に疲れてしまうことがあります。夜遅くまで働くことがあるため、子供を寝かしつけた後にはもう体力が残っていません。また、子どもが急に体調不良になることもあるので、保育園から「具合が悪くなったので来てください」と急に連絡が来ることもあります。

7.育児・介護を行う労働者へのアドバイス

 育児・介護のダブルケアを行う人は、自分一人で抱え込みすぎてしまう傾向があります。私の妹も育児と介護で精神的にも身体的にも疲弊していました。私は妹のはけ口になっていましたが、周りに相談に乗ってくれる人がいない人もいるはずです。実は、育児・介護の悩みを相談できる窓口はたくさんあります。国・各自治体・民間企業などから様々な相談窓口が用意されているのです。
 仕事と育児・介護の両立の大変さは当事者にしかわからない部分が多いですし、ダブルケアの経験を持つ「良き理解者」が都合よく近くにいるとは限りません。職場の理解が得られず、休暇制度を取得しにくい人もいるでしょう。一人で抱え込んでしまうと、普段は絶対しない判断を下してしまう可能性もあります。話を聞いてもらうだけでもストレスが緩和されるので、仕事と育児・介護を両立している方は話を聞いてもらう機会を作るといいと思います。

引用・参考資料
(1)厚生労働省「要介護認定はどのように行われるか」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/nintei/gaiyo2.html

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